二本鎖精子DNA損傷は胚発育遅延の原因であり、着床率を低下させる

本日は
"二本鎖精子DNA損傷は胚発育遅延の原因であり、着床率を低下させる"
のではないかという報告をご紹介いたします。


2019年4月 Fertility and Sterilty
”Double-stranded sperm DNA damage is a cause of delay in embryo development and can impair implantation rates”



ARTの成功および新たな胚選択基準についてのバイオマーカーに関する研究は、臨床診療において非常に関心のあるトピックであります。男性因子に関しては、ICSIサイクルにおける研究は、精液検査(精子濃度、運動性、および形態)がICSI着床率を予測するものではないことを示しています。精子DNA断片化(SDF)技術の導入は、ARTの成功を予測するための補完的なパラメータとして有望であるように思われています。さまざまな研究グループがさまざまな手法(TUNEL、精子クロマチン構造アッセイ、精子クロマチン分散テスト)を用いてSDFを分析する研究を行っています。ICSIにおけるDNA損傷と着床率との関係は様々な意見があります。


本研究の目的は、ICSIサイクルにおける一本鎖および二本鎖の精子DNA損傷と胚動態の関係を分析することであります。


<方法>
43人196個の胚を分析しています。
一本鎖および二本鎖の精子DNA断片化分析はコメットアッセイという方法で行われています。 10分ごとに撮影するタイムラプスモニタリングシステムで培養され胚の評価を行っています。一本鎖および二本鎖の精子DNA断片化に分類し、それぞれ胚動態や着床率を比較しています。


<結果>
・二本鎖DNA損傷において、精子DNA断片化が高い群と比較して精子DNA断片化が低い群は着床率が有意に高かった。


・前進運動性と一本鎖DNA断片化との間に負の相関が認められましたが、前進運動性と二本鎖DNA損傷との間には相関は認められませんでした。


・胚動態学
一本鎖SDFにおいて、精子DNA断片化が高い群と低い群を比較した場合、発生段階のどのタイミングも統計的に有意な結果を示しませんでした。


しかし二本鎖SDFにおいて、精子DNA断片化が高い群と低い群を比較した場合、第二極体放出、4細胞、8細胞、桑実胚、および胚盤胞になり始めた時間にパターンが異なる遅延を引き起こしていました。


一本鎖DNA損傷は主に前核段階で影響を示しますが、他の発育段階では遅延はみられなかった。 
二本鎖DNA損傷は、第二極体放出時に遅延を引き起こし、胚発生が進むにつれて漸進的な胚発生遅延を示していました。 二本鎖DNA損傷の主な影響は、第二極体期および9細胞期と桑実胚期の間にあることが示されました。


着床した胚の胚動態は、精子DNA断片化が低い群と類似しており、精子DNA断片化が高い群と異なっていました。 着床しなかった胚の胚動態は、精子DNA断片化が高い群と類似しており、精子DNA断片化が低い群と異なっていました。


<結論>
(一本鎖DNAの損傷ではなく)二本鎖精子DNAの損傷は胚の動態に影響を及ぼし、着床率に関連していました。 ICSI患者における二本鎖精子DNA断片化分析は、ICSIサイクルにおける男性不妊因子について予後判断できるのではないかと結論付けています。

洗浄前運動精子数で人工授精の成功を予測できるか?

こんにちは


本日は”洗浄前運動精子数では人工授精の成功を予測できない”という報告をご紹介します。


2019年4月 Fertility and Sterilty
”Prewash total motile count is a poor predictor of live birth in intrauterine insemination cycles”


人工授精(IUI)はさまざまな病因を持つカップルを対象として一般的に行われています。不妊期間、女性の年齢、出産歴、卵胞数、総運動精子数、精子形態、および不妊の病因など、複数の要因がIUI後の妊娠率に影響を与えると報告されています。


総運動精子数は精液量、濃度、および運動率を掛けることによって計算されます。この総運動精子数はIUIするときの洗浄前と洗浄後に評価されます。IUIを推奨するための洗浄前総運動精子数に関するコンセンサスガイドラインはありません。
そこでこの研究はIUIを受けているカップルで洗浄前総運動精子数と生児獲得率の間に相関があるかを判断するために後ろ向き試験を行っています。


クエン酸クロミフェン(CC)(424人)、ゴナドトロピン+CC(30人)、レトロゾール( 90人)、ゴナドトロピン+レトロゾール( 11人)、ゴナドトロピン( 58人) 、自然周期( 42人)が含まれています。


