AMHと流産の関係

非 PCOS および PCOS におけるAMHと流産に関して調査した報告をご紹介いたします。


Reproductive Biology and Endocrinology (2023) 21:35


 抗ミュラー管ホルモン (AMH) は、卵巣内の前胞状卵胞や小胞状卵胞の顆粒膜細胞より産生され、血清 AMH レベルは出生時から上昇し、20-25 歳前後で停滞し、その後は加齢とともに低下します。AMH は機能的な卵巣予備能のマーカーとして確立されています。多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) ではAMHレベルの上昇し、卵巣過剰刺激症候群 (OHSS) のリスクの増加と関連しています。ただ、AMH は妊娠・出産には関連がみられません。
 この目的は、生殖補助医療協会クリニック結果報告システム (SART CORS) データベースを用いて、非 PCOS および PCOS において、IVF/ICSI サイクルにおける流産率とAMH レベルが関連しているかどうかを調べることでした。


この研究に使用されたデータは SART CORS から取得されました。SART CORS データベースにより、2014 年から 2016 年の間に報告された 533,463 周期から、PCOS と AMH 上昇との関連性を考慮して、非 PCOS (58,303 サイクル) 患者と PCOS (8,490 サイクル) 患者に流産率を検討しました。


AMHに関しては、非 PCOS群は、PCOS群の平均 AMH が 6.1 ng/ml と比較して 2.8 ng/ml と低い結果でした。


・すべての不妊症患者について
66,793周期(非PCOS周期およびPCOS周期)での解析では、患者の平均年齢は34.3歳、平均 AMH は 3.2 ng/ml、移植胚の平均数は 1.8個でした。 不妊の原因に関係なく、すべての患者周期を検査した場合、年齢、BMI、移植胚数に関係なく、AMH < 1 ng/mlの場合、AMHレベルは流産率の増加と関連しなかった


・非PCOS患者
58,303周期での解析では、平均年齢は34.6歳、平均 AMH は 2.8 ng/ml、移植胚の平均数は 1.8個でした。 非PCOS周期では、年齢、BMI、移植胚数に関係なく、AMH < 1 ng/ml(OR 1.2、CI 1.1~1.3、p < 0.01)の流産率に有意差がありました。PCOS の有無にかかわらず周期における全体的な流産率は 16% でした。


・PCOS患者
8,490周期での解析では、平均年齢は32.4歳、平均 AMH は 6.1 ng/ml、移植胚の平均数は 1.7個でした。 AMH < 1 ng/mlの場合、年齢、BMI、移植胚数に関係なく、AMHレベルは流産率の増加と関連しなかった
非 PCOS 患者の AUC の 95% 信頼区間は 0.56 ~ 0.58、PCOS 患者の場合は 0.53 ~ 0.58 でした。 したがって、ROC 分析は、AMH が ART 後の流産の弱い独立した予測因子であることを示唆しました。


結論
AMH < 1 ng/mL は、ART を受けている非 PCOS 不妊患者における流産率の増加の独立した予測因子でした。


ただ、AUC 0.56−0.58でありかなり弱い相関関係のようです。

HPV感染は胚の動態や妊娠率に影響するか?

ヒトパピローマウイルスが胚の動態や妊娠率に影響するか検討した報告をご紹介いたします。


Reproductive Biology and Endocrinology (2023) 21:39


 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は、性的に活発な男女の半数が罹患する可能性がある性感染症です。 25 歳未満および 55 ~ 64 歳の女性では HPV 感染のリスクが高いことが報告されています。


 HPV は、ヒト上皮組織に対して特異的に感染するDNA ウイルスです。 HPV には約 200 種類の異なる遺伝子型があり、感染細胞の腫瘍性形質転換を誘導する能力に基づいて低リスク (LR-HPV) または高リスク (HR-HPV) に分類されます。 HPV感染は多くの場合一過性で無症候性ですが、HR-HPVは癌への進行を伴う生殖器病変の主な原因となっています。
 
 最近の研究では、HPV が生殖能力に影響を与える可能性や体外受精 (IVF) にも影響を与える可能性があることが知られています。精液に対する HPV の影響はよく知られており、Gizzo Sらは、精子の運動性の低下やConnelly DAらは、精子の DNA 断片化の増加に影響していることを発表しています。HPV は精子の頭部に結合することで、ウイルスのDNA を卵に伝達し、最終的には胚の発生に影響を与えるのではないかとForesta Cらは報告しています。 実際、マウスでは、精子 HPV 感染は胚盤胞形成速度を低下させ、孵化を阻害し、胚の着床を妨げる可能性が示されています。
 女性の生殖能力に対する HPV の影響は不明です。女性のHPV感染が体外受精(IVF)の成功率を低下させる、流産のリスクを高める、出生率を低下させるなどの報告はみられますが、まだまだ議論の余地があります。


