生殖補助医療(ART)治療中の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の胚は染色体異常胚の危険性が上昇する可能性がある

本日は”PCOS患者さんの胚は染色体異常胚の危険性が上昇する可能性がある。”という報告をご紹介いたします。




多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢の女性によく見られる内分泌障害で、生殖年齢の女性の6〜25%が罹患しています。 PCOSは、無排卵、アンドロゲン過剰、多嚢胞性卵巣、多毛などをみることがあります。
PCOSは、PCOSでない女性よりも8〜10倍生殖補助技術(ART)を必要とします。PCOSでは、受精率の低下と早期の流産リスクが高く、卵・胚の質が悪いことが報告されています。対照被験者と比較して、胚における染色体異常の原因と見なされる多核の増加が、PCOS女性の2細胞期胚において報告されています。
PCOSの流産組織の染色体異常の高さの正確なメカニズムは不明ですが、血清LHレベルの上昇により、第一極体の押し出し損ない、そして最終的には胚の異数性をもたらすといったり、卵母細胞の代謝、遺伝的原因など報告もあります。
この研究では、PCOSと非PCOS患者の早期流産についてSNPアレイ分析を行っています。この研究の目的は、PCOSと胚染色体異常との関係を評価することでした。


328人の参加者は、PCOSグループと非PCOSグループに分けられました。 2003年のロッテルダムのコンセンサスにより、PCOS群に分けされた。
流産組織を抽出しDNAを、Human CytoSNP-12v.21 Array(Illumina)を用いてSNPアレイ分析にかけています。


<結果>
328の絨毛遺伝検査はSNPアレイ分析で行われた。 52.7%(328のうち173)の絨毛が異常核型を示していました。 検出された染色体異常には、トリソミー、モノソミー、三倍性、構造異常、およびモザイク現象が含まれていました。 染色体異常を伴う絨毛の約91.3%において、遺伝的異常が流産の原因であると予測されました。


すべての異常のうちのトリソミーが55.5%を占めていました(96/173)。 単一染色体トリソミーが全トリソミー症例の85.3%(81/96)を占め、そして5.3%(5/96)が多発性トリソミーであった。トリソミー症例の残りの10.5%(10/96)では、微小欠失または微小重複が確認されました。 単一染色体トリソミーの中で、16トリソミーが最も多く(29/81; 35.8%)、次いで22トリソミー(14/81、17.3%)が続きました。


モノソミーは173サンプル中16サンプル(9.2%)で観察され、このうち68.8%(11/16)は染色体Xで発生し、常染色体モノソミーは5症例で確認され、そのすべてが21染色体に関連していました。


構造異常は、7サンプルの欠失、15サンプルの重複と10サンプルの複雑異常(同じまたは異なる染色体の2つ以上の重複または欠失)を含む32サンプルの正倍数性の流産(発見された異常の18.5%)で見つかりました。


三倍体性は14サンプルにおいてみられ、6サンプル:69,XXY、7サンプル:69,XXX、1サンプル:69,XYYでした。


モザイク現象は、14サンプルにおいてみられ、トリソミー:6サンプル、重複または欠失:6サンプル、トリソミーおよび重複:1サンプル、UPDおよびトリソミー:1サンプルでした。


PCOS群の流産における異常核型の頻度は、非PCOS群より有意に高い結果でした(61.3%対47.8%; P = 0.01)。染色体異常の胎児発達の潜在的な危険因子を決定するために、単変量および多変量解析が行われPCOSが染色体異常を伴う流産の独立危険因子であることを示されました。 PCOS患者さんの流産は、異常核型を発症する可能性が約2倍高い結果でした。


<まとめ>
ART中のPCOS女性は、非PCOSと比較して染色体異常胚の流産の危険性が高いという結果でした。

妊娠初期の出血に対するプロゲステロンの効果

流産は約20%ほどに発生すると報告されています。流産は、出血、感染症、外科的治療に伴う合併症、さらには不安、鬱病、心的外傷後ストレス障害などの重大な心理的危害を引き起こす可能性があります。
卵巣の黄体により産生されるプロゲステロンは、胚の着床に必要であり、妊娠に不可欠なホルモンであります。胚が子宮内膜に着床後、胎盤発生早期にプロゲステロンが産生され、その後胎盤はプロゲステロンの主な供給源になります。


