若い女性の単一遺伝子性疾患に対する着床前遺伝子検査における異数性スクリーニングの役割

着床前診断は、重篤な遺伝疾患を対象とするPGT-Mと染色体の数的異常を調べるPGT-Aがあります。


染色体異常は妊娠初期流産の最も多い原因であり、自然流産の50%以上を占めると報告されています。さらに、異数性は、体外受精の着床不全の主な原因の1つであることがわかっております。
また異数性は、年齢が上がるにつれて劇的に増加することが知られています。ある研究では、35〜39歳の女性から得られた胚盤胞のほぼ半分が異数性であり、 40〜42歳の女性から得られた胚盤胞の約3分の242歳以上の女性から得られた胚盤胞の約80〜90%が異数性であると報告されています。


そこで理論的には、PGT-Aで正倍数体胚を選択することで、(特に35歳以上の女性において)妊娠率を高め、流産率を低下させ、そして最終的には生児獲得率を高める可能性があります。
多施設無作為化試験では、38〜41歳の女性のPGT-Aは、異数性スクリーニングなしで胚盤胞移植を受けた女性と比較して、初回胚移植後の流産率を低下させ生児獲得率を増加させた。しかし、2つのグループ間で累積分娩率に差はなかったという結果でした。
若い女性に対するPGT-Aの利点を調査したランダム化臨床試験は1件のみで、胚盤胞の異数性スクリーニングは着床率を有意に増加させ、その後の凍結/融解胚移植(FET)における流産を減らすことができるという結果でした。


しかし、生検および凍結における胚の損傷やモザイクの診断など、PGT-Aは着床したかもしれない胚を失っている可能性もあります。


今回2019年5月 Fertility and Sterilty
”Role of aneuploidy screening in preimplantation genetic testing for monogenic diseases in young women ”
をご紹介します。


この報告は、今までの対照群とは異なり、PGT-Mを行ったの中で対照群が同じ胚盤胞生検手順を行ったが単一遺伝子疾患における着床前診断のみを行った(異数性スクリーニングなし)若い女性としています。この異数性スクリーニングを行っていないPGT-Mと異数性スクリーニングを行ったPGT-Mを比較し若い女性のPGT-Mにおける異数性スクリーニングがFETの臨床成績を改善したかどうかを評価しています。



異数性スクリーニング・PGT-Mを受けた異数性スクリーニング(AS)群、および胚異数性スクリーニングなしでPGT-Mを受けた非AS群に分類しました。


<初回ETの妊娠転帰>
初回ETでは、AS群 98 FETサイクル、非AS群 266 FETサイクルを対象としています。交絡因子調整後、着床率は、AS群のほうが非AS群よりも1.874倍高くなり、流産率は、AS群のほうが非AS群よりも0.177倍となり、生児獲得率は、AS群の方が非AS群よりも2.073倍高くなりました。


<累積の妊娠転帰>
交絡因子調整後、累積生児獲得率・累積継続妊娠率は、有意差はありませんでしたが、着床率は、AS群の方が非AS群より1.639倍高い結果でした。流産率はAS群で0.306倍となりました。


<妊娠までの期間>
初回ETから継続妊娠までの平均期間は、非AS群と比較してAS群で有意に短く、 さらに、ASグループは非ASグループよりも移植回数が少ない結果でした。


結論
異数性スクリーニングは、初回FETサイクルで単一遺伝子疾患の若い女性の継続妊娠/生児獲得率および着床率を有意に改善し、流産率は有意に減少しました。しかし、2グループ間で累積生児獲得率に差をみとめませんでしたが、PGT-Mの異数性スクリーニングは初回ETから継続妊娠までの時間を短縮しました。


この報告は、胚生検を行った群同士で異数性スクリーニングをした群としなかった群の検討で、若い女性を対象としても初回ETの妊娠転帰が改善したという報告でした。妊娠までの時間を短縮しましたが、累積生児獲得率に差をみとめないという結論でした。

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