原因がわからない不妊症において、待機治療と卵巣刺激した人工授精はどちらが良いか

機能性不妊症とは、避妊しないで性交を 12 か月続けても妊娠しないカップルで、不妊検査で異常が見られない場合に診断されます。このようなカップルは、自然妊娠と比較して妊娠率を高めることを目的とした卵巣刺激を伴う IUIーOSで治療されることがよくあります。女性の年齢、不妊期間、精子の運動性、妊娠既往など自然妊娠の可能性を予測するモデルを使用して、自然妊娠の可能性が高いカップル (次の 12 か月以内に成功する妊娠のスコアが 30% 以上) と見込みのないカップル (スコアが 30% 未満) に分けます。


Steuresらによると原因不明の不妊症で自然妊娠の見込みが高いカップルでは、​​IUI-OS を 6 サイクル行っても、待機治療 (EM) よりも生児出生率が高くなることはありません。ただし、原因不明の不妊症で予後不良のカップルにおいては、 EM と比較した IUI-OS の有効性は不明です。どちらも2020年のCochraneによる 2 つのメタ分析では、IUI-OS による治療が EM と比較してより高い生児出生率につながるかどうかについての不十分と示されます。


2018年のFarquhar らによるランダム化比較試験 (RCT) では、自然妊娠の予後が不良なカップルでは、​​IUI-OS が生児出生率を高めることが示されました。この研究では、不妊期間の中央値はほぼ4年であったため、これらの調査結果をすべてのカップルに適応できません。


したがって、原因不明の不妊症で自然妊娠の予後が悪いカップルで、6か月のEMは6か月のIUI-OSと比較して妊娠に悪影響を及ぼさないかどうかを評価しました。


<結果>
EM に 92カップル、IUI-OS に 86カップルが割り当てられました。ITTl解析とper protocol解析を行なっています。
ITT解析では、EM に割り当てられたカップルは、IUI-OS に割り当てられたカップルよりも出生率が低い結果でした (12/92 (13%) vs 28/86 (33%)。 
事後ロジスティック回帰分析を実施し、年齢、BMI、出産歴、生殖能力低下の期間、および総運動精子数を補正しました。差は調整後も残っていました (オッズ比 3.46)。


per protocol解析では、EM グループでは 8/70 (11%)、IUI-OS グループでは 26/73 (36%) の出生があり (RR 0.32)、EM の劣勢がわかりました。


予後のサブグループ解析によると、EMグループでは38歳未満の女性の生児出生率がIUI-OSと比較すると有意に低いことが示されました。 38 ~ 43 歳の女性では、EM と IUI-OS の間で出生率に有意差は見られませんでした。



<まとめ>
この RCTによると、原因不明の不妊症で自然妊娠の見込みが低いカップルでは、EM の 6 か月は出生率に関して IUI-OS よりも劣っていました。 EM 後の出生率は 13% でしたが、IUI-OS 後の出生率は 33% でした。

3Dエコーでの卵胞測定2Dエコーより成熟卵数を予測する?

一般に卵胞型を測定する場合、2 次元エコーで長径を測定もしくは、2箇所を測定し平均値にて卵の成熟を予想します。この報告では3 次元エコーにて卵胞体積を測定することで採卵時の成熟卵獲得を予想出来るか検討していますのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 5, November 2022 0015-0282


ゴナドトロピン刺激による卵巣の反応性の推定は、発育した排卵前卵胞数 (PFC) と獲得できた成熟卵(MII) 数に基づいています。 PFC は胞状卵胞数に依存するため、これら 2 つのパラメーター間の比率は、刺激に対する卵巣の反応を予測する胞状卵胞数 (AFC)単独よりも優れている可能性があります。Follicular Output Rate concept (FORT) は、PFC を AFC × 100 で割ったものとして定義され、V.K. Genroらにより2011 年に発表されています。排卵前の卵胞は、平均直径が 16 ~ 22 mm のものとされています。その後、高FORT は妊娠率が高く、MII 獲得数が高く、胚の質が良いと報告されています。低 FORT は、MII 卵数が少なく、妊娠率が低いことと関連しており、予後不良の患者の 次の周期を計画するのに役立つ可能性があります。驚くべきことに、患者を高、中、低の FORT に従って層別化すると、FORT と AFC 、抗ミュラー管ホルモンレベルとの間に負の相関関係がありました。


