フォリトロピン デルタを使用した場合、刺激法の違いで臨床成績に影響するか

フォリトロピン デルタは、ヒト細胞株から抽出された組み換え卵胞刺激ホルモン(rFSH)です。このフォリトロピン デルタは体重とAMHを利用して投与量を決定します。このフォリトロピン デルタを用いて刺激方法の違いで臨床成績に影響するか調査した報告をご紹介します。


Human Reproduction, 2024, 39(7), 1481–1494


GnRH アゴニスト(GnRHa)とアンタゴニストは、卵巣刺激中の早期黄体化および排卵を防ぐために使用されます。GnRH アゴニスト(GnRHa)とアンタゴニストの刺激方法で採卵数や生児出生率などの臨床成績も同等です。2020年にESHRE は、有効性が同等だが、安全性の点から、GnRHa法よりも GnRH アンタゴニスト 法を推奨する国際ガイドラインを発表しました。この推奨は、卵巣過剰刺激症候群 (OHSS) のリスクがあるため、正常から刺激の反応が良い方を対象としますが、低反応者には両方のプロトコルが同様に推奨されます。


 この報告のBEYOND 試験は、出産後 4 週間までの追跡期間を含む、GnRHa法と GnRH アンタゴニスト法の個別化固定用量フォリトロピン デルタ治療が卵巣反応と臨床成績に及ぼす影響を評価しています。



 437 人がランダム化され、221 人が GnRHaプロトコール、216 人が GnRH アンタゴニスト法に振り分けられました。


卵巣の反応:平均採卵数は、GnRHaプロトコールで11.1個、アンタゴニスト法で9.6 個でした。さらに、35 歳未満では、1.5 個多く、正常/高卵巣予備能(AMH 15~35 pmol)の女性では、推定平均差は1.7個多く採卵される結果でした。
年齢別に分析すると、35歳未満ではGnRHaプロトコールが有意に採卵数が多い結果でした。35〜37歳または38〜40歳では、GnRHaプロトコールとアンタゴニスト法の平均採卵数は同等でした。


胚盤胞の質:
良好胚盤胞数は、両グループで同程度でした。


安全性:
有害事象、重篤な有害事象の割合は、GnRHaプロトコールとアンタゴニスト法の両方で同程度でした。


妊娠と生児出産:
卵巣刺激を開始した参加者のうち、βhCG 陽性率はGnRHaプロトコール とアンタゴニスト法でそれぞれ 45.0% (91/202) と 38.7% (79/204) で、継続中の妊娠率はそれぞれ 36.1% (73/202) と 29.4% (60/204) でした (どちらも有意差はありませんでした)。両グループ間で早期流産率に有意差はありませんでした。


AMH 15~35 pmol/lの参加者では、GnRHaプロトコール群(35.6% [42/128])の方がアンタゴニスト群(26.2% [28/113])よりも継続妊娠率が高い結果でした。また、35歳未満の参加者では、GnRHaプロトコール群(40.8% [53/143])の方がアンタゴニスト群(30.5% [40/139])よりも継続妊娠率が高い結果でした。(ただし、統計的に有意はありません)


周期あたりの推定生児出生率は、GnRHaプロトコール群とアンタゴニスト群で 35.8% と 28.7% でした (P = 0.1265)。


新生児について:
生児は 135 人で、GnRHaプロトコール群が 75 人、アンタゴニスト 群が 60 人でした。2 つの治療グループは、単胎および双胎の新生児健康データと先天性奇形の発生率 (GnRHaプロトコール群で 2/75 [2.7%]、アンタゴニスト群で 2/60 [3.3%]) に関して同等でした。



結論
AMH ≤35 pmol/l の女性では、フォリトロピン デルタの固定 1 日用量 (体重と AMH に応じて個別化) により、GnRHaプロトコールとして使用した場合、アンタゴニスト法と比較して、採卵数が有意に増加しました (推定平均差 1.3個)。また、初回の新鮮胚移植後の継続妊娠と生児出生率は、GnRHプロトコールとアンタゴニスト法で数値的に 7% 高くなりました (ただし、統計的に有意はありません)。さらに、フォリトロピン デルタの個別投与を 安全性、OHSS のリスクも両群変わりありませんでした。また、フォリトロピン デルタによる卵巣刺激は新生児の安全性に影響はありませんでした。

採卵直後に精漿を膣内に注入したら、生児獲得率は変わるか?

