体外受精の卵巣刺激におけるガイドラインの指針案

ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)が体外受精の卵巣刺激におけるガイドラインの指針を発表しています。


本日は卵巣刺激に対する反応を予測する因子について書かれていましたので簡単にご紹介致します。


・AFC (Antral Follicle Count) 胞状卵胞数単独による卵巣反応の予測は信頼できる。
・AMH単独による卵巣反応の予測は信頼できる。
・FSH基礎値単独による卵巣反応の予測は十分に信頼できない。
・インヒビンB単独による卵巣反応の予測は十分に信頼できない。
・エストラジオール基礎値単独では卵巣反応の予測因子ではない。
・年齢だけで卵巣反応を予測することは十分に信頼できるものではない。
・BMI単独は卵巣反応の予測因子ではない。



卵巣刺激に対する高および低反応を予測するために、他の卵巣予備検査よりも胞状卵胞数(AFC)または抗ミュラー管ホルモン(AMH)が単独なら推奨されるということでした。

2%と5%の酸素濃度で胚を培養し比較した報告

一般的に胚培養は酸素濃度5%で行われます。体外受精が行われた最初の頃は、酸素濃度は大気圧の20%で行われていました。しかしながら、哺乳類の卵管の生理的酸素濃度は5〜8.7%と報告されており、胚発生に対する低酸素(5%)の有益な効果を示されています。


ヒトの胚は桑実胚期、3.5日目付近で子宮腔に到達するしますが、子宮内酸素濃度は約2%と測定されています。大気圧からより生理的レベルへの酸素濃度の低下は、細胞数の増加およびアポトーシスの減少、DNA断片化の減少、および酸化ストレスの減少し、哺乳動物の胚盤胞にとって有益であると報告されています。


この研究は、3日目胚を2または5%の酸素に曝露した後の胚盤胞発生を分析することを目的としています。


2019年2月 Hum Reprod
”Influence of ultra-low oxygen (2%) tension on in-vitro human embryo development”


<方法>
3日目までの胚培養を全て5%下で行っています。
研究①  
direct exposure:2%O 2(試験群)または5%O 2(対照群)中で一晩平衡化した培養液で3日目にそれぞれ移し培養した。
研究②
gradual exposure:対照群は5%O 2のインキュベーター中でさらに培養し、試験群では2%O 2のインキュベーター中に置き、5%O 2から2%O 2への緩やかに酸素濃度変化をさせながら培養した。


試験群と対照群の胚盤胞発生率および利用率(3日目から5日目までの長期培養を受けた胚の数あたり5/6日に移植または凍結保存された胚の数)、着床率と臨床妊娠率を比較しています。


<結果>
研究① direct exposure
2%O 2(試験群)と5%O 2での培養では、胚盤胞発生率、利用率に変わりはありませんでした。しかし、栄養外胚葉のグレードAは2%O 群で有意に多かったようです。
1回のETの妊娠率は、2%O 2(試験群):59.2%、5%O 2群(対照群)54.5%の妊娠率が得られました。


研究② gradual exposure
2%O 2(試験群)と5%O 2での培養では、胚盤胞発生率、利用率、胚のグレードに有意差を認めませんでした。
2%O 2(試験群):60.5%、5%O 2群(対照群)48.7%の妊娠率が得られました。


<まとめ>
5%O 2から2%O 2への曝露が直接的(研究①)であっても段階的(研究②)であっても、2%O 2条件は胚盤胞率、5日目の胚のグレードまたは胚利用率に影響を及ぼしませんでした。 5%O 2から2%O 2 への直接的な暴露を行なった場合、2%O 2で有意に栄養外胚葉のグレードAが多く観察されました。 しかし、緩やかに酸素濃度変化をさせながら培養した研究②には観察されませんでした。


他の研究では、胚の異数率は5%O 2も2%O 2でも同じでした。5%O2での培養は大気圧と比較すると活性酸素を減少させるのに重要な役割を果たし、さらに遺伝子発現に影響を及ぼしそしてモザイク現象を減少させ得るという報告もあります。また、エストロゲンとプロゲステロンも子宮の酸素濃度に影響を与えるという報告もあり、刺激法や移植法がどのように影響するかなどさらなる報告が待たれます。

