媒精後、培養時間により妊娠率は変わるか?

こんにちは


本日は
”媒精後の卵と精子の培養時間を短時間とした場合でも治療成績は変わらない”
という報告をご紹介いたします。


2019年1月 Hum Reprod
A randomized triple blind controlled trial comparing the live birth rate of IVF following brief incubation versus standard incubation of gametes


通常、採卵した卵と精子を媒精した場合、15〜20時間ほど培養し翌朝に受精状態を確認します。 しかし精子は15分以内で卵丘細胞を貫通することができ、多数の精子にさらされると、1時間以内に80%の卵が受精することができると報告されています。
時間が経つと精子は高レベルの活性酸素種(ROS)を産生し、透明帯を硬化させ、胚の質および着床能力に悪影響を及ぼし最適ではない可能性があります。そこで短時間の卵と精子の媒精が、体外受精の成績を改善すると報告されています。2013年のコクランによると733人の女性を対象とした8件のメタアナリシスは、標準的な培養と比較した場合、短時間培養は流産率は変わらず、妊娠率が高いことを示しています。しかし、含まれた試験は質が低く、サンプル数が少ないといわれています。


そこでこの報告は
①卵と精子を約3〜4時間培養した短時間培養群

②卵と精子を約20時間培養した標準培養群
とし治療成績を無作為三重盲検試験で比較しています。


対象は43歳未満、卵管、子宮内膜症、原因不明の軽度の男性因子


採卵後3日目に新鮮胚移植を行い、のこりは胚盤胞移植を行われています。
主要評価項目は新鮮胚移植における生児獲得率であり、二次評価項目は臨床妊娠率、進行妊娠率、流産率、多胎妊娠率、受精率、多胎率および新鮮胚移植における着床率としています。


<結果>
0.3〜120万/mlの運動精子での媒精条件で短時間培養群および標準培養群間では生児獲得率に有意差をみとめませんでした。同様に、臨床妊娠率、進行妊娠率、流産率、多胎妊娠率、受精率、多胎率および新鮮胚移植における着床率も有意差を認めませんでした。
累積出生数は、短時間培養群(46.8%、75/160)および標準培養群(45.0%、72/160)で同様でした。


35歳未満/35歳以上、初回/反復および正常/異常精液所見とサブグループ分析しても同様の結果でした。


<まとめ>
この無作為試験において、0.3〜120万/mlの運動精子での媒精条件で卵・精子の短時間培養は、標準的な培養と比較した場合、新鮮初期胚移植において生児獲得率を改善させないことが示されました。さらに、累積生児獲得率も差を認められませんでした。


短時間培養の利点としては、授精後6時間で第2極体の放出がなければ、その後顕微受精を行うことができるということです。しかしながら、卵丘細胞を除去するためのピペッティングによる機械的ストレスが胚に悪影響を及ぼし得るといわれています。また、卵と卵丘細胞の共培養により、正常受精率と胚の質を高めることができると報告されているため、 この研究では、周囲の卵丘細胞を保持しています。


年齢が高齢、複数回の体外受精周期患者さんは活性酸素の影響を受けやすく、精液所見が異常であれば多くの活性酸素が産生される可能性があります。
この研究では、運動性授精精子数を低濃度(1 mlあたり0.3-120万運動性精子)にすることで、精子由来の代謝老廃物が培地中で少なると考えられました。しかし、精液所見によるサブグループ分析では成績に影響しませんでした。


短時間培養は1日のラボワークが多くなり、人員がより必要となります。この研究結果より体外受精の成績が変わらないため、短時間培養をあえて行わなくても良いのではないかということでした。

精液所見と体型

みなさんこんにちは


本日は”体型と精液所見が関係あるのではないか”という報告をご紹介いたします。
2019年1月 Hum Reprod
Association between BMI and semen quality: an observational study of 3966 sperm donors


