卵巣刺激しても異常胚の割合は自然周期と変わらない

女性の年齢上昇は、胚の異数性増加のリスクは事実でありますが、体外受精における外因性ゴナドトロピンを使用した卵胞刺激が減数分裂のエラーを高めるかどうかは確かではありません。


着床前遺伝子検査を行い、低、中、または高用量のゴナドトロピン療法を受けた4,034胚を評価し、正常胚や妊娠率の違いがあるか調べた報告では、全ての群で正常胚率や妊娠率に変わりを認めなかった。卵巣刺激が異数性胚を増加させる報告や増加させない報告もあり、今回の報告は、外因性ゴナドトロピンの異数性の増加をもたらすかどうかを正確に評価するため刺激周期(2,846人)と自然周期の異数胚率を比較しています。


2019年10月 Fertility and Sterilty
Embryonic aneuploidy rates are equivalent in natural cycles and gonadotropin-stimulated cycles
をご紹介いたします。


431人の自然周期IVF中、369人(85.6%)が採卵に進み、 62人は卵の回収ができませんでした。267人は1個以上採卵でき、249人は1個以上の受精ができ、142人が移植可能な胚盤胞が獲得でき、82人(57.7%)が正倍数性の胚を獲得できました。


329個の卵が自然周期群で回収され、302個(91.7%)が成熟しました。受精卵 275個(91.7%)、147個が良好胚盤胞(53.5%)をもたらし、PGT-Aにて、83個(56.5%)が正倍数性の胚でした。


自然周期群の異数性率は、卵巣刺激群の36.7%と比較して43.5%と有意差なく、さらに年齢を調整した多変量解析でも有意差を認めませんでした。
年齢で区分し、自然周期と刺激周期を比較してもそれぞれ異数性率は両群変わりませんでした。


<まとめ>
外因性ゴナドトロピン投与による卵巣刺激がヒト胚の異数性率に影響を与えないことが示唆されました。

凍結胚移植において子宮内膜の厚さは、出生体重に影響する?

本日は”凍結胚移植において子宮内膜の厚さは、出生体重に影響するのではないか”という報告をご紹介します。


2019年9月 Human Reproduction
”Effect of endometrial thickness on birthweight in frozen embryo transfer cycles: an analysis including 6181 singleton newborns ”


新鮮胚移植と凍結胚移植の両方で薄い子宮内膜では、着床率の低下をもたらし、また、EMTは子宮外妊娠のリスクに反比例することも報告されています。しかし、子宮内膜の肥厚も妊娠結果に悪影響を与える可能性があると報告されています。


この報告では凍結初期胚移植で妊娠した単胎の出生時体重に対する子宮内膜の厚さの影響を調査しています。


P開始もしくはhCG投与日の子宮内膜の厚さにより6181人を対象とし5つのグループに分類されました。①<8 mm ②8–9.9 mm ③10–11.9 mm ④12–13.9 mm ⑤≥14mm
これらの群の臨床結果と出生体重を比較検討しています。


<結果>
子宮内膜の厚さが8 mm未満の場合、着床率と臨床妊娠率が大幅に低下し、流産率が大幅に増加しました。
新生児の性別、妊娠年齢、妊娠関連の合併症の発生は、5つのグループ間で差はありませんでした。平均出生時体重と平均出生時体重のZスコア(妊娠年齢および新生児の性別に調整された出生時体重)は、子宮内膜の厚さに応じて大幅に変化しました。


子宮内膜の厚さと出生時体重との関係を評価するために、多変量解析にて交絡因子を補正した後でも、子宮内膜の厚さ <8 mm群では新生児の出生時体重と負の相関がありました。