<結果>
655 サイクル、310人に行われ、カップルあたりの総累積生児獲得率は20%、サイクルあたりの生児獲得率は10%でした。

精度の評価を行う受信者動作特性分析を行ったところ、洗浄前総運動精子数と生児獲得率は、変数間に有意な相関がなく、洗浄前総運動精子数と生児獲得率の関係性は低いことを示唆しています。

また、200万未満の洗浄前総運動精子数からは生児出産を生じませんでした。 生児出産の最高は、洗浄前総運動精子数が16〜2100万および2100万以上でした。


共変量の分析は、年齢だけが生児獲得率に影響を与えることを示していました。年齢が1サイクルあたりの生児獲得率と有意に負の関係を示していました。年齢と出生を比較した受信者動作特性分析は、37歳を超えるとの生児獲得が有意な減少することを示していました。 1カップルあたりの生児獲得率は、37歳を超える女性では25%であったのに対し、37歳を超える女性では7%に減少していました。


<結論>
洗浄前運動精子数では人工授精の成功を予測できませんでした。
37歳未満では、IUIサイクルにおいて37歳以上と比較して生児獲得率が増加しました。 200万未満の精子の洗浄前総運動精子数を持つカップルは、IUIの成功率は非常に低い結果でした。 




洗浄後の総運動精子数はIUIの成功率に影響を与える報告が多いです。
総運動精子数500万を超えると臨床妊娠率が大幅に増加する報告や、総運動精子数1000万あれば最も費用対効果の高い選択肢として、卵巣刺激を用いたIUIを少なくとも3回行うことを提唱している報告もあります。
ただ、原因不明の不妊症の高齢女性(38〜42歳)において、IUIとIVFで成績を比較したところ、IVF群で妊娠までの周期が少なかったと報告されています。
この研究でも、年齢のみが生児獲得と関係しているという結果であり、一人ひとりの背景を考え個別に対応していかなくてはなりません。

初回胚移植における子宮内膜のスクラッチ効果

以前にもご紹介したように子宮内膜をスクラッチすると妊娠率が上昇する可能性があるという報告は多くあります。


しかし、2019年1月 Hum Reprodで”胚移植が1,2回目では妊娠率が変わらないのではないか”と報告されています。


今回も"初回胚移植では効果がないのではないか”という報告をご紹介いたします。
以前の結果とほぼ変わりませんので簡単にご紹介します。


2019年4月 Fertility and Sterilty
”Endometrial scratching for infertile women undergoing a first embryo transfer: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data from randomized controlled trials”


以前にもご紹介しましたが、子宮内膜をスクラッチで妊娠率が上昇するメカニズムは不明です。
子宮内膜の脱落膜化が誘発され、胚への感受性が高まる可能性
サイトカインおよび成長因子の分泌を含む創傷治癒を誘発し胚移植に有利に働く可能性
子宮内膜の成熟を促進する可能性
などが報告されています。



7件の研究で、初回の胚移植受けてた合計1,354人の女性が含まれていました。 これらのうち、670サイクルをスクラッチ群に、684サイクルを対照群に割り当てています。


両群を比較すると、スクラッチは初回の新鮮/融解胚移植サイクルでの妊娠率、生児獲得率を改善しませんでした。 スクラッチ時期に関しては、低温期、高温期にしても変わりませんが、採卵時に行うと新鮮胚移植の成績は悪くなるというものでした。


しかし、今回の検討は大部分が初期胚移植についての検討での結果ですので、胚盤胞であれば違う可能性もあります。

子宮鏡検査にトラマドールを使用することで疼痛を緩和できた報告

こんにちは


本日は
”子宮鏡検査にトラマドールを使用することで疼痛緩和に有効であった”という報告をご紹介いたします。


2019年3月 Fertility and Sterilty
Efficacy and safety of tramadol in pain relief during diagnostic outpatient hysteroscopy: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials


子宮鏡は子宮内腔を直接観察することのでき、不妊症での精査で重要な検査であり、外来で施行可能な検査です。通常あまり疼痛はありませんが、子宮鏡が細い部分を通る際の子宮頸管拡張および子宮腔の拡張することにより疼痛が出現することがあります。


メフェナム酸やセレコキシブは、子宮鏡検査後の痛みは軽減するが、処置中に生じる不快感を排除することはできないと報告されています。


トラマドールは、ノルアドレナリン/セロトニン再取り込み 阻害作用によって生じる非麻薬性の弱オピオイドで、鎮痛作用は通常、投与後1時間で始まり、2時間でピークに達し、4〜8時間近く持続します。