コクランレビューによると妊娠初期の出血を伴う女性を対象とした7件のランダム化試験のうち6件がプロゲステロンを投与された女性の方がプラセボを投与された女性よりも有意に流産リスクが低くなったと示されました。しかし、この試験は小規模でありプロゲステロン投与による流産リスクの軽減には決定的な証拠は欠けています。
他のコクランレビューによると3回の流産を経験したことのある女性は、妊娠初期のプロゲステロン療法の効果がある可能性を報告しています。


本日は2019年5月 The New England Journal of Medicine 
”A Randomized Trial of Progesterone in Women with Bleeding in Early Pregnancy”
をご紹介いたします。


この研究はプロゲステロン治療がプラセボよりも妊娠初期の出血を伴う女性において生児獲得率の改善をもたらすかを調べるために、多施設、無作為化、パラレル、二重盲検、プラセボ対照試験を実施しています。


<結果>
対象:16〜39歳で、妊娠12週未満で出血を呈し、超音波検査で子宮内に胎嚢みられるもの
無作為化の時点から妊娠16週まで、400 mgの微粉化プロゲステロン(Utrogestan、Besins Healthcare)またはプラセボを含む1:1の割合で無作為に割り当てられた。
主な転帰は妊娠 34 週以降の生児獲得率としています。


<結果>
合計12,862人がこの試験に適正であるとされました。 このうち、4153人がプロゲステロン(2079人の女性)、プラセボ(2074人の女性)に無作為に割り当てられ、主要転帰について入手可能なデータを有する女性の割合は97%(4153人中4038人の女性)でした。
34週以降の生児獲得率は、プロゲステロン群で75%(2025人中1513人)、プラセボ群で72%(2013人中1459人)であり欠落データを補完した感度分析では、結果は変わりませんでした。
12週の妊娠継続率は、プロゲステロン群で83%(2025人中1672人)、プラセボ群で80%(2013人中1602人)(相対率1.04、95%CI、1.01〜1.07)とプロゲステロン群の方が有意に高い結果でした。。
流産率は、プロゲステロン群で20%(2025人中410人)、プラセボ群で22%(2013年人中451人)であり両群変わりませんでした(相対率0.91; 95%CI、0.81〜1.01)。
3回以上の流産既往のあるの生児獲得率は、プロゲステロン群で72%、プラセボ群で57%と有意差を認めました(相対率1.28、95%CI、1.08〜1.51)。
母体または新生児の重篤な有害事象の発現率に群間で有意差は認められませんでした(プロゲステロン群で5%[2025人中105人]、プラセボ群で5%[2013人中98人])。


<結論>
この大規模な多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、妊娠初期の出血のある女性において、妊娠初期にプロゲステロン療法を行っても妊娠34週以降の生児獲得率は改善させませんでした。また、流産や死産の発生率についても、グループ間に有意差はありませんでした。
ただ、この報告によると3回以上の流産既往のあるの女性を対象とした場合、プロゲステロン投与で生児獲得率を改善させる可能性があるようです。

若い女性の単一遺伝子性疾患に対する着床前遺伝子検査における異数性スクリーニングの役割

着床前診断は、重篤な遺伝疾患を対象とするPGT-Mと染色体の数的異常を調べるPGT-Aがあります。


染色体異常は妊娠初期流産の最も多い原因であり、自然流産の50%以上を占めると報告されています。さらに、異数性は、体外受精の着床不全の主な原因の1つであることがわかっております。
また異数性は、年齢が上がるにつれて劇的に増加することが知られています。ある研究では、35〜39歳の女性から得られた胚盤胞のほぼ半分が異数性であり、 40〜42歳の女性から得られた胚盤胞の約3分の242歳以上の女性から得られた胚盤胞の約80〜90%が異数性であると報告されています。