世界中で7000万人のカップルが不妊または不妊を経験していると推定されており、約40%が男性が関係しているといわれています。2017年に発表された報告によると、1973年から2011年に行われたメタアナリシスにおいて、西洋諸国の男性の精子数(精子濃度または総精子数のいずれかによって測定)が50%以上減少してきていることが指摘されています。根本的な原因は不明ですが、除草剤、農薬および環境汚染物質など精液の質を低下させているという報告があります。
 BMIと精液検査結果との関連性の背後にある病態生理学は不明であります。過体重や肥満は精子形成に重要なGnRH-FSH / LHパルスに影響を与えることが示されています。これはライディッヒやセルトリ細胞の機能を弱め、性ホルモンの放出や成熟精子の産生を妨げる可能性があると報告されています。対照的に、低体重と精液検査結果との関係は、低栄養が男性ホルモンに悪影響を及ぼすといわれておりますので、低栄養によるものではないかといわれています。栄養不良はテストステロンレベルの低下と関連しており、成熟に必要なシグナルを発達中の精子から妨げ、精子形成を乏しくしている可能性があります。


BMIと精液所見の関係性があるかを検討した報告は様々ありますが、結論はでていません。そこでこの報告は健康な男性を対象として、体型と精液所見の関係を検討しています。


対象:22〜46歳の精子提供者、3966人の中国人男性から行なった29,949件の精液検査
基準:
2〜7日間の禁酒期間
(i)液化時間が60分未満、精子濃度が60×10 6 / ml以上、進行性運動性が32%以上、正常な形態学的パーセント以上15% 
(ii)解凍後の精液は≧40%の運動性、≧12×106の総運動性精子数、および≧60%の凍結融解生存率。


BMI = 体重[kg]/ 身長[m]2とし
世界保健機関(WHO)のガイドラインにそって、低体重(<18.5 kg / m 2)、普通体重(18.5〜24.9 kg / m 2)、過体重(25〜29.9 kg / m 2)または肥満(≥30 kg / m 2)に分類。


精液基準を満たした男性の精液所見と低体重、普通体重、過体重、肥満の4群を比較検討しています。


<結果>
普通体重と比較して、低体重群は、精子濃度、総精子数および総運動性精子数が有意に低いことを示した(P <0.05)。
一方、精液量と総精子数は過体重で有意に低かった(P <0.05)。

BMIでの分類では総運動率または前進運動率に関して有意差を認めませんでした。


用量反応関係を調べると
正常体重の中央値BMI(21.6 kg / m 2)より低い場合、精液量、精子濃度、総精子数、総運動精子数はBMIの減少と共に単調に減少しているようでした。
21.6から30 kg / m 2のBMIでは、精液量、総精子数および総運動性精子数はBMIの増加と逆相関していました。 BMIと精子運動率の間に有意な関係は観察されませんでした。


<まとめ>
精液所見がある程度問題ない方を対象とし29,949件の精液検査を受けた3966人におけるBMIと精液検査との関連を調べたところ、
低体重では精子濃度、総精子数および総運動性精子数と反比例の関係を示し、過体重は精液量、総精子数および総運動性精子数の減少と関連していました。
しかし、この集団における肥満と精液検査結果に有意な関連は観察されませんでした。
このことより報告では正常な体重を維持することの重要性を唱えていました。



しかし、過体重より重い肥満と精液検査結果の関連性が観察されていないというのも引っかかります。また、過体重・低体重でも精液所見はわずかに変わるだけでありました。

子宮内膜のスクラッチ効果

子宮内膜をスクラッチすると妊娠率が上昇する可能性があるという報告は多くあります。


子宮内膜をスクラッチで妊娠率が上昇するメカニズムは不明ですが、
子宮内膜の脱落膜化が誘発され、胚への感受性が高まる可能性
サイトカインおよび成長因子の分泌を含む創傷治癒を誘発し胚移植に有利に働く可能性
子宮内膜の成熟を促進する可能性
などが報告されています。


子宮内膜のスクラッチは反復着床不全の方などに行われることがありますが、
以前ご紹介した報告においてスクラッチの効果がみられそうな対象としては、
胚移植2回以上しても妊娠していない方で、新鮮胚移植サイクルに効果をもたらしそうであるということでした。


今回ご紹介するのは、”胚移植が1,2回目では妊娠率が変わらないのではないか”という内容です。


2019年1月 Hum Reprod
Decrease in pregnancy rate after endometrial scratch in women undergoing a first or second in vitro fertilization. A multicenter randomized controlled trial


18〜38歳、体外受精が1.2回目の方を対象とし
内膜スクラッチ(ES)群:採卵周期前の月経20−24日目に内膜スクラッチし、採卵後2,3日に胚移植。
非ES群:スクラッチなしに胚移植。
に分けられました。
胚移植はES群で68回、非ES群で64回施行され、治療結果を比較しています。