 この研究は、体外受精を受けている女性におけるHPVの有病率と、胚の形態動態および体外受精の臨床成績に対するHPV感染の影響を評価しています。


・HPV感染の有病率と遺伝子型解析
 女性 457 人のうち、41 人 (8.9%) が子宮頸部スワブ検査で HPV 陽性と判定されました。(一般女性の罹患率と変わらない)
HPV16 が一番多い遺伝子型 (17.8%) であり、次に HPV18 と 59 (8.21%)、45 と 66 (6.85%)、31、33、51、52 (4.11%) でした。子宮頸部スワブ検査で HPV 陽性であった女性の 61% (25/41) と 48% (20/41) で、顆粒膜細胞と子宮内膜細胞がそれぞれ HPV 陽性となりました。 


・体外受精の結果
体外受精を受けた 326 人の患者の基本的な臨床的特徴と体外受精の臨床成績の結果
(HPV陽性女性27名とHPV陰性女性299名)を比較したところ、卵巣刺激に対する反応は両群で同等であり、採卵数も同様でした。 受精率、卵割率、胚の利用率、胚の形態学的スコア、臨床妊娠率、流産率、生児獲得率/周期は、HPV 陽性女性でも陰性女性でも同等でした。


 845 個の胚がタイムラプスシステムを使用して分析され、胚盤胞を446個(HPV 陽性群:202個、HPV陰性群:244個)獲得でました。発生の初期段階では、HPV 陽性群の胚はHPV陰性群より速い反応速度を示し、前核消失時間 (tPNf) が短く、前核の出現と消失時間も短い結果でした。ただ、胚盤胞期(tB)までの時間は遅くなりました。


 顆粒膜細胞における HPV 感染の有無にかかわらず、体外受精の臨床成績は、成熟卵の割合、受精卵の割合、および胚形態スコアは変わりませんでした。異なる点として、HPV 陽性の子宮内膜細胞は、HPV 陰性の子宮内膜群と比較すると生児獲得率は低いものの統計学的有意差は認めませんでした。


<まとめ>
(a) 体外受精をおこなっている女性における HPV 感染の有病率が、同じ年齢層の一般的な女性集団と同等であった。
(b) HPV は、生児率などの体外受精の臨床成績に大きな影響を与えることなく、胚の発育動態にわずかに影響を与える。
(c) 子宮内膜細胞や顆粒膜細胞がHPV陽性となっており、HPV が女性の生殖器に沿って移動する可能性がある。
ことをこの報告は示しています。

自然排卵周期の胚移植決定で、LHのみを指標にすると排卵日推定がずれる可能性あり

排卵日により胚移植を決定する際、LHを指標にすると、胚移植の最適なタイミングを外す可能性があるのではないかという報告をご紹介いたします。


Reproductive Biology and Endocrinology 2023 21:47


 凍結胚移植(FET)において、排卵日により胚移植日を決定する方法がありますが、最適なタイミングは、胚移植と子宮内膜の着床できる時期を合わせることです。子宮内膜の分泌期への変化はプロゲステロンによって誘導されます。つまり、胚盤胞の理想的な移植のタイミングは、プロゲステロンから曝露後 6 日目に移植されることです。 黄体形成ホルモン (LH) サージは、自然排卵周期で胚移植日を決定するために使用されることもあります。


  個々により、LH サージと排卵のタイミング、LHの振幅・持続時間などばらつきがあります。 さらに、子宮内膜の着床への準備は、LH 自体ではなく、プロゲステロンによってもたらされます。したがって、LHサージのタイミングは、プロゲステロン上昇のタイミング、胚移植日を決める間接的なマーカーとして使用されます。


 この研究では、卵胞の超音波モニタリングと月経周期の連続的なホルモン状態変化を観察することで、LH上昇とプロゲステロン上昇の間の期間が変化するか調査しました。


<方法>
 卵胞が14 mm以上になったら排卵時期を正確に決定するために、血清LH、FSH、エストラジオールおよびプロゲステロンレベルの連続測定が開始されています。LH サージは、前回より 180% 上昇したときに開始とし、プロゲステロン濃度は1.0ng/ml以上となった場合、排卵とみなされ、これを0日目とし5日後に胚移植としています。


