妊娠初期の出血に対するプロゲステロンの効果

流産は約20%ほどに発生すると報告されています。流産は、出血、感染症、外科的治療に伴う合併症、さらには不安、鬱病、心的外傷後ストレス障害などの重大な心理的危害を引き起こす可能性があります。
卵巣の黄体により産生されるプロゲステロンは、胚の着床に必要であり、妊娠に不可欠なホルモンであります。胚が子宮内膜に着床後、胎盤発生早期にプロゲステロンが産生され、その後胎盤はプロゲステロンの主な供給源になります。


コクランレビューによると妊娠初期の出血を伴う女性を対象とした7件のランダム化試験のうち6件がプロゲステロンを投与された女性の方がプラセボを投与された女性よりも有意に流産リスクが低くなったと示されました。しかし、この試験は小規模でありプロゲステロン投与による流産リスクの軽減には決定的な証拠は欠けています。
他のコクランレビューによると3回の流産を経験したことのある女性は、妊娠初期のプロゲステロン療法の効果がある可能性を報告しています。


本日は2019年5月 The New England Journal of Medicine 
”A Randomized Trial of Progesterone in Women with Bleeding in Early Pregnancy”
をご紹介いたします。


この研究はプロゲステロン治療がプラセボよりも妊娠初期の出血を伴う女性において生児獲得率の改善をもたらすかを調べるために、多施設、無作為化、パラレル、二重盲検、プラセボ対照試験を実施しています。


<結果>
対象:16〜39歳で、妊娠12週未満で出血を呈し、超音波検査で子宮内に胎嚢みられるもの
無作為化の時点から妊娠16週まで、400 mgの微粉化プロゲステロン(Utrogestan、Besins Healthcare)またはプラセボを含む1:1の割合で無作為に割り当てられた。
主な転帰は妊娠 34 週以降の生児獲得率としています。


<結果>
合計12,862人がこの試験に適正であるとされました。 このうち、4153人がプロゲステロン(2079人の女性)、プラセボ(2074人の女性)に無作為に割り当てられ、主要転帰について入手可能なデータを有する女性の割合は97%(4153人中4038人の女性)でした。
34週以降の生児獲得率は、プロゲステロン群で75%(2025人中1513人)、プラセボ群で72%(2013人中1459人)であり欠落データを補完した感度分析では、結果は変わりませんでした。
12週の妊娠継続率は、プロゲステロン群で83%(2025人中1672人)、プラセボ群で80%(2013人中1602人)(相対率1.04、95%CI、1.01〜1.07)とプロゲステロン群の方が有意に高い結果でした。。
流産率は、プロゲステロン群で20%(2025人中410人)、プラセボ群で22%(2013年人中451人)であり両群変わりませんでした(相対率0.91; 95%CI、0.81〜1.01)。
3回以上の流産既往のあるの生児獲得率は、プロゲステロン群で72%、プラセボ群で57%と有意差を認めました(相対率1.28、95%CI、1.08〜1.51)。
母体または新生児の重篤な有害事象の発現率に群間で有意差は認められませんでした(プロゲステロン群で5%[2025人中105人]、プラセボ群で5%[2013人中98人])。


<結論>
この大規模な多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、妊娠初期の出血のある女性において、妊娠初期にプロゲステロン療法を行っても妊娠34週以降の生児獲得率は改善させませんでした。また、流産や死産の発生率についても、グループ間に有意差はありませんでした。
ただ、この報告によると3回以上の流産既往のあるの女性を対象とした場合、プロゲステロン投与で生児獲得率を改善させる可能性があるようです。

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