<まとめ>
子宮内膜の厚さ <8 mmでは、凍結初期胚移植で妊娠した単胎の平均出生時体重と妊娠年齢および性別で調整された出生時体重(Zスコア)と関連していた。


薄い子宮内膜が低出生体重につながる理由は不明です。酸素分圧の違いが関係していると推測されています。以前の報告では、排卵後にらせん状動脈が収縮し、子宮内膜の表面への血流が減少するため、着床時に子宮内膜の酸素分圧が低下することが示されました。Schoots によると妊娠初期には、絨毛間腔の低酸素圧が正常な胚形成と胎児発達の主要な前提条件と報告されています。しかし、機能層が薄くなったり、機能層がなくなったりすると、胚は基底内膜からのより高い血管密度と酸素濃度にさらされる可能性があります。結果として、活性酸素が産生され着床および胎盤形成のための最適ではない子宮環境が生まれ、最終的に胎児の成長障害につながる可能性があります。このため出生体重に影響するかもしれません。

day7で胚盤胞となった正常胚はある程度妊娠する

生殖医療において、胚の選択は治療成績を上昇させるうえで最も重要であります。初期胚より胚盤胞移植を選択したり、新鮮胚移植より凍結胚移植を選択することで卵巣刺激により生じるホルモン環境の変化による有害な子宮内膜の影響を回避することで妊娠率を上昇させたりしています。
胚の発生に関して、発生遅延は胚の質の低下と生存率の低下に関連していると報告されています。PGT-Aされていないday7の胚盤胞の転帰を評価している報告は、day5/6の胚盤胞と比較して妊娠率および生児獲得率が低くなると報告されています。


今回PGT-Aを行い正常と判断されたday7胚盤胞の臨床結果を後ろ向きに検討している報告をご紹介いたします。


2019年9月 Human Reproduction
”What is the reproductive potential of day 7 euploid embryos?”


25 775個に栄養外胚葉生検およびPGT-Aを行いday5胚(n = 12 535)、day6(n = 11 939)、day7(n = 1298)の胚を分析しました。


正常胚の割合は、day5(54.7%)またはday6(52.9%)と比較してday7(40.5%)の胚盤胞で有意に低い結果でした。また、異数性胚の割合は、母体年齢の上昇とともに増加していました。交絡因子を調整後、day7に生検した胚は、day5胚の異数性の1.34倍、day6胚の異数性の1.26倍でした。


交絡因子を調整した多変量解析において、着床率、臨床妊娠率および生児獲得率は、day5/6胚と比較した場合、day7に生検した胚の方が有意に低い結果でした。しかし、流産率については統計的な有意差は見られませんでした。
胚の形態について検討した結果、形態良好胚が4BB未満の胚より成績が良い結果でした。


<まとめ>
当たり前かもしれませんが、day7正常胚しかない方はday5/6胚盤胞と比較すると妊娠率、生児獲得率は低下するが、妊娠する可能性があり流産率はかわらないという結果でした。

1PN由来の胚盤胞は2PN由来と成績、新生児の経過も変わらない

今回、前核が1個の(1PN)由来胚について調査した報告をご紹介いたします。


2019年9月 Fertility and Sterilty
"Obstetrical and neonatal outcomes after transfer of cleavage-stage and blastocyst-stage embryos derived from monopronuclear zygotes: a retrospective cohort study"



生殖補助医療において、受精の16〜18時間後に2つの前核(2PN)の存在によって受精確認されます。前核が1個の(1PN)が観察されることがあり、媒精の4%〜8%を占めますと報告されています。ほとんどの1PN受精卵は受精の翌日に卵割され、一部の受精卵は高品質の2PN胚と同様の形態を示します。 2つの前核と2つの極体が確認できれば正常の受精と判断され、胚移植に適していると判断されます。ただし、2PN胚が獲得できない場合があり、正常形態の1PN胚を移植に使用できるかどうかは不明です。
人の染色体は、44本で22対の常染色体と1対の性染色体がある。1本は父方から、1本は母方からくる2倍体であります。以前の研究では、1PN受精卵,卵割期,胚盤胞の2倍体の割合は、それぞれ37.5%〜86.7%、13.0%〜80.5%、69.2%〜100%という報告があります。2PN胚が存在せず1PN由来の胚盤胞33個を移植した後、健康な新生児9人の誕生が報告されています。しかし、1PN由来の胚は染色体異常の可能性があり、さらに1PN胚ETに関する研究の数が限られているため、1PN胚を使用したETの価値とリスクは不明です。