<結果>
 102人の女性が、排卵までの連続3日間の連日ホルモン測定し、LH 上昇とプロゲステロン上昇の期間で 3 つ排卵パターンがみつかりました。排卵の2日前(- 2日)にLH上昇があり:21人(20.6%)、排卵前日(- 1日)にLH上昇があり:71人(69.6%)、排卵日(0日目)にLHピークあり:10人(9.8%)の3パターンが観察されました。
 LH 上昇に基づいた胚移植日決定は、LH 上昇からプロゲステロン上昇までの期間は約 1 日であるため、患者の 30.4% はプロゲステロン上昇に基づいた胚移植日とは異なる日に胚移植されたことになります。
 排卵の2日前にLH上昇があった女性は、排卵と同日にLH上昇があった女性よりもBMIが有意に高く、AMHが有意に低い結果でした。


<まとめ>
 血清プロゲステロンが1ng/ml 以上となるLH上昇は個々で異なり、3パターン存在することがわかりました。そのためLH 自体は、プロゲステロンの上昇によって決定される排卵日推定の最良の指標ではない可能性があることが示唆されました。BMIが高く、AMHが低い女性は特にLHを指標にしない方がよいかもしれません。



尿中 LH サージから排卵までの間隔は、22 時間から 56 時間の範囲で顕著な個人差が見られると報告されています。また、血清でのLHサージの定義も曖昧であるため、LHだけで排卵日の推定は困難と予想されます。
また、この報告は妊娠率がどうなったかは報告されていません。

胚移植日周囲のプロゲステロン濃度

今回は、胚移植周囲のプロゲステロン濃度が低い症例に、プロゲステロン補充を行うと、プロゲステロン濃度が正常群(10 ng/mL以上)と生児獲得率が変わらないという報告をご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 119, No. 6, June 2023 0015-0282


胚移植当日のプロゲステロン(P4)濃度は妊娠率に影響する可能性が報告されています。
Labartaらは、P4 レベルが 9.2 ng/mL 未満であれば、P4 レベルが高い群より継続妊娠率 (OPR) が 20% 低いと結論付けています。他にも同様の報告はありますが、P4がいくつ以下であれば妊娠率が低下するというデータはありません。
また、プロゲステロン剤にはさまざまあり、膣剤、注射では皮下投与・筋肉内投与、経口剤などがあります。一番良い投与方法はまだ明らかになっていませんが、膣剤のみと比較して、筋肉内P4投与のみもしくは併用治療(膣剤と筋肉内投与)を受けた群の方が良好な結果をもたらすという報告はあります。


 この報告は、胚移植日前後の P4 レベルが低い方にP4の 補充を行うことで臨床成績が改善できるかどうか検討しています。 


12 週を超えた妊娠率をOPR とし、臨床妊娠率、流産率、および生児獲得率を検討しています。


合計 7 件・ 5927 人がメタ分析の対象となりました。全体のうち、胚移植日またはその翌日に測定した3,441 人(58%)は血清 P4 レベルが正常でしたが、2,486 人(41.9%)は P4 レベルが低いと判断されました。P4のカットオフ中央値は10 ng/mLでした。
 全体として、全患者サンプル全体の臨床妊娠率は 47.54% (N = 2818)、生児出産率 37.55% (N = 2226)、流産率 15.98% (N = 947)、継続妊娠率 42.78% ( N = 2536)。この研究では、プロゲステロンが投与された場合、正常P4群とP4低値群との間に臨床成績の統計的に有意差はありませんでした。


正常P4群とP4低値群において、P4低値群にプロゲステロンが投与された場合の投与経路によるサブグループ分析が行われたところ、皮下、筋肉内、または経口投与では継続妊娠率に有意差をみとめられませんでしたが、経膣投与された群で継続妊娠率の低下を認めました。 ただ、経腟投与の報告は1件であり、有効かを判断することは不可能でした。


流産に関しては両群変わりなく、臨床妊娠率も変わりありませんでした。生児獲得率に関しても、両群に有意差はありませんでした。P4の投与方法によるサブグループ解析では、筋肉内、皮下、経口では同様の結果でした。経膣投与のサブグループ解析は、1つの研究であり解析できませんでした。