採卵直後に精漿を膣内に注入したら、生児獲得率や臨床妊娠率は上昇するか検討した報告をご紹介します。


Fertil Steril® Vol. 122, No. 1, July 2024 0015-0282


 動物やヒトで精漿中に子宮内膜の受容性を変化させる免疫活性因子(炎症誘発性サイトカイン(例:インターフェロン-ɣ、インターロイキン-6、-8))や、胚に対する免疫寛容を高める物質(例:形質転換成長因子-β)などがあると報告されています。
 Saccone らによるメタ分析では、卵子採取 (OPU) 時に精漿を膣内および子宮頸管内に注入することで妊娠率の上昇に関連性が報告されましたが、生児獲得率は増加しなかったため、さらなる研究が必要となります。
 そのためこの報告は、採卵直後に精漿もしくは生理食塩水を膣内に注入し、生児獲得率や妊娠率が変わるか比較検討しています。


1から3回目の体外受精治療を受け、採卵後2−5日後に新鮮胚移植を行なった方を対象としています。グレードが悪ければ2個移植も行なっているようです。


結果
合計 792 組のカップルが対象となり、そのうち 393 組 (49.6%) が精漿による治療に、399 組 (50.4%) が生理食塩水 (対照) による治療に割り当てられました。


移植日については介入群間で差はありませんでした。5日目に移植した人は32.5%と30.2% (P=.82) でした。5日目に移植するとLBRが高くなるため、移植日だけでなく女性の年齢と移植胚数に合わせて調整されました。


精漿群では、妊娠反応陽性:35.4%、臨床妊娠:28.8%、生児獲得率:26.5%でした。生理食塩水群では、妊娠反応陽性:37.3%、臨床妊娠:33.6%、生児獲得率:29.8%でした。 生児獲得率の調整済み RR は 0.86 (95% CI 0.70–1.07)、妊娠反応陽性は 0.93 (95% CI 0.78–1.10)、心拍確認妊娠は 1.00 (95% CI 0.97–1.03) でした。つまり、2 群間 (精漿 vs. 生理食塩水) で、統計的に有意な差はありませんでした。


結論
 採卵直後に精漿もしくは生理食塩水を膣内に注入しても、生児獲得率や臨床妊娠率は上昇しませんでした。



ただ、精漿中のサイトカイン濃度が異なると、子宮内膜で異なる反応が生じる可能性があると考えられました。

顕微授精の予後

顕微授精(ICSI)が胎児の奇形リスクを高めるかどうかを調査した報告が発表されましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 121, No. 6, June 2024 0015-0282


 受精の方法と二通りあり、卵子に精子をふりかけて受精させる体外受精(cIVF)と1つの卵子に1匹の精子を注入する顕微授精(ICSI)があります。ICSIは男性不妊症に対し行われますが、cIVFで完全受精障害や受精率25%未満の低受精率のカップルにおいても、​​ICSIが適切な選択肢であるとWesterlaken Lらは報告しています。
 現在、重度の男性因子のない不妊カップルにもICSIを行うケースが増えています。しかし、cIVFとは異なり、ICSIは侵襲的な手順であり、その安全性が注目されています。ICSI で妊娠した子供は、先天性奇形 、エピジェネティック異常、成長・発達障害 (ベイリー精神発達指数スコアの低下、肥満、言語発達前の行動障害など) のリスクが高いことが報告されています。ただ、先天性奇形は変わらないという報告、染色体異常、新生児期以降の子の健康状態 (神経発達、成長、視力、聴力など) に関して、ICSI はcIVFと同程度の安全性であることが示されています。より大規模なデータと厳密なデータ処理方法に基づいて、ICSI の安全性を評価する必要があります。
 そこで、約8万サイクルを含む単一施設の後ろ向きコホート研究を実施し、妊娠転帰と新生児転帰をcIVFと比較することでICSIの安全性を評価し、ICSIが胎児と生児の奇形リスクを高めるかどうかを調査しております。



結果
すべて新鮮胚移植が行われています。合計 46,167 回のcIVF 周期と 33,247 回の ICSI 周期が対象となりました。合計 18,823 回のcIVF 周期と 13,373 回の ICSI 周期で臨床妊娠が成立しました。合計 14,713 回のcIVF周期と 10,615 回の ICSI 周期で生児が誕生しました。



・生児における先天異常の比較
 cIVFとICSIで生まれた児において、先天異常(0.544% vs. 0.578%)のリスクは同等でした。


 先天異常は、単胎と双胎でcIVF グループと ICSI グループ間で比較されました。出生児の先天異常率は、単胎においてcIVF:0.460%、ICSI:0.415%で、双胎においてcIVF:0.655%、ICSI:0.7975%に増加しましたが、cIVFとICSIの先天異常のリスクに差は見られませんでした。


・妊娠と新生児の結果の比較


 移植周期では、hCG陽性率(46.10% vs. 45.65%)、臨床妊娠率(40.80% vs. 40.22%)、生児出生率(31.87% vs. 31.93%)は、両群で同等でした。臨床妊娠周期では、妊娠糖尿病(0.49% vs. 0.36%)、妊娠中の高血圧性疾患(0.78% vs. 0.72%)、前置胎盤(0.36% vs. 0.37%)、帝王切開(61.81% vs. 62.47%)、一卵性双胎分娩(0.80% vs. 0.64%)は、両群で同等でした。
 妊娠転帰は、cIVF群とICSI群で、流産率(16.15% vs. 15.56%)、流産中の奇形率(0.494% vs. 0.516%)、流産中の11の奇形率(神経系の奇形、頭頸部の奇形、循環器系の奇形、呼吸器系の奇形、口唇裂および口蓋裂、消化器系の奇形、生殖器系の奇形、泌尿器系の奇形、筋骨格系の奇形、染色体異常を含む)に有意差はありませんでした。ICSI群の早産の割合は、cIVF群よりも有意に低かった(20.72% vs. 22.64%)。早産(32~36週)の割合は、ICSI群の方が従来のIVF患者よりも低かった(18.49% vs. 20.41%)が、早産率(32週未満)は両群で同等であった。cIVF群とICSI群で出生体重に差はありませんでした(2,977.41 g vs. 2,988.28 g)。ICSI後の性比(男児数/総児数)は、cIVFよりも低かった(49.51% vs. 53.66%)。


結論
この研究は、妊娠転帰と新生児転帰をcIVFとICSI を比較することで ICSI の安全性を評価するために、大規模な単一施設のコホート研究を実施しました。この研究では、妊娠転帰と新生児転帰で ICSI はcIVF と同等の成績を示しました。児の先天異常の発生率も、cIVF と ICSI で同程度でした。

正常受精が確認できていない胚盤胞

 「正常な受精」は、2 つの前核と 2 つの極体が存在することとして定義されます。 このような正常な受精が確認できなかった胚に由来する、非前核胚(0PN)、単前核胚(1PN)および三前核胚(3PN)から生じる胚に関する証拠は不足している。低グレード胚盤胞と同様、非 2PN 胚しか移植できない場合もあります。
 このような非2PN胚についてのレビューが発表されましたのでご報告いたします。


What happens to abnormally fertilized embryos? A scoping review 
RBMO VOLUME 46 ISSUE 5 2023


 まず、非 2PN 胚盤胞の発生率は、体外受精で2PN 率が 65 ~ 80% ですが、1PN の発生率は 1 ~ 8%、3PNの発生率は 1 ~ 7% とPapale らが報告しています。 Chenらによると6466個の卵を対象とした研究では、0PNおよび1PN胚の11.2%および14.8%が良好胚盤胞を形成し、細胞質内精子注入(ICSI)と比較して体外受精(cIVF)後の方が高いことが報告されました。Arakiらによると胚盤胞発生率は、2PN胚と比較して、1PN胚では低く、良好胚盤胞率も低い結果でした。また、前核の大きさについては、大きい方が発育が良かったようです。
cIVF と ICSI について、Itoiらによると胚盤胞到達率は1PNが2PNよりも悪く (cIVF: 2PN 55.7% vs 1PN 21.4%、ICSI: 2PN 46.4% vs 1PN 10.7%) 、着床率は以下の通りでした (cIVF: 2PN 39.0% vs 1PN 33.3%、 ICSI: 2PN 46.7% vs 1PN 0%) 。 
 1PN 胚盤胞は、cIVF の 2PN 胚盤胞と比較して、着床率がわずかに低下しており (33.3% vs 39%)、継続妊娠率も低下していました。 PGT-Aを行なった報告では0PN 、1PN 由来の胚盤胞は2PN由来の胚盤胞と同様の臨床転帰であったという報告もあります。
 0PN 胚盤胞は、2PN 胚盤胞と比較して着床能が同等か低下していると予想されていますが証拠は不十分です。
 生児獲得率は、13 件の報告で発表されており、比較対象は研究ごとに異なり、 0 ~ 66.7% の範囲でありますが、研究が不均一であり明確ではありません。