そのためこの研究では、媒精で受精させた凍結融解1PN胚に関する臨床結果と先天性奇形のリスクおよび精神運動発達について後ろ向きに調査しています。


凍結胚移植に使用された186個の1PN卵割期、696個の2PN卵割期、134個の1PN胚盤胞、および510個の2PN胚盤胞を対象とし成績を比較検討しています。


<結果>
妊娠率(PR):16.1%vs. 24.4%、着床率(IR):18.9%対28.9%、および生児獲得率:14.0%対23.7%は、1PNの方が2PN 初期胚移植よりも有意に低い結果でした。
しかし、凍結胚盤胞移植においてはすべて有意差はありませんでした。
流産率と子宮外妊娠率は、1PNおよび2PNの卵割期および胚盤胞移植で有意差を認めませんでした。


児の先天性奇形のリスクおよび精神運動発達に関しては、1PN由来であっても2PN由来であっても、交絡因子を考慮しても差はありませんでした。


<まとめ>
凍結胚盤胞移植であれば、媒精由来の1PNも2PNも臨床成績は変わらず、児の先天性奇形および精神運動発達障害に関してもリスクは変わらないという報告でした。


後ろ向き研究であり、この研究だけではなんとも言えず、1PNに由来する胚盤胞の移植の有効性と安全性を評価するために、さらなる研究が必要です。


また、タイムラプスを使用しても1PNと判断された胚の有効性と安全性に関する報告も待たれます。

精子DNAの断片化は胚発生・着床・流産に関係するかもしれない

過去数十年でいくつかの研究で精液の質が低下傾向が示されており、妊娠に影響があるのではないかといわれています。


今回ご紹介する報告は以前にもご紹介した精子DNA 断片化指数検査(SDF)についての報告です。
以前ご紹介した報告は精子DNAの断片化が流産と関連しているのではないかと報告されていました。


今回の報告は、男性不妊症ではない方に顕微受精(ICSI)を行い、SDFの割合により妊娠に影響するか調査しています。


2019年9月 Fertility and Sterilty
" Sperm DNA fragmentation is correlated with poor embryo development, lower implantation rate, and higher miscarriage rate in reproductive cycles of non–male factor infertility"


精子DNA 断片化指数検査(SDF) は、射出精子中にDNA損傷を起こしている精子の割合を知る検査です。精子DNAはプロタミンにしっかりと結合しており、外部からのダメージからDNAを保護します。 DNAの断片化が起こると、わずかな損傷であれば受精後の胚によって修復される可能性があります。しかし、胚によって修復可能な閾値を超えた著しいDNA断片化は、胚の発生不良、着床失敗、および流産の一因となる可能性があります。


男性不妊症ではない方に顕微受精(ICSI)を行った初回の475サイクルを対象に、SDF率に従って、低フラグメンテーション(≤30%SDF、n = 433)と高フラグメンテーション(> 30%SDF、n = 42)の2つのグループに分け治療成績を前向きに検討しています。


<結果>
高フラグメンテーション群(SDF≥30%)は、パートナーの年齢が高く、禁欲期間が長い、精液量・総精子数が多く、直線運動率・総運動精子数が少ないという結果でした。
SDFとパートナーの年齢、禁欲期間、精液量、および精子数と正の相関があり、
SDFと総運動精子数および直線運動率と逆相関を示していました。
高フラグメンテーション群(SDF≥30%)では高フラグメンテーション(> 30%SDF)と比較すると、正常な卵割速度、3日目の高品質胚、胚盤胞発生率、胚盤胞品質、および着床率の有意な低下を認めましたが、臨床妊娠率は変わりませんが流産率が著しく高い結果でした。


<まとめ>
非男性因子不妊症初回ICSIでは、SDFが高いと、胚発生率・着床率が低下し、流産率が高くなる可能性があると示唆されました。



精子DNAにダメージのある一部のケースは、ライフスタイルの変更、栄養補助食品、抗酸化物質、および精索静脈瘤の修復によって治癒する可能性があると報告があります。なかなかうまくいかない方の中には精子DNAフラグメンテーションが高い方もおられるかもしれません。