<まとめ>
この分析では、2 群間の臨床成績に対する統計的に有意な差はみられず、P4低値群に対し、プロゲステロン補充することにより、P4正常値群と同等の継続妊娠率・流産率・生児獲得率を獲得できた可能性が考えられます。つまり、移植周囲のP値が低くてもプロゲステロン補充をすれば、P値が正常と同様の結果が得られるという報告でした。


ただ、移植日周囲のP値が低いと妊娠率が低下するかはこの報告からはわかりません。
移植日周囲のP値については、2022年のLabartaは、黄体補充を行わない場合の血清 P レベルが 9.2 ng/mL 未満群と、血清 P レベルが 9.2 ng/mL 以上群では、生児獲得率に有意な差が観察されたと報告しています。

ホルモン補充周期で卵胞発育があった場合

ホルモン補充周期による凍結胚移植の際、卵胞発育がみられることがありますが、このときの妊娠転帰や周産期合併症についての報告をご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 119, No. 6, June 2023 0015-0282


胚移植には、採卵周期に2−5日後に胚を戻す新鮮胚移植と採卵周期とは別の月経周期に胚移植を行う凍結胚移植があります。
新鮮胚移植のメリットは胚を凍結せずに移植できるので、時間の節約や凍結の侵襲がないという点です。デメリットは、卵巣過剰刺激症候群のリスクが増加してしまいます。
凍結胚移植は、メリットは、卵巣過剰刺激症候群のリスクを低下させ、新鮮胚移植と同等かそれ以上の臨床成績をもたらすことができます。さらに子宮内膜の移植準備も調整可能な点もあります。デメリットは新鮮胚移植より移植時期が遅れてしまい、新しく移植準備を整えなければならないという点です。


凍結胚移植には、移植日を設定する方法として、ホルモン補充を行い子宮内膜を厚くするホルモン補充周期(人工周期:AC)と自身の排卵に合わせて移植日を決定する自然周期(NC)があります。
自然周期(NC)は排卵のタイミングを決定するために頻繁な診察が必要となります。
ホルモン補充周期(AC)はエストロゲンとプロゲステロンにより月経周期を調整するため、ある程度都合に合わせた治療が可能となります。
このホルモン補充周期を行う時、通常エストロゲン投与することで、卵胞発育は妨げられますが、稀に卵胞が発育することがあります(約 1.9% ~ 7.4%)。Baerwald らは、高齢でインヒビンの FSH 阻害効果が弱まり血清FSHレベルが上昇し前の周期の黄体期に卵胞の早期発育が促進するためであり、Suらも血清FSHレベルが上昇し、血清AMHレベルが低下している女性はACで予定外の卵胞成長を起こしやすいと報告しています。


今回この報告は、ACにおける卵胞発育と排卵が妊娠転帰と周産期合併症に及ぼす影響を遡及的に調査しています。


ACで卵胞発育と排卵があった合計161人と、一般的なACの1,266人の臨床成績と周産期合併症を調査しています。


2群間の臨床転帰では、化学妊娠、臨床妊娠、生児獲得率は同等でした。排卵群では妊娠高血圧症候群が少ないこともわかりました。 また、排卵群のLGAが多い結果でした。GDM、分娩時在胎週数、早産、新生児の性別、分娩方法、新生児の出生体重は、2 群間で同等でした。


次にロジスティック回帰分析により、交絡因子を調整した後、卵胞発育・排卵を伴う AC は 妊娠高血圧症候群リスクが0.070倍低下し、出生時の体格が在胎期間に比して大きい児(LGA) のリスクが4.046倍増加していることがみられました。


まとめ
ホルモン補充周期での卵胞発育・排卵の有無にかかわらず、通常のACと妊娠転帰を比較したところ、出生率は2群間で同様でした。卵胞発育・排卵を伴うACは妊娠高血圧症候群のリスクが低く、出生時の体格が在胎期間に比して大きい児(LGA) のリスクが高い可能性が明らかになりました。



ただ、はっきりとした理由はわからないということでした。
HDPに関しては、黄体形成が関わっているのではないかと考察されていました。黄体が存在しないと、妊娠高血圧腎症のリスクが増加します。 一部の研究者は、FET-ACの女性と凍結胚移植-自然周期の女性の間で産科および新生児の転帰を比較し、黄体のないACでは妊娠高血圧症候群のリスクが増加していると報告しています。
LGA に関しては、排卵することでACと同じ用量のホルモン補充をおこなっていることが、自分自身が出すホルモンレベルを妨げ、妊娠後期の胎児の発育に影響を与えた可能性が考えられるということでした。