PCO患者さんの凍結胚移植はホルモン補充周期よりレトロゾール使用した方がよい可能性あり

凍結胚移植を行う際、エストロゲン製剤を使用したキャンセルの少ないホルモン補充周期と、薬剤をあまり使用しない排卵周期があります。


ホルモン補充周期は計画が容易であるため、利便性が向上しますが、高価であり、血栓塞栓性などの副作用のリスクが高くなる可能性があります。妊娠が確立すると薬剤は、胎盤が形成されるまで継続しないといけません。最も重要なことは、薬剤が一部の方の子宮内膜の発達に不十分である可能性があることです。


エストロゲン受容体に拮抗せず、正常な中枢のフィードバックを維持する第三世代のアロマターゼ阻害剤であるレトロゾールは卵胞発育を促します。PCOSにおいて排卵誘発のためのレトロゾール使用が子宮内膜受容性の多くのマーカーを増加させたという報告があります。


今回、PCOSにおけるホルモン補充周期による胚移植(AC-FET)とレトロゾール使用した胚移植(L-FET)の妊娠結果を比較した報告をご紹介いたします。


2019年7月 Fertility and Sterilty
"Letrozole use during frozen embryo transfer cycles in women with polycystic ovary syndrome"


1,571人がL-FET、1,093人がAC-FEにて胚移植を受け、妊娠結果を比較した後ろ向き研究です。


子宮内膜の厚さは、レトロゾール群で、プロゲステロン投与日とET日の両方で有意に厚くなっていました。


ETあたりの生児獲得率は、L-FETとAC-FETそれぞれ54.4%と50.7%で有意差なし。 流産率は、AC-FETと比較してL-FETで有意に低い結果でした(9.1%対17%; P <.001)。 臨床的妊娠、着床率、および生化学的妊娠の割合は、2つのグループ間で同程度でした。


交絡因子の調整後もL-FETの流産率は 0.51倍低いままでした。 さらに、交絡因子を補正後、生児獲得率はAC-FETと比較してL-FETで1.33倍有意に高い結果でした。


<まとめ>
凍結胚移植を受けているPCOS患者において、交絡因子調整後、レトロゾールの使用は、ホルモン補充周期と比較して生児獲得率が高かった。


・子宮内膜の厚さについて
エストロゲンが低いと、エストロゲン受容体が上方制御され、その後のエストロゲン上昇に対する感受性が高まります。 このことにより、子宮内膜の増殖が速くなり、子宮と子宮内膜の血中濃度が上昇し、妊娠結果にプラスの効果がもたらされる可能性が報告されています。
また、レトロゾールが子宮内膜の着床能を潜在的に増加させる可能性があります。


・児について
IVFサイクルのレトロゾール投与は、自然サイクルと比較して、新生児の主要な先天異常のリスクを高めたり、新生児についての転帰に悪影響はない可能性が報告されています。

着床前遺伝子検査(PGT)は妊娠高血圧腎症を増加させる?

着床前遺伝子検査(PGT)の使用は急速に増加しており、米国のPGTの割合は、2005年の全サイクルの4%から2015年には22%に増加しました。2015年だけで、米国で実施された26,201件、8529人が出生していると報告されております。


PGTを行った妊娠に関する母体および新生児転帰の調査はほとんど行われていません。栄養外胚葉生検は胎盤を形成する細胞を除去するため、胎盤に関連する有害な妊娠転帰のリスクが高まる可能性があります。


今回、栄養外胚葉生検の有無によるIVF後の母体および新生児の転帰を比較したコホート研究を実施した報告がありましたのでご紹介いたします。


2019年7月 Fertility and Sterilty
”Maternal and neonatal outcomes associated with trophectoderm biopsy”


357人の生児(PGT:177人およびPGTを施行していない180人)が分析の対象としています。栄養外胚葉生検の有無によるIVF後の母体および新生児の転帰を比較したところ、IVF + PGTの妊娠高血圧腎症の発生率はPGT施行していないIVFの4.1%と比較して10.5%であり、3.02倍妊娠高血圧腎症にかかりやすいという結果でした。(単胎のみだと2.95倍)前置胎盤の発生率は、IVF + PGTで5.8%、PGTなしのIVFで1.4%でした(有意差なし)。