男性の葉酸摂取について

本日は父親の葉酸摂取が、胎児の成長に影響するかもしれないという報告をご紹介いたします。


2019年2月 Fertility and Sterilty
"Does the father matter? The association between the periconceptional paternal folate status and embryonic growth"


葉酸は造血に関係するビタミンB群の水溶性ビタミンであります。食事やサプリなどによる葉酸摂取により神経管閉鎖症の発症リスクを低減させると報告され、摂取期間は妊娠の1ヶ月以上前から妊娠12週ころといわれています。食事より葉酸400μgを摂取することが困難なことがあり、厚生労働省より400μgのサプリメント摂取が勧められます。しかし、葉酸摂取量は1日1mgを超えるべきではないという情報提供がされています。


葉酸摂取は、胎児の成長にも良い影響を与えます。 Van Uitertらは、母親の葉酸状態が出生時体重と正の関連があり、低出生体重児のリスクと負の関連があると報告しています。 さらに、この著者は妊娠前の母親の赤血球の葉酸値が低値および高値であれば、胎児および胎児小脳の成長軌道の減少と関連していることを以前報告しています。


男性に関しては、血清および精液の葉酸レベルならびに葉酸サプリメントの使用が精液の質に良い影響を与えると報告され、Boonyarangkulらは、1日当たり5 mgの葉酸を用いた3ヶ月間の治療後、精子運動率は11.4%から20.4%に増加したと報告されています。ただ、高用量の葉酸補給により精子の形態異常が増加したと報告されています。


そこでこの報告は、父親の葉酸状態が妊娠転帰に与える影響を調査しています。自然妊娠と体外受精(IVF)・卵細胞質内精子注入(ICSI)後の妊娠における妊娠前後の父親の葉酸状態と児の成長軌跡の関連を調べています。


妊娠7、9、および11週目の頭殿長(CRL)および児体積(EV)を、3次元超音波で測定
妊娠の7±0週と9±6週の間の試験参加時に採取した。葉酸状態はRBCで測定し、
Q1(524–874 nmol/L)、
Q2(875–1,018 nmol/L)、
Q3(1,019–1,195 nmol/L)、
Q4(1,196–4,343 nmol/L)
に分類しCRL,EVを比較検討しています。
(RBC葉酸の正常値は340〜1,020 nmol / Lの範囲)


父親のFAサプリメントの使用に関する質問には、FAサプリメントがどの期間(妊娠前10週間以上)、どの投与量(0.4 mg、0.5 mg、または5 mg)で投与されたか含まれました。


<結果>
511人の含まれる妊娠のうち、合計303人が自然妊娠であり、208人がIVF-ICSI妊娠であった。


交絡因子を調整後、自然妊娠においてCRLはQ3と比較した場合、Q2およびQ4に有意に小さく、EV軌跡はQ4において有意に小さい結果でした。
IVF-ICSI妊娠においては、父親の赤血球葉酸状態とCRLおよびEV軌跡との間に統計的に有意な関連性は観察されませんでした。


自然妊娠において、妊娠11週の時点で、Q3のCRLは、平均で0.46 mm(1.0%増 対Q1)、1.74 mm(4.0%増 対Q2)、1.72 mm(4.0%増 対Q4)大きくなっていました。 EVは、11週目の時点で、それぞれ平均で0.25 cm 3(3.2%増対Q1)、0.62 cm 3(8.4%増対Q2)、1.05 cm 3(14.9%増対Q4)でした。


<まとめ>
赤血球で評価した父親の葉酸状態が、妊娠期間の7〜11週の期間のCRLおよびEVの児成長軌跡の低下と関連していることが示されました。父親のQ3(1,019–1,195 nmol/L)の赤血球の葉酸レベルは、Q2(875–1,018 nmol/L)およびQ4(1,196–4,343 nmol/L)と比較すると児成長軌道が最大でありました。これらの関連は、自然妊娠にのみ存在し、IVF-ICSI妊娠には存在しませんでした。


この報告では葉酸サプリを服用している男性は少なく(8.1%)、食事からの摂取・生活習慣が葉酸レベルの決定要因と考えられ、葉酸が豊富な食事を意識して摂取することが重要ということでした。