<結果>
臨床妊娠率は、ES群で23.5%(16/68)、非ES群で35.9%(23/64)でした。(有意差なし)
流産率、子宮外妊娠率、多胎率は両群で有意差を出すことができませんでした。


有害事象としては、胚移植を受けた132人のうち23人(17.4%)が卵巣過剰刺激、骨盤痛、腹痛、出血などの有害事象を認めました。(ES群では8/23人、非ES群では15/23人。)


<まとめ>
内膜スクラッチは、IVFサイクルが初回または1回で妊娠しなかった女性において、臨床妊娠率を改善しないことが示唆されました。 



この報告は、採卵が1,2回目の若い方を対象としています。卵巣機能の悪い方、40歳以上などを中心とした集団ではどうなるかも気になります。"凍結胚移植ではスクラッチの効果は認めない”や”卵胞期にスクラッチしても妊娠率の改善がない”などの報告もあり、この報告の結論でも書かれていたように、どの集団が内膜スクラッチの恩恵を受けるかをより明確するために、サブグループ分析に焦点を合わせた報告が待たれます。

採卵後5日目で発育の遅い胚について

みなさんこんにちは


本日は採卵後5日目で発育の遅い胚について新鮮胚移植をするか凍結して胚移植をした方が良いか検討した報告をご紹介いたします。


Hum Reprod. 2019 1月
”Fresh transfer of Day 5 slow-growing embryos versus deferred transfer of vitrified, fully expanded Day 6 blastocysts: which is the optimal approach?”


一般的に採卵後5日後の新鮮胚移植において、発育の遅い胚は拡張胚盤胞よりも妊娠率が低下するといわれています。これは、子宮内膜の発育と胚の発育が同期していないからと説明されています。そのため、発育の遅い胚は、拡張胚盤胞まで培養し一旦凍結させておいて、後ほど凍結胚移植を行うことで、子宮内膜と胚を同期させるアプローチがあります。


この研究は、発育の遅い胚を新鮮胚移植した方がよいか、追加培養を行い凍結胚盤胞移植を行った方が良いか検討しております。


この研究は、下記の方を対象としています。
年齢<40歳、桑実胚または発育の遅い胚盤胞(Gardner(ガードナー)分類 IおよびII)を選択的にday5に単一新鮮胚移植を行なった方。さらにday5までにGardner分類 Ⅲの完全胚盤胞にはなっていない群で、day6に完全胚盤胞を凍結でき、凍結胚移植を行なった方。


365人のGardner分類 IおよびII(I群)で新鮮胚移植した群、112人の新鮮桑実胚移植(II群)に分けられました。


(I群)の新鮮単一胚盤胞の移植の結果は、妊娠率31%および生児獲得率23.3%でありました。
凍結胚移植は妊娠率30.4%、生児獲得率20.3%でした。

交絡因子を除いても、新鮮胚移植と凍結胚移植の差は認めませんでした。


(II群)の新鮮桑実胚移植の移植の結果は、妊娠率5.3%および生児獲得率1.8%でありました。
凍結胚移植は妊娠率30.1%、生児獲得率20.5%でした。

新鮮胚移植と比較すると凍結胚移植は交絡因子をコントロールした後も、生児獲得率は有意に高い結果でした。


(I群)と(II群)の凍結胚移植を比較すると結果に有意差は認めませんでした。


まとめ
完全胚盤胞まで成長しなかった胚を採卵後5日目に新鮮胚移植する場合、day6に凍結された完全胚盤胞と同様の成績をもたらすと予想されました。しかし新鮮桑実胚移植の生児獲得率は非常に低い結果でした。 桑実胚の場合は、完全胚盤胞まで培養延長し新鮮胚移植を避けることで、生児獲得率を有意に改善することができたという報告でした。



桑実胚の新鮮胚移植の結果が悪い原因としては、桑実胚の28%が胚盤胞への発育しないと報告されているかのも原因の一つと考えられます。また、day5の桑実胚の異数性率は79.8〜92.9%と報告されており、移植しても生児獲得率が低い原因と考えられます。
そのため、胚盤胞に発育すれば、ある程度胚を選択でき許容できる妊娠率、生児獲得率となり得ます。


ただ後ろ向き研究であり、新鮮胚と凍結胚はホルモン状態が異なること、長期培養する基準が良好な初期胚が3個存在する場合にのみ行われている、などバイアスがかかっている可能性が挙げられていました。

人工授精について

本日は人工授精についての報告をご紹介いたします。


Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2018
Does intra-uterine insemination have a place in modern ART practice?