直径により胞状卵胞を層別化する場合、AFC の定義に 2 ~ 10 mm の卵胞が含まれていますが、5 ~ 6 mm 未満の小さな卵胞が真の機能的な卵巣予備能を表しているという報告もあります。卵胞は不規則な形状の構造であるため、2D超音波測定は不正確であり、観察者内および観察者間の変動性が大くなり、実際の卵胞容積との相関が低いと報告されています 。 3D で求められた容積は、卵胞の直径よりも真の卵胞サイズでありより信頼できる尺度であります。 


本研究では、排卵前の卵胞の体積 (FORT-V) と卵胞の直径 (FORT-D) を使用し、FORT を計算、成熟卵の採卵率 (MOOR) を予測します。容積ベースの排卵前卵胞を、容積が 0.7 cc 以上のものと定義しました 。体外受精[IVF]患者と卵子提供者の両方が別々に分析されました。


卵巣刺激治療を受けている 245 人 (97 人の卵子提供者と 148 人の IVF 患者) を対象としています。


すべてのケースで、2 段階評価プロトコルが使用されました。 AFCは2D超音波を使用して手動で行われ(手動AFC)、次にSonoAVCantralソフトウェア(SonoAVC、General Electric Medical Systems)を使用して卵巣の3Dボリュームが取得されました。トリガー日まで、排卵誘発中に連続的に超音波検査を行っています。各検査で、直径が 10 mm を超えるすべての卵胞を手動で測定する 2D 評価が行われ、最大直径の平均が計算されました。その後、刺激後の卵巣の 3D ボリュームが記録されました。 
 トリガー日の PFC 数が記録され、 2D および 3D 超音波測定を使用して、平均直径 16 ~ 22 mm の卵胞を排卵前とみなし、カウントしています。3D 超音波を使用して、体積が 0.7 cc を超える卵胞は排卵前とみなされ、カウントされました (PFC_volume)。 2 ~ 10 mm の卵胞を胞状卵胞としています。これらのパラメーターを使用して、FORT (PFC/AFC × 100) と MOOR (MII/AFC × 100) を計算しています。


手動 FORT = (手動 PFC/手動 AFC) × 100
コンピューターで求められたFORT = (コンピューターによる PFC/コンピューターによるAFC) × 10
FORT-V = (PFC_ボリューム/コンピュータによる AFC) × 100
手動  MOOR = (MII/AFC マニュアル) × 100
コンピューターで求められた MOOR = (MII/コンピューターによる AFC) × 100


この報告では、MOOR を予測する FORT-V と FORT-D について検討しています。また、コンピューターでによるAFC と PFC_volume の間の相関関係、および PFC_volume と MII 卵数の相関関係も検討しています。


<結果>
コンピューターによる AFC は、 IVF患者と卵子提供者の両方のグループで手動 AFC よりも多い結果でした (卵子提供者中央値: 4個差 、IVF 患者中央値:4個差)。 IVF 患者では手動 PFC とコンピューターによる PFC の間に有意差はありませんでしたが、卵子提供者ではコンピューターによる PFC の方が2個多かった。 PFC_volume は、両方のグループで手動よりコンピューターによる PFC が大幅に多い結果でした。 


手作業による FORT とコンピューターによる FORT の比較では、卵子提供者で有意差はみられませんでしたが、IVF 患者では、手作業による FORT はコンピューターによる FORT よりも大きい結果でした。卵子提供者と IVF 患者の両グループで、FORT-V は FORT-D よりも大きい結果でした。 


どのパラメーターが MOOR に最も近いかを判断するために、手動 FORT と手動 MOOR、コンピューターによる FORT とコンピューターによる MOOR、FORT-V とコンピューターによる MOOR を比較しました。結果は、FORT-V が MOOR に最も近い比率であり、卵子提供者で 10% