"poor responder"において卵巣刺激を変更する必要があるか?

 注射に対する卵巣の反応が悪い"poor responder"においてどういう卵巣刺激のプロトコールが最適であるか、また、初回採卵後、次の刺激は他のプロトコールに変更することにより良い結果につながるかどうかはわかりません。卵巣刺激・排卵抑制のため、さまざま薬剤がありますが、ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬(GnRHa)のフレアプロトコール(「フレア」)は、低用量のロイプロリド(リュープロン)を投与することで下垂体に働きかけ内因性の卵胞刺激ホルモン(FSH)産生を刺激すると、卵巣のFSHに対する反応性が高まると考えられているため、注射の反応が悪い方に使用されることがあります。また、ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニストプロトコル(「アンタゴニスト」)は、LHサージを抑制し排卵抑制を行う方法ですが、どちらのプロトコールが"poor responder"にあっているかは結論が出ていません。



因果分析技術と、生殖補助医療協会報告システム (SART CORS) のデータベースからデータを利用して、反応の悪い"poor responder"にとって”フレア”と”アンタゴニスト”のどちらのプロトコールが良いかを調査した報告をご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 120, No. 2, August 2023 0015-0282


初回体外受精サイクルを行っている抗ミュラー管ホルモン [AMH]<0.5 ng/mLの方を対象に調査しています。 次に、反応が悪かった初回体外受精サイクル(採卵個数が 4 個未満)と2 回目のサイクルについては別々に検討されました。採卵数、受精卵母細胞(2PN)、総胚盤胞、累積生児出生率(CLBR)、および周期キャンセル率が比較検討されました。



フレア サイクル(N = 5,263 )と アンタゴニスト サイクル(N = 14,818 )が分析されました。


(1) アンタゴニストで採卵数4 つ未満の群で、その後にアンタゴニストを継続した群 (N = 2,354)、フレアに変更した群(N = 952人)
(2)フレアサイクルで採卵数4 つ未満の群で、その後もフレアを継続した群(N = 409)、アンタゴニストに変更した群(N = 445)
に分類されました。



結果
初回体外受精サイクル分析の結果
 アンタゴニストプロトコルでの反応不良群(AMH<0.5ng/mL)において、フレアプロトコルと比較して、採卵数、2PN数、および胚盤胞数がわずかに多い結果でした。 ただ、統計的有意性を示していますが、治療効果は非常に小さく、臨床的に意味がないという解析でした。アンタゴニストでの反応不良群はフレアと比較して同様の累積生児獲得率を有し、サイクルのキャンセル率がわずかに低かった。 まとめると、これらの結果は、初回体外受精サイクルにおいて反応不良群は、フレアと比較してアンタゴニストで同様の臨床成績をもたらしました。


2 回目の体外受精サイクル分析の結果
 すべてのサブグループで、プロトコールに関係なく、初回サイクルと比べて 2回目のサイクルで転帰が改善しました。これは、2 サイクルを受けた患者は、1 サイクル目の成績が悪かった可能性が高いことを示しています。
 初回アンタゴニストサイクルで採卵数が 4 個未満の場合、フレアへの変更は、アンタゴニストを再度行う場合と転帰はかわりませんでした。 初回アンタゴニスト、2回目アンタゴニストの場合、平均 13.9% の累積生児獲得率の改善を示し、初回アンタゴニスト、2回目フレアへの場合は平均 14.4% の累積生児獲得率の改善を示しました。初回フレアサイクルで採卵数が 4 個未満の場合、アンタゴニストに切り替えると、採卵数、2PN数、胚盤胞数がさらに増加する傾向が見られましたが、出生率とキャンセル率には差はみられませんでした。
初回フレア、2回目アンタゴニストへの変更は平均 10.4%の累積生児獲得率の改善を示しました。初回フレア、2回目フレアの場合、平均 9.0% (95%) の累積生児獲得率の改善を示しました。まとめると、"poor responder"に対し、フレアとアンタゴニストは臨床成績は変わらない結果でした。


まとめ
 初回サイクルと 2回目サイクルにおいて、フレアと比較してアンタゴニストで臨床成績は変わらないということがわかりました。アンタゴニストのプロトコールはより簡単で、必要な注射の回数も少ないため、IVF を受ける効果の低い患者にとっては好ましい選択肢となる可能性があります。

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