採卵数と生児獲得率に関連があるか

 体外受精 (IVF) では、質の良い卵を複数個回収するため、性腺刺激ホルモンで卵巣を刺激し複数の卵胞の発育を行います。理論的には、複数の卵を回収すると、移植に利用できる胚の数が増加し、生児出産の可能性が高まります。しかし、多数の卵胞を発育させると、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まります。 


 よく「卵子の数が多い方が良いか?」と質問があります。採卵数と生児獲得に関する報告は、数多く発表されています。新鮮胚移植におけるの出生率は、6 ~ 15 個の採卵した場合に良い結果が得られ、6 個未満の採卵数であれば新鮮胚移植による生児獲得率が低下し、15 個を超えても新鮮胚移植においては頭打ちになることが報告されています。累積生児獲得率を考慮する場合、より多く採卵すれば、累積出生率も高くなる傾向が多く報告されています。


今回は採卵数と生児獲得率に関連があるか検討した報告をご紹介いたします。
Fertility and Sterility® Vol. 119, No. 5, May 2023 0015-0282


 生殖補助医療学会診療結果報告システム (SART CORS) は現在、「一次」胚移植を採卵後に行われる初回移植(新鮮胚か凍結融解胚かを問わず)、「二次」胚移植をその後の凍結融解胚と定義しています。
初回移植での成功の可能性を把握するための一次移植累積生児獲得率 と、一次移植後に治療を継続した場合の成功の可能性を把握するための累積生児獲得率です。


 この報告は、採卵数が生児出産の可能性を高めるかどうかを検討しています。
大規模な全国データを使用し、採卵数と受精卵 (2PN)数、胚盤胞数、一次移植生児獲得率、および累積生児獲得率の関連性を調査しています。


 合計で、296,409 人  402,411 回の採卵周期が研究の対象となりました。
採卵数と2PN数、および採卵数と胚盤胞数の間に強い正の線形相関がありました。つまり、採卵数が増えれば、2PNの数も増え、胚盤胞になる数も増えるという結果でした。全患者さんの採卵数の63.1% が 2PN に発育し、32.4%が胚盤胞に発育しました。


・「一次」胚移植(採卵後初回の胚移植)の生児獲得率


 採卵あたりの「一次」胚移植の生児獲得率 は、約 16 ~ 20 個まで採卵数とともに増加し、その後頭打ちになり始めました。移植ごとの「一次」移植生児獲得率は、新鮮移植、PGT を使用しない凍結移植、および PGT を使用した凍結移植によって階層化されました 。 新鮮胚移植に関する「一次」胚移植の生児獲得率は採卵数が約 15 個まで増加し、その時点で頭打ちになりました。 「一次」胚移植の生児獲得率は、PGTを行っていないグループでは、凍結胚移植の方が新鮮胚移植より高い結果でした。PGT を行った凍結胚移植では、「一次」胚移植 の生児獲得率が最も高い結果が得られました。新鮮胚移植の場合、採卵数11~15個群の出生をオッズ比 1とすると、採卵数0~5個群、採卵数6~10個群で統計的に有意な減少を示しました。採卵数16 ~ 30 個群で1に近く、採卵数31 ~ 40個群では統計的に有意な減少がみられました。 凍結移植の場合、「一次」胚移植 の生児獲得率のオッズ比は、非 PGT 移植では 26 ~ 30 個の採卵数まで上昇し、また PGT 移植では 16 ~ 20 個の採卵数まで上昇していました。


・累積生児獲得率


累積生児獲得率は、採卵数とともに増加しています。 累積生児獲得率は約 16 ~ 20 個の採卵数まで急速に増加し以降は頭打ちになっていました。 年齢、AMH、BMI、不妊症原因によって患者を層別化した場合、すべてのグループで累積生児獲得率の増加傾向が同様に観察されました。 多変量ロジスティック回帰分析でも、採卵数による累積生児獲得率の増加が示されました。 採取数 11 ~ 15 個群の出生をオッズ比 1とすると、採卵数36 ~ 40 個群までオッズ比は増加していました。


採卵数は累積生児獲得率の上昇と関連しており、卵の品質の低下とは関連していないことが示唆されます。


もちろん採卵数が増えればOHSS のリスクも増加しますので、累積生児獲得率とのバランスをとる最適な方法を検討する必要があります。

新型コロナウイルスワクチン接種後、流産のリスクは増加しない


でご紹介したように新型コロナワクチン接種により、体外受精の妊娠に関しては悪影響を確認できませんでした。この中の検討で新型コロナワクチン接種後の流産率は変わらないという結果でした。