そこで理論的には、PGT-Aで正倍数体胚を選択することで、(特に35歳以上の女性において)妊娠率を高め、流産率を低下させ、そして最終的には生児獲得率を高める可能性があります。
多施設無作為化試験では、38〜41歳の女性のPGT-Aは、異数性スクリーニングなしで胚盤胞移植を受けた女性と比較して、初回胚移植後の流産率を低下させ生児獲得率を増加させた。しかし、2つのグループ間で累積分娩率に差はなかったという結果でした。
若い女性に対するPGT-Aの利点を調査したランダム化臨床試験は1件のみで、胚盤胞の異数性スクリーニングは着床率を有意に増加させ、その後の凍結/融解胚移植(FET)における流産を減らすことができるという結果でした。


しかし、生検および凍結における胚の損傷やモザイクの診断など、PGT-Aは着床したかもしれない胚を失っている可能性もあります。


今回2019年5月 Fertility and Sterilty
”Role of aneuploidy screening in preimplantation genetic testing for monogenic diseases in young women ”
をご紹介します。


この報告は、今までの対照群とは異なり、PGT-Mを行ったの中で対照群が同じ胚盤胞生検手順を行ったが単一遺伝子疾患における着床前診断のみを行った(異数性スクリーニングなし)若い女性としています。この異数性スクリーニングを行っていないPGT-Mと異数性スクリーニングを行ったPGT-Mを比較し若い女性のPGT-Mにおける異数性スクリーニングがFETの臨床成績を改善したかどうかを評価しています。



異数性スクリーニング・PGT-Mを受けた異数性スクリーニング(AS)群、および胚異数性スクリーニングなしでPGT-Mを受けた非AS群に分類しました。


<初回ETの妊娠転帰>
初回ETでは、AS群 98 FETサイクル、非AS群 266 FETサイクルを対象としています。交絡因子調整後、着床率は、AS群のほうが非AS群よりも1.874倍高くなり、流産率は、AS群のほうが非AS群よりも0.177倍となり、生児獲得率は、AS群の方が非AS群よりも2.073倍高くなりました。


<累積の妊娠転帰>
交絡因子調整後、累積生児獲得率・累積継続妊娠率は、有意差はありませんでしたが、着床率は、AS群の方が非AS群より1.639倍高い結果でした。流産率はAS群で0.306倍となりました。


<妊娠までの期間>
初回ETから継続妊娠までの平均期間は、非AS群と比較してAS群で有意に短く、 さらに、ASグループは非ASグループよりも移植回数が少ない結果でした。


結論
異数性スクリーニングは、初回FETサイクルで単一遺伝子疾患の若い女性の継続妊娠/生児獲得率および着床率を有意に改善し、流産率は有意に減少しました。しかし、2グループ間で累積生児獲得率に差をみとめませんでしたが、PGT-Mの異数性スクリーニングは初回ETから継続妊娠までの時間を短縮しました。


この報告は、胚生検を行った群同士で異数性スクリーニングをした群としなかった群の検討で、若い女性を対象としても初回ETの妊娠転帰が改善したという報告でした。妊娠までの時間を短縮しましたが、累積生児獲得率に差をみとめないという結論でした。

経時的形態動態と使用済み胚培養培地の酸化状態を組み合わせた新しい非侵襲的胚選択アルゴリズム

みなさんこんにちは


今回
経時的形態動態と使用済み胚培養培地の酸化状態を組み合わせた新しい非侵襲的胚選択法
を示した報告をご紹介します。


2019年5月 Fertility and Sterilty
”Novel noninvasive embryo selection algorithm combining time-lapse morphokinetics and oxidative status of the spent embryo culture medium”


胚の評価は、現在のところ形態学的評価が最適な方法となっています。しかし、形態学的評価は常に高品質の胚を示しているわけではなく、正倍数性を予測することはできません。


胚の質を評価する方法として着床前遺伝子スクリーニングによるものがあります。染色体が正常な胚を同定するための技術ですが、生検の手順が侵襲的でモザイクの危険性もあります。


非侵襲的技術としてピルビン酸塩、グルコース、乳酸、またはアミノ酸の代謝レベル、酸素消費を評価したりすることができるますが、コスト、必要な時間、手順の複雑さ、専門性の高さのため一般診療には適していません。