 受精確認は、観察時間により前核が確認できないこともあります。cIVF後 2 ~ 3 時間後に卵丘細胞を裸化するショートプロトコールとタイムラプス培養器を組み合わせると、前核を観察できる機会が向上されます。小林らの報告によると、タイムラプス培養器で胚を観察した報告では、0PN由来の胚盤胞は、前核を形成していないのではなく、単に早期にした前核が消失した2PNであることが示唆されています。


 当然のことながら、2PN由来の胚が理想的で優先的に移植されますが、cIVFによる1PN由来の胚盤胞しかなければ、移植の選択肢とするのも許容されるかもしれません。ただ、非2PN由来胚の妊娠が出生前や周産期に合併症を起こす可能性が高いかどうかは現時点では不明であります。また、2016 年の ESHRE 改訂ガイドラインでは、「3PN 以上に由来する胚は決して移植、凍結保存すべきではない」と記載されている。続けて、「たとえ2PN由来の移植可能な胚がない場合でも、1PNまたは0PN由来の胚の使用は推奨されない」と述べています。

PCOSでAMHが高値であればFSH投与量が増加する?

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS)の方で抗ミュラー管ホルモン(AMH)が高値であれば、FSH注射の反応が悪くなる可能性があるという報告をご紹介いたします。


Huang et al. Reproductive Biology and Endocrinology (2023) 21:121


 多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) は、生殖年齢の女性の 5 ~ 20% が罹患している排卵障害を引き起こす原因の一つです。Tummonらの報告によると、PCOSの場合、卵巣過剰刺激症候群を引き起こす可能性は 一般と比較すると6.8倍上がることがわかりました。AMH(抗ミューラー管ホルモン)が、ゴナドトロピンの卵巣刺激への反応性を予測する因子としてあげられます。AMHが著しく上昇しているPCOS女性は、クエン酸クロミフェンまたはHMGによる排卵誘発に抵抗性があるようであり、開始用量が多く必要となる可能性がいくつか報告されています。AMH > 4.6 ng/mlのPCOS症例はHMG刺激に耐性があり、ARTサイクル中に用量の増量が必要であることがKamel Aらが報告しました。
 この研究は、PCOS 患者さんの IVF/ICSI に対する卵巣刺激に反応するか、rFSH の開始用量を増やす必要性があるかを AMH値により予測できるか調べています。



825人のPCOS患者さんを対象とし、FSHの初回投与量は、BMIとAMH、卵巣にみえる小卵胞の数により調整しています。反応性が確認できるまで、24 ~ 48 時間後に25 ~ 50 IU 増量するか判断されていました。


<結果>
 825 人中508人は初期rFSH用量を増量しなかった(グループA)、317人は初期rFSH用量を増量する必要がありました(グループB)。 rFSH の初期用量を増やす必要があった PCOS 女性は、AFC、BMI、血清 T 濃度が高い結果でした。AMHレベルは、グループBが、グループAよりも有意に高い結果でした。


 多変量解析では、AMHとBMIが高くなれば、投与量の増量が必要になることが示されました。次にAMH のカットオフ値を設定するため、ROC 曲線を作成しています。AMH のカットオフ値は 9.30ng/ml で、感度は 75.4%、特異度は 63.0% でした。


 9.30ng/mlにカットオフ値を用いて、2群に分けたところ、AMH > 9.30 ng/ml群 の 58.8%、AMH ≤ 9.30ng/ml群 の18.8%と比較して、rFSH 用量の増量が必要でありました。 臨床妊娠率と出生率に有意な差はありませんでしたが、AMH > 9.30 ng/mlの女性では卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生率が高い結果でした(20.8% vs. 15.3%)。


<まとめ>
 この研究によると、血清AMHが9.5 ng/mlを超えるPCOS女性は、十分な卵胞発育するための初期rFSH用量の増量が必要でありました。このことは、過剰なAMHがrFSHに対する卵巣反応と「負の」相関があることがわかりました。臨床妊娠率と出生率は両群同様ですが、AMH が高い患者では OHSS 率が大幅に高いことが示されました。



 考えられる要因としては、Hayes Eらのin vitroの研究では、AMH が休止中の原始卵胞プールからの卵胞の発育を阻害し、FSH 刺激による前胞状卵胞の成長を減弱させることが示されました。 Chang HMやPellatt Lらの報告では、高濃度の AMH で培養されたヒト顆粒膜細胞は、アロマターゼ活性の阻害と FSH に対する卵胞の反応性の低下を示しました。 PCOS 女性に存在する高 AMH 濃度は、FSH の作用に対する阻害的な影響により、卵胞形成のプロセスに有害であると考えられます。