今回、新型コロナウイルスワクチン接種後の流産のリスクを調査した系統的レビューとメタ分析が発表されていましたのでご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 38, Issue 5, May 2023, Pages 840–852


これまでの報告同様、妊娠を計画している女性が副作用を気にして新型コロナワクチン接種を躊躇することがありました。しかし、現在、アメリカやイギリスのほとんどの研究期間は安全性と有効性を支持しています。
シンシチン-1に対する自己反応性抗体は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質との相同性により、胎盤損傷や早期流産を引き起こす可能性を報告されてはいましたが、Prasad、Klocらによると、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の構造とアミノ酸配列を検討したところ、シンシチン-1との相同性が低いことが示され、交差反応性と胎盤組織へ悪影響は否定されました。
 この報告は、新型コロナウイルス感染症ワクチン接種を受けた女性の流産率と生児出産率を評価するために、系統的レビューとメタ分析を実施しました。


5件のランダム化対照試験(RCT)と16件の観察研究で、149~685 人の女性の妊娠転帰について報告しています。
研究では、ファイザー・バイオ(NTech BNT162b2 mRNA)、モデルナ(mRNA-1273 SARS-CoV-2)、ジョンソン(Ad26.COV2.S)、アストラゼネカ(ChAdOx1 nCoV-19)、シノファーム(BBIBP-CorV)、シノバック(CoronaVac)を含む6種類のワクチンが使用された。 10件の研究が1回のワクチン接種後の妊娠転帰、8件の研究が2回接種後の妊娠転帰、1件の研究が3回接種後の妊娠転帰を報告しています。


妊娠の転帰


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを受けた女性の対象としたすべての研究の流産率は9%でした(18件の研究、14,749/123,185)。 次に、新型コロナウイルス感染症ワクチンを接種した人と受けなかった人の流産リスクを比較したところ、両群間に有意差がありませんでした。


ワクチン接種を受けた女性のうち、妊娠が継続しているか出産している女性の全体的な割合は、報告されている人口レベルの77%と同等でした(14件の研究、103,240/117,766)。ワクチン接種を受けなかったグループと比較して、新型コロナウイルスワクチン接種を受けた女性の継続妊娠率・出産率は同等でした。


まとめ
新型コロナウイルスワクチンは、生殖可能年齢の女性における流産リスクの増加や妊娠継続率、出生率の低下とは関連していなかった。 


Stockらは妊娠中の新型コロナウイルス感染症に関連する流産やその他の有害な妊娠に関するリスクの増加を指摘しており、 MoodleyやAroraらはコロナワクチンは妊婦と児に新型コロナ感染症の影響を最小限に抑えるために重要と報告しています。

月経1周期に2回採卵するduostimについての報告

年齢が高く、卵があまり取れない方は、採卵後の高温期にもう一度採卵することで、月経1周期に2回採卵し、卵を確保するdual ovarian stimulation (duostim)という方法があります。


体外受精において、生児獲得率は、採卵数と相関関係があります。 卵の獲得数が増えるごとに生児出産の可能性が高まり、卵巣の反応が悪い方は、体外受精を数回行っても、卵巣予備能が正常または高い女性に比べて妊娠の可能性が低くなります。 卵巣の予備能と質は年齢とともに低下するため、妊娠を試みるタイミングも重要な問題となります。 Bhattacharyaらにより体外受精を少し延期しただけでも、高齢女性においては出産の可能性が減少すると報告されています。そこで、月経1周期に2回採卵し、卵を確保するduostimという方法が行われています。Massinらにより、卵胞期で卵巣刺激を行った後でも、卵胞期と黄体期で同等の品質の卵を取得できることが報告されています。従来の月経周期に1回の方法と比較して、高温期も刺激するduostimでより多くの卵が獲得できると報告しています。


卵胞期で小卵胞が刺激され注射の反応がよくなり高温期での卵巣刺激でより反応するとも報告されており、より多くの卵をより短期間で獲得できる可能性があるため、卵巣機能の低下した女性にとって、非常に興味深いものとなります。 ただ、高温期の採卵は卵巣予備能マーカーが低い 38 歳以上の女性では、累積採卵数がアンタゴニスト 2 サイクルと比較して低かったという報告もあり、全ての報告が良い結果が得られているわけではありません。


この研究は、卵巣予備能が低下した女性でduostimを行った採卵数と2 回連続した従来の刺激方法で回収された累積卵数を比較しています。 他に、刺激状況、2 回目の採卵と生児出産までの時間、累積臨床妊娠率と生児出産率を調査しています。