今回の報告はタイムラプスを使用した形態動態解析と培養液の酸化状態を組み合わせせ胚選択アルゴリズムを作成し非侵襲的ツールとして検証しています。



505個のドナー胚の使用済み胚培養培地を分析しています。
酸化状態分析のため、培養5日目の培養液をTCLアナライザーを用いて調べています。350〜600nmの波長範囲で300秒間、連続的なフォトンカウンティングを行い、著者の経験的に選択したH1(55秒での振幅)、H2(155秒での振幅)、およびH3(255秒での振幅)とし酸化ストレスと着床能について評価しています。


廃棄された胚の培養液の酸化状態と比較して、移植および凍結できた胚からの培地中で統計的に有意に高い結果でした。さらに着床した移植胚盤胞培養液もまた、着床しなかった培養液と比較して統計的に有意に高い酸化状態でありました。


ロジスティック回帰で、妊娠の最も予測的パラメーターとしてH2sm(H2平滑化アルゴリズム)を同定し、閾値H2smレベルが92.96 cps以上であれば、着床成功率の統計的に有意な増加と関連していました。
このロジスティック回帰分析結果のH2smと形態動態学的パラメータを組み合わせて、6つのカテゴリーに分れられました。



形態動態学的パラメータで分類し、次にH2smが92.96 cps以上かどうかで分類。
一番良好であればGradeAとし着床率が76.5%、B:68.8%、C:61.1%、D:57.9%、E:54.3%、F:29.2%とGradeが悪くなれば着床率が低下していました。


簡単に説明すると、タイムラプスで良好に発育している胚と酸化状態で6つにグループ分けし、形態動態良好で培養液の酸化ストレスの多い方が着床率が高いという結果でした。
形態動態学および胚培地の酸化状態を組み合わせたアルゴリズムは、現在の胚選択法の基準および体外受精の改善に役立ち得るのではないかと結論付けていました。

胚培養液をラマン分光法により分析し、胚正倍数性を予想する

みなさんこんにちは


今回
”胚培養液をラマン分光法により分析することで胚の正倍数性を迅速に低侵襲、低価格で予測できるのではないか”
という報告をご紹介します。


2019年4月 Fertility and Sterilty
”Raman profiling of embryo culture medium to identify aneuploid and euploid embryos”


着床前遺伝子検査(PGT − A)法は、胚の栄養外胚葉より細胞1個から数個の細胞を取り出し、次世代シークエンシング(NGS)技術またはアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーションにて検査を行います。NGSは正確ですが、侵襲的で時間がかかり、胚にダメージを与える可能性があります。


胚培養培地の培地中の代謝産物を測定することは、迅速、非侵襲的、感度が高く、臨床的に適用可能なプラットフォームを用いた胚の生殖能力を評価するための一つのアプローチであります。


この報告はラマン分光法という方法で、胚培養液の代謝産物を測定し、PGT-Aで正常胚・異数性と診断した結果を比較しています。


ラマン分析プロトコルを確立するために、87個の使用済み胚培養培地試料を収集した。 PGT − Aの結果により、正倍数性(n = 54)または異数性(n = 33)に分類されました。33個の異数性(165個のスペクトル)および54個の正倍数性(270個のスペクトル)のラマンスペクトルが得られ、さらに5回繰り返して測定し、220個の正倍数性スペクトルおよび165個の異数性スペクトルが得られました。
(ラマンスペクトルのデータ処理と解析法、機械学習スタッキング分類については省略します。)
培地対照群と比較して、正倍数性および異数性由来の胚培養培地は、胚の代謝活性が有意に異なっていました。低分子RNAおよび脂質に関連するラマンバンドの有意差も観察されました。ラマンスペクトルに基づいて正倍数性または異数性のいずれかを正しく割り当てる精度は95.9%を達成したということです。



胚の培養液を調べることで、正倍数性か異数性かを精度が高く予測できるかもしれません。PGA-Tは胚に侵襲的で検査も高価です。ラマン分析は1サンプルにつき5分かかり、費用は1サンプルにつき20ドルで行うことができるようです。


非常に興味深い報告です。
症例を増やし、大規模な研究が待たれます。