WHOの不妊症の定義は、12カ月の性交にもかかわらず妊娠しなかったカップルと定義されています。その割合は、英国(NICE 2013)やオーストラリアでカップルの6人に1人、米国でカップルの10人に1人(CDCデータ)と報告されています。


不妊治療の最も一般的な原因は、男性不妊(記録された原因の37%)、原因不明(32%)、排卵障害(13%)、卵管疾患(12%)、子宮内膜症(6%)でありました(HFEAデータ2018)。


人工授精(IUI)は、一部の不妊症カップルにおいて安価で、侵襲の低い治療法です。 このIUIの原理は1973年にSettlageらが下記のように報告しています。
性交渉により腟上部に射精された精子は、1時間後0.1%のみが子宮頸管に到達し、1400万匹の運動性精子のうち1匹だけが、卵管内の受精部位に到達すると報告しています。 IUIの目的は、洗浄後の精子を受精部位での密度を増加させることであります。 洗浄・濃縮することにより、受精を妨げる可能性のある非運動精子、精液内のゴミ、白血球および精漿をなるべく取り除くことができます。このことにより、妊娠を促します。


卵巣刺激+IUIを行うと妊娠率は上昇しますが、多胎率も上昇するというデメリットがあります。HFEAデータ2018によると、2016年のIUIの生児獲得率は12%でした。成功率は、年齢の増加に伴って減少しました(35歳未満の患者では14%、35〜37歳の患者では12%)。しかし多胎率は8%でありました。


どのくらい精子が存在すればよいかというと、精子の質に関するBFSガイドラインでは、前進する運動精子の濃度がもっとも妊娠を予測できる因子であることが示されている。 IUIには少なくとも500万匹運動性精子が必要であり、その下では妊娠率が低下する可能性があります。
費用対効果を考えると、洗浄後総運動精子数(TMSC)が3百万匹以上であれば、IUIでは生児獲得する単価が低かったが、TMSCが低い男性ではIUIがIVFやICSIより高価であり、ICSIが最も費用効果が高いと報告されています。


様々な方がIUIにて治療されていますが、NICEガイドライン2013(CG 156)によると原因不明や男性因子、軽度の子宮内膜症である不妊カップルは、IUIよりも体外受精(IVF)を推奨しております。この根拠としていくつかの報告を考慮しています。その中の一つとしてBhattacharyaらの報告があります。この報告は、原因不明の不妊症に対し、待機治療(定期的な性交)、クロムフェンクエン酸塩(CC)および非刺激IUIを比較するRCTを実施しました。生児獲得率は、待機治療17%、CC 14%、非刺激IUI 23%であり、統計学的に有意でありませんでした。結論としては、CCまたはIUIは、待機治療より優れた生児獲得率を提供する可能性は低いというものでした。


しかしながら、TUI試験2018は、卵巣刺激したIUI(n = 101)3サイクルまたは待機療法(n = 100)3サイクルにランダムに割り当て妊娠率を検討しました(1:1)。待機群では9%の累積生存率であったが、IUI群は31%と高い値を示しました。 生児獲得率は27%(IUI)対7%(待機群)であった。 OHSSの症例はありませんでした。多胎妊娠はIUI群で6%でありました。この研究では、卵巣刺激を行なったIUIは安全かつ効果的な治療選択肢であり、待機療法よりも生児獲得率が3倍向上していると結論づけられました。


この他にも、NICEを支持しないような報告もあり、この報告の結論としては以下の通り述べられていました。
卵巣刺激したIUIは、原因不明不妊症や軽度男性因子の不妊症の方に対し、安全で安価、患者に優しく、IVFの代わりに劣らない可能性があるのではないか。それを証明するにはより良い研究が待たれるとまとめていました。


IUI成功の因子としては、年齢・運動精子数・不妊期間・流産の有無など挙げられています。上記のような因子を考えながら治療方針を決めていかなければなりません。