<結果>
刺激日数、刺激総用量については、グループ間に差はありませんでした。 2 回の卵巣刺激から回収された累積卵の平均数は、duostim群とコントロール群の間で統計的に差はありませんでした。しかし、使用可能な胚(移植胚、新鮮胚、または凍結胚)の総数は、duostim群 0.9対対照群 1.5で有意に低い結果でしたが、per-protocol分析ではそれぞれ統計的差はありませんでした。


duostim群のサイクル 1 (卵胞期) とサイクル 2 (黄体期) を比較すると、刺激日数と総刺激量には統計的な差はなく、平均回収卵数も、卵胞期と黄体期で同様でした。対照群との比較でも、刺激日数と総刺激量はサイクル 1 と 2 で統計的に差はありませんでした。各サイクルで平均回収卵数は同様でしたが、2回目の採卵までの平均期間は、対照群の82.8日に対し、duostim群では14.4日と統計的に有意に短い結果でした。


着床率は両グループで同様でした。 累積臨床妊娠率はduostim群で有意に低い結果でしたが累積出生率には統計的な差はありませんでした。


妊娠までの期間を検討したところ、duostim群とコントロール群でそれぞれ147.8日と128.7 日で有意差はありませんでした。 


重篤な有害事象は報告されませんでした。


<まとめ>
この報告は採卵後、卵子凍結を1回して、受精させるため融解しているため、日本でのやり方とは異なります。
このやり方において、duostimと2回のアンタゴニストでは、刺激日数・量、累積卵子数・胚の質・着床率・出生率、妊娠までの期間は同じで重篤な有害事象は報告されませんでした。


duostimのメリット:2回目の採卵までの時間を2週間に短縮できる
duostimのデメリット:高温期に刺激を行うため新鮮胚移植ができない。累積臨床妊娠率はduostim群で有意に低い(累積出生率は有意差なし)。採卵した後に卵巣刺激を行うため、どの卵胞が発育しているか超音波で確認しにくい。(そのまで問題はありません)

精子採取から人工授精まで時間についての報告

精液採取と 人工授精(IUI)の間隔が長いと、累積継続妊娠が有意に改善され、妊娠までの期間が有意に短縮されたという報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Vol.38, No.5, pp. 811–819, 2023


IUIは、軽症の子宮内膜症、原因不明の不妊症、子宮頸因子不妊症、また軽度の男性因子不妊症と診断されたカップルにとって、低侵襲、低リスク、費用対効果の高い治療法です。精液採取からIUIまでに関する報告はさまざまで、Fauqueらの前向きコホート研究において、精液処理後 40 ~ 80 分での人工授精が最良の妊娠結果をもたらすことが報告されました。ただ対照的に、Jansenらは、精液処理の翌日まで授精を遅らせた場合でも、継続的な妊娠率に悪影響が及ばないことを発表しています。 他にSongらも、精液採取と IUI の時間は妊娠の影響はないとしています。
さまざまな報告があるため、この報告はランダム化比較試験(RCT)を実施し、精液採取からIUIまでの時間が短い場合、長い場合を比較して、IUI 6サイクル後の継続妊娠の累積確率が増加するかどうかを調査しています。


初回 IUI を開始する前にのみ参加し最大6回までIUIを行いました。3 回は自然周期で、その後は 卵巣刺激を行いIUIをしています(原因不明の不妊症患者に対しては、卵巣刺激6周期する方も)。


142人が精子採取からIUIまで短時間のグループ(90分以内)、138 人が長時間のグループ(180分以上)にわけられました 。短時間グループの IUI サイクルの総数は 598 (自然周期 207 (34.6%)) であったのに対し、長時間グループの IUI サイクルは 495 (自然周期 194 (39.2%)) でした。累計すると、短時間グループでは56組のカップル、長時間グループでは71組のカップルで継続妊娠が確認され、ITT分析では、累積継続妊娠率は短時間グループ(56/142、39.4%)と比較して長時間グループ(71/138、51.4%)で有意に高い結果でした。さらに長時間グループのカップルは、妊娠継続までの時間が有意に短い結果でした。ただ、Per protocol解析では有意ではありませんでした。
多胎妊娠と流産は 2 つのグループ間で同等でした。


結論
精液採取と授精の間隔が長い(180 分以上)とカップルあたりの累積継続妊娠率が高く、妊娠までの期間が短縮されました。ただ、Per protocol解析では、両群間で累積継続妊娠率に有意差は示されていませんので、IUIと排卵のタイミングが関係している可能性が考えられ、クリニックにより、最適な精子採取からIUIの時間を見つける必要があるとしています。