児の成長軌道の変化については、精子形成中の葉酸が胚の父方のエピゲノムに影響を与えているのではないか?IVF-ICSIで児の成長軌道に変化がみられないのは、IVF-ICSIの手順により、胚のDNAメチル化などのエピジェネティックリプログラミングや子宮内膜の受容状態が父親の葉酸状態の影響を無効にするのではないか?と考察されていました。


これらの報告から、葉酸がたりなくても、とりすぎても精子や児の成長軌跡に影響するかもしれません。
さまざまな集団での報告が待たれます。

遺伝カウンセリング後、モザイク胚をどうしているか?

本日は
”着床前診断を行いモザイク胚と診断された胚しかない方は、その後の選択肢をどうしているか”
を調査した報告をご紹介いたします。


2019年1月 Fertility and Sterilty
”What are patients doing with their mosaic embryos? Decision making after genetic counseling”


受精卵の栄養外胚葉(胎盤に将来なる細胞)を採取して、染色体数のスクリーニングを行うPGT-A(preimplantation genetic test for aneuploidy)により、正倍数性の単一胚盤胞移植することによって、多胎妊娠率および流産率を減少したと報告されています。
しかし、技術が進歩するにつれ、細部まで検査することができ、単純に正倍数性や異数性と判断できなくなってきています。正倍数性や異数性と判断されるコピー数でもない場合があり、モザイク胚と診断されることがみられるようになってきました。一部の次世代シーケンシンサー(NGS)解析では、1.8〜3 Mbという小さな染色体の増減し、他の手法よりも多くのモザイク現象を検出する場合があります。モザイク現象は、1つの胚に異なる遺伝子型を持つ2つ以上の細胞集団の存在として定義され、受精後に発生する細胞分裂エラーから生じると報告されています。


この報告では、異常細胞が20%〜80%に相当すればモザイク胚と分類されました。 異常細胞が20%未満であれば正倍数性として分類され、異常細胞が> 80%であれば異数性として分類されました。 この20%閾値(1/5細胞)は、平均胚盤胞生検が約5細胞であるとして使用されています。


モザイク胚は正倍数性と判断された胚よりも流産率が高いという報告もあり、モザイク胚の移植(MET)は、潜在的なリスクを考えると、遺伝カウンセリングはMETを検討しているすべての患者にとって不可欠です。


この報告は、正倍数性の胚や検査していない胚がない場合、患者さんが①モザイク胚を移植するか、②再度IVFまたは人工授精を行うか③廃棄するか、または④凍結保存をしておくかどうかを調査しています。多重ロジスティック回帰を用いて、METを行う予測因子を決定しています。


<結果>
生検胚あたりの染色体モザイク現象の全体の割合は28.4%でした。 全てのNGS試験胚の19.1%がモザイク異数性のみを有し、METについて考慮されました。


遺伝カウンセリング後、
①29/98人(29.6%)がMETの治療を選択。
②41/98人(41.8%)は再度IVFまたは人工授精を選択。41人のうち3人(7.3%)は、最終的にMETを選択しました。
③6/98人(6.1%)がモザイク胚を破棄することを選択。
④17/98人の患者(17.3%)が何の行動も取っておらず、モザイク胚は凍結保存されたままでした。
その他自然妊娠、胚の移送等



多重ロジスティック回帰分析によれば、年齢および過去の採卵回数の両方がMETを行う決定に有意に寄与していることがわかりました。


①MET後に8/29人(27.6%)が妊娠しました。MET後に妊娠した6/11回(54.5%)が羊水穿刺を用いて出生前診断を受けていました。 このうちの2人は、通常の核型分析に加えて、出生前の染色体マイクロアレイ(CMA)を行なっており、核型およびCMAの結果はすべて正常でした。また、出生時に先天異常があると報告された赤ちゃんはいませんでした。


②再度IVFまたは人工授精を選択した21/41人(51.2%)が最終的に妊娠していました。


METを選択した群より再度IVFまたは人工授精を選択した方が有意に妊娠率が高い結果でした。(27.6%:51.2%)