早産、出生体重、NICU入院、5分のアプガースコア、先天異常の発生率に両群有意差はありませんでした。


<まとめ>
IVF + PGTとPGT施行していないIVFを比較した母体および新生児の詳細な結果を報告した最大の研究の1つです。産科合併症については、IVF + PGT群で妊娠高血圧腎症のオッズが3倍増加し、交絡を最小限に抑えた単胎のみに限定した場合でも2.9倍増加するようでした。新生児の有害転帰に統計的に有意な差は認められませんでした。


日本でも増えてくると予想されるPGTに関する報告でした。PGTにより異数性妊娠の流産リスクを軽減し、生児獲得までの時間の短縮できる可能性もありますが、潜在的なリスクを考慮することが重要です。
児に関しては今回の報告よると、栄養外胚葉生検しても影響がないという結果でした。

卵活性化は受精障害に効果がある可能性あり

通常ICSIの受精率は約70%と推定されており、全受精障害(TFF)はICSIの3%〜5%で発生するといわれています。TFFの主な原因は、精子または卵子因子に関連している可能性のある卵活性化障害(OAD)に起因します。


卵の活性化は、受精に不可欠です。卵活性化は精子卵活性化因子であるホスホリパーゼCゼータ(PLCζ)によって引き起こされ、精子卵融合で卵内に移行されます。哺乳動物では、精子と卵の融合後にカルシウム(Ca2 +)の典型的なパターン、つまりCa2+ オシレーションが観察されます。これらのCa2+ オシレーションは、減数分裂の再開と最終的な受精の成功に必要です。


この報告は受精障害に人工的に卵活性化(AOA)を行い臨床成績を比較しています。
Assisted oocyte activation significantly increases fertilization and pregnancy outcome in patients with low and total failed fertilization after intracytoplasmic sperm injection: a 17-year retrospective study
をご紹介いたします。


この著者がヒト精子の卵活性化能力を評価する診断法を開発したマウス卵活性化試験(MOAT)により、精子関連OAD(MOATグループ1(19人):≦20%の活性化 ネガティブコントロールの上限)、精子の卵活性化能力の低下(MOATグループ2(56人):21%〜84%の活性化)、または卵子関連OADの疑い(MOATグループ3(47人):≥85%活性化 陽性対照の下限)に分類しています。
受精障害の既往のある方にMOATと人工的に卵活性化(AOA)を行い臨床成績を比較しています。


<結果>
ICSI後のTFF(受精率0%〜10%)またはLF(≤33.3%の受精率)の既往のある122組のカップルを対象とし、191のAOAサイクルが実施されました。AOA治療後の全体的な受精率は63.3%(1,104 / 1,743)でした。 


MOATグループ1、2、3の受精率は、従来のICSIの9.7%、14.8%、17.7%から、それぞれ70.1%、63.0%、57.3%に大幅に増加しました。 AOA治療後、MOATグループ1群は、MOATグループ2群と3群に比べて有意に高い受精率を示しました。


MOATグループ1、2、3のAOA後の妊娠率は、それぞれ従来のICSIの0.0%、7.0%、7.0%でAOA後の49.0%、34.9%、29.4%と比較して大幅に増加していました。


MOATグループ1、2、3の生児獲得率は、それぞれ従来のICSIの0.0%、2.8%、0.0%からAOA後、それぞれ41.2%、22.6%、および22.1%に大幅に増加していました。


52人の単胎と4組の双胎が出生し32人の男児と28人の女児のいずれも、先天性の奇形はありませんでした。


<結論>
AOAは、前サイクルと比較して臨床結果の大幅な改善を示していました。


ストロンチウムや機械的活性化なども他にありますが、今回の検討はCaイオノフォアを使用しAOAを行っています。
特に精子に関連したOADに効果をもたらしたようです。さらに症例数が少ないですが、児にも影響がないような結果でした。過去の報告にもありますが、AOAはある程度効果があるようです。
しかし、児の影響など今後も報告が待たれます。

hCG・GnRHaどちらでtriggerしても正倍数率は変わらない

採卵する際、卵の成熟を促すため採卵の前々日にtriggerを行いますが、hCGで行う方法や、OHSSを回避するためGnRHaで行う方法があります。このtriggerの方法で胚の正倍数性が変わるか調査した報告をご紹介いたします。



"Euploidy rates between cycles triggered with gonadotropin-releasing hormone agonist and human chorionic gonadotropin"