この報告を子宮鏡の疼痛軽減におけるトラマドールの安全性と有効性を調査しています。


子宮鏡検査を受けた488人、4件のランダム化臨床試験が含まれています。 209人にトラマドールが使用され、209人がプラセボを服用しています。
視覚的評価スケール:Visual Analogue Scale (VAS)
長さ10cmの線(左端「痛みなし」、右端「想像できる最大の痛み」)とし、現在の痛みがどの程度かを表すスケールを用いて評価しました。


<結果>
子宮鏡中VAS:トラマドール群がプラセボ群よりも有意に減少させた( -1.33cm)。
子宮鏡直後のVAS:トラマドール群がプラセボ群よりも有意に減少させた( -1.05cm)。
30分後のVAS:トラマドール群がプラセボ群よりも有意に減少させた( -0.98cm)。


安全性・副作用は両群有意差なし


<結論>
この系統的レビューとメタアナリシスは、トラマドールが子宮鏡中の疼痛緩和に効果的かつ安全な選択肢であることを示唆していました。


ただ、子宮鏡のみでは鎮痛剤を服用するほど痛みはないように思えます。子宮鏡が入りにくい方や処置をするような方には良いと思われます。

レトロゾールとクロミフェンを併用することで排卵率上昇

みなさんこんにちは


本日は”多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方にアロマターゼ阻害薬(レトロゾールなど)とクエン酸クロミフェン(クロミットなど)を併用することで排卵率上昇する”という報告をご紹介いたします。


2019年3月 Fertility and Sterilty
”A randomized controlled trial of combination letrozole and clomiphene citrate or letrozole alone for ovulation induction in women with polycystic ovary syndrome”


多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵障害の主な原因の一つです。クロミフェンやアロマターゼ阻害薬、FSH注射で排卵を促す場合があります。


クロミフェンの卵胞発育作用として、エストロゲン受容体に付着することで、エストロゲンの負のフィードバックが減少し、性腺刺激ホルモンの分泌が増加し、卵巣の卵胞の成長を誘導します。 しかし、クロミフェンは子宮内膜の発育および子宮頸管粘液産生に対して抗エストロゲン作用を有することで、排卵率が高い割には妊娠率が低い原因といわれています。


レトロゾールは、アンドロゲンからエストロゲンへの変換を妨げる選択的アロマターゼ阻害剤として働きます。 卵胞発育の作用機序の1つとして、エストロゲン産生を抑制することで視床下部に対する負のフィードバックが減り、FSH分泌の増加をもたらすします。また、一時的に増加した卵巣内アンドロゲンから生じるFSHの卵胞感受性の増加させるのではないかといわれています。


クロミフェンとレトロゾールは作用機序が異なるため、これらの薬剤を組み合わせると、レトロゾール単独よりも排卵率が改善される可能性があると前向き無作為化方式でこの研究は行われています。


<方法>
PCOS患者さんを対象としています。月経3〜7日目に、毎日2.5 mgのレトロゾール、または毎日2.5 mgのレトロゾールと50 mgのクロミフェンを併用し、月経12〜14日目に超音波1回と月経11日目ー21日目まで陽性が出るまでかでなければ毎日排卵検査薬を使用をしています。排卵検査薬が陽性になれば陽性後7日目に、ならなければ月経21,22日目にプロゲステロン検査を行なっています。排卵であり、黄体中プロゲステロン濃度> 3 ng / mLと定義されています。


レトロゾール単体群とレトロゾール+クロミフェン群の排卵率を比較しています。


<結果>
67人が参加し、背景には両群間に差は認めませんでした。



レトロゾール+クロミフェン群は、レトロゾール単独群よりも1.8倍排卵率が高い結果でした。
妊娠、生児獲得率、流産に統計的に有意な差はなく、多胎妊娠も認めませんでした。
子宮内膜の厚さ、15mm以上の卵胞数、最大の卵胞径、または血清プロゲステロンレベルに有意差はありませんでした。


試験中に治療に関連する重篤な有害事象は発生しませんでした。


<結論>
この研究は、レトロゾールとクロミフェンの組み合わせが、PCOSにおける不妊治療において排卵させるためにレトロゾール単独よりも優れていることを示しました。 この結果は、排卵率の高い低リスク、低コストである不妊治療の可能性を示唆しています。 レトロゾールとクロミフェンの組み合わせで妊娠率と出生率が高いかどうかを判断するには、追加のランダム化臨床試験が必要です。


ただ、この論文にも書かれていましたが、超音波の回数が少なく、臨床的には卵胞発育なければ薬剤の増量や、FSHの併用を行います。排卵検査薬が陽性にならないのであれば、何か対処すると思われます。