採取からIUIまでの間隔が長い方が良い理由としては、精子は卵子と受精する前、受精能獲得の過程で機能的に成熟する必要があるため、長時間グループでは室温で受精能獲得を開始し、精子がIUI後に短時間で受精能獲得を完了できたのではないかと仮説を立てています。短時間グループの精子は、受精能獲得を完了するまでに多くの時間を必要とし、卵子と受精できるようになるまでにさらに時間がかかる可能性があると予想されました。この報告は、hCG注射の42時間後の排卵の直前または直後にIUIが行われています。この状態では短時間グループで排卵時に受精能を獲得した精子の数が少なく、ほとんどの精子がまだ卵子と受精できていない可能性が考えられています。

タイムラプス培養器で得られる胚の動態と臨床特徴を組み合わせることで胎児心拍を確認できる胚を予想する

体外受精において、妊娠率・出産率の高い胚の選択は、胚の見た目で妊娠しやすいか判断する形態学的評価が一般的です。形態学的評価は、胚を培養器から取り出し顕微鏡下で授精後1日おき胚を観察する静的評価と培養器に入れながら胚を10分おきに観察し画像をつなげて評価する動的評価があります。ただ、胚の形態学的評価は、観察者により評価が変わる可能性があります。当たり前ですが、最良好と判断された胚でも妊娠しないことや、不良と判断されても妊娠することがあります。
 一方、着床前遺伝子スクリーニング (PGT-A) は、胎盤になる細胞の染色体を次世代シークエンサーという診断ツールで染色体の増減にエラーがないか確認し、エラーがないと予想される胚を移植することで流産率をさげるという方法です。ただし、PGT-A は費用・時間がかかり、胚の着床する細胞を採取するという侵襲的な処置であり、35 歳未満の患者など、異数性率がそれほど高くないグループに利益をもたらすかははっきりとわかっておりません。


 そこでこの研究は、タイムラプスで得られる動的病態と臨床的特徴を合わせて分析することで、妊娠の可能性の高い胚を予測する性能が向上するか検討しています。 
  


 9986 個の胚がアルゴリズムのトレーニングに使用され (既知の妊娠データのある 9537 個の胚を含む)、447 個がテストに使用されました (すべて既知の妊娠データがある)。トレーニングで使用された 192 個の胚 (既知の妊娠データの 2% 未満) のみが PGT-Aのために生検され、3% 未満が卵子提供にとなっていました。


心拍確認の有無と臨床結果を検討しています。


タイムラプス培養器がつけたビデオスコアは培養士の判断した胚の質と相関する
447個の胚のうち、培養士の多数決により、不良胚は102個、良好胚は161個、その他184個と分類されました。不良胚の平均スコアは低くなる傾向があり (0.23 ± 0.20)、良好胚は高いスコア (0.50 ± 0.22) に対応していました。 タイムラプス培養器がつけたビデオスコアと培養師の判断した胚の質は相関関係がありました。


胚発生具合と臨床的特徴を分析することで、妊娠予想性能が向上する
タイムラプス培養器がつけたビデオのみでトレーニングされた 3D-ResNet モデルの結果は、3D-ResNet の出力と臨床的特徴の両方を分析したハイブリッドモデルと比較されました。 ハイブリッドモデル(AUC:0.727±0.012)は 3D ResNet モデル(AUC:0.684±0.016)よりも優れており、AUC で 6.27% という統計的に有意な相対増加を示しました。臨床的特徴の中で影響をあたえる因子としては、胚の形態動態を反映するビデオスコアが一番大きく、次が年齢でした。その他の臨床的特徴として総ゴナドトロピン投与量、使用可能な胚数、採卵数や子宮内膜の厚さも妊娠予想の性能に影響をあたえました。


ハイブリッドスコアは妊娠率と相関する
ハイブリッドモデルのスコアが増加すれば妊娠率が増加するかどうか判断するため、スコアを4群に分類したところ、スコアが増加すれば妊娠率も有意に増加したことがわかりました。


・ハイブリッド アルゴリズムはさまざまな臨床状況に利用できますが、新鮮胚移植や35 歳以上で効果が高い
タイムラプス培養器の種類 、移植日に関して、統計的な差はありませんでした。 AUCに関して新鮮胚移植と凍結胚移植に統計的に有意差が示されました。 また、AUCは35歳未満(AUC 0.68±0.01)と比較して、35歳以上(AUC 0.74±0.02)で高い結果でした。


まとめ
タイムラプス培養器の形態学的評価のみより、臨床的特徴を組み合わせることで胎児心拍確認率の上昇を期待できました。