PGT-Aを行った366人の2335個の胚盤胞生検を含む539IVFサイクル(hCG群336サイクル:GnRHa群203サイクル)を対象とし、最終的な卵成熟をhCGまたはGnRHaのいずれかを用いて行っています。
NGSを使い胚盤胞生検あたりの正倍数性の胚の割合、生児獲得率および流産率を調べています。


生検1個当たりで評価した場合、hCG群と比較してGnRHa群は、正倍数性胚の割合が高い結果でした。(37.8%:30.3%)。しかしながら、採卵あたりで評価した場合、この差は認められませんでした(11.9%:9.8%)


ただ、多変量解析を行った場合、trigger方法では有意差がなくなり、唯一の有意な予測因子は年齢のででありました。


生児獲得率と流産率は変わりはありませんでした(LBR:63.2%:59.7%、CLR:12.2%:11.5%)。


<まとめ>
この研究により体外受精において、hCG triggerと比較して胚生検1個あたりおよび採卵数1個あたりの正倍数性の胚の割合がGnRHα triggerの影響を受けない可能性が示唆されました。

胚移植前のhCG子宮内投与で妊娠率上昇

hCGを子宮内投与すると妊娠率が上がるのではないという報告はむかしからありますが、今回hCG子宮内投与により妊娠率が上昇すか調査したmeta-analysisをご紹介いたします。


2019年7月 Fertility and Sterilty
”Intrauterine injection of human chorionic gonadotropin before embryo transfer can improve in vitro fertilization-embryo transfer outcomes: a meta-analysis of randomized controlled trials”


hCGは、子宮内膜の増殖期から分泌期に様々なサイトカイン分泌を促進するのに重要な役割を果たします。さらに、着床ウィンドウ中に子宮内膜にさまざまなサイトカインの分泌を誘導すると報告されています。hCGはサイトカインシグナル伝達経路を調節することで胚着床になんらかの役割を果たす可能性があります。メタアナリシスおよび大規模な臨床試験が行われていますが、結果はさまざまです。
このメタアナリシスの目的は、IVFにおける子宮内hCG投与の効果を調査することです。


15件の報告がこのメタアナリシスに含まれており、子宮内hCG投与群(n = 1,406)と対照群(n = 1,357)に割り当てられた合計2,763人が対象となっております。
ET前のhCG投与時間の研究数は、15分未満(n = 10)、6時間(n = 1)、48時間(n = 1)および72時間(n = 1)であり、hCG投与量の研究数は、ET前に500IU(n = 12)、700IU(n = 1)、1,000IU(n = 1)でした。


<結果>
生児獲得率
生児獲得率は3件の研究で報告されており、hCG投与群は、対照群よりも1.89倍有意に生児獲得率は高い結果でした(44.89%(294/655):29.76%(211/709))。


継続妊娠率
継続妊娠率は6件の研究(1,364人)が報告されており、 hCG投与群は、対照群よりも2.02倍有意に継続妊娠率は高い結果でした(48.09%(189/393):33.42%(133/398))。


臨床妊娠率
臨床妊娠率は13件の研究(2,334人)が報告されており、 hCG投与群は、対照群よりも2.02倍有意に継続妊娠率は高い結果でした(47.80%(566/1184):32.78%(377/1150)。


着床率
着床率は7件の研究(3,585の胚移植)が報告されており、 hCG投与群は、対照群よりも1.60倍有意に着床率は高い結果でした(31.64%(585 / 1,849):22.52%(391 / 1,736)。


流産率
流産率は5件の研究(424人)が報告されており、 hCG投与群は、対照群よりも0.57倍有意に流産率は低い結果でした(12.45%(32/257):18.56%(31/167)。



<まとめ>
このメタアナリシスは、ET前に子宮内hCG注射群が有意に生児獲得率、進行妊娠率、臨床妊娠率、および着床率が高く、流産率低いことを示していました。
hCG投与時間に関して、15分未満のサブグループは、6時間および48時間以上のサブグループよりも生児獲得率、進行妊娠率、臨床妊娠率が高い結果でした。
投与量に関しては、500IUのサブグループは、700IUおよび1000IUのサブグループと比較して良好な結果でした。
この報告によると最適な用量および時間は、hCG500IUおよびETの15分以内でありました。