<まとめ>
METは、正倍数胚を持たない約30%に行われていました。再度IVFまたは人工授精を選択した方が、METを行った群と比較して、妊娠する可能性が高い結果でした。ただし、両方の選択肢の費用対効果、生児獲得までの期間、およびリスクを比較するには、さらなる研究が必要です。



年齢が若ければ再度採卵を行い正常胚を獲得する可能性も高いですが、採卵回数が多い方や正常胚獲得の可能性が低下する高齢の方は肉体的、心理的、経済的負担のためMETを希望されることが多いようでした。


この報告の欠点としては、遺伝カウンセリングが単一の施設でのみ評価されていることです。遺伝カウンセリングの目的は正確な情報伝達と意思決定を手助けすることですが、METに関する診療所特有の方針や医療提供者の態度に影響された可能性があります。
したがって、違う施設や集団で同様の検討が行われても、結果が異なる可能性もあります。
また、何番のモザイクかでも移植するか再度採卵するかなど選択肢が違う可能性もあります。モザイク胚に関する遺伝カウンセリングのためのベストプラクティスを確立するためには、さらなる研究が不可欠と締めていました。

凍結胚移植における培養時間(3日目の初期胚、5日目、6日目の胚盤胞)と出生体重の関係

こんにちは


本日は”胚の凍結時期により出生体重が変わるのではないか”という報告をご紹介いたします。


2019年1月 Fertility and Sterilty


"Effect of in vitro culture period on birth weight after vitrified-warmed transfer cycles: analysis of 4,201 singleton newborns"


をご紹介いたします。


凍結胚移植はますます増加しています。体外受精児の長期的な安全性は、不妊治療を行うカップルにとって大きな関心事であります。凍結胚と出生体重の関係は、様々な報告がありますが、凍結胚移植において、出生体重が重い可能性が高いと報告されています。出生時体重の異常は、胎児期および新生児期の合併症のリスクを高めるだけでなく、その後の成人期代謝疾患の強い予測因子でもあります。


今回、凍結胚移植の中でも培養時間(3日目の初期胚、5日目、6日目の胚盤胞)と出生児体重を比較しています。


対象:年齢40歳以下、BMI:26kg / m 2未満、最大2個の胚移植。
hCGを使用した自然周期、または月経不順があればホルモン補充周期で胚移植を行なっています。


この論文での定義
低出生体重(LBW):<2,500 g、超LBW:<1,500 g、high birth weight (HBW):> 4,500 g
早産および very preterm birth は、それぞれ妊娠37週および32週未満の出産。
妊娠週数の割に小さい(SGA):出生時体重が10パーセンタイル未満、very SGA:出生時体重が3パーセンタイル未満。
妊娠週数の割に大きい(LGA):出生時体重がそれぞれ>90パーセンタイル、very LGA:出生時体重が> 97パーセンタイル。
さらに、Zスコアを採用して、以下の式に従って新生児の性別および在胎週数に合わせて調整された出生体重を計算しています。Zスコア=(x - μ)/σ、xは児の体重、μは参照グループにおける同性および同じ妊娠期間の平均出生時体重、そしてσは参照の標準偏差 グループ。


3日目胚と比較して6日目胚に有意に多くの男児をみとめています(57.1%対51.4%; P = 0.02)。 平均出生時体重は、全てのグループで有意差を認めていませんでした。しかしながら、5日目胚、6日目胚では、3日目胚のよりも高いZスコアが観察されました。


LGA児のリスクは、3日目胚と比較して5日目胚が1.64倍、6日目胚が1.24倍高かった。 また、very LGA児のリスクは、3日目群と比較して6日目群で1.35倍有意に高かった。 LBW、very LBW、HBW、早産、SGA、およびvery SGAの発生率は、グループ間で変わりはありませんでした。


重回帰分析を実施して、交絡因子を補正しても、出生体重と培養期間との間に正の関連が見出されました。
母親のBMI(P <0.001)、父のBMI(P = 0.004)、新生児の性別(P <0.001)、および妊娠時の妊娠年齢(P <0.001)はすべて独立した出生時体重の予測因子でした。


まとめ
性別および在胎期間を調整した出生時体重(Zスコア)とLGA児の割合の両方が、初期胚よりも胚盤胞で有意に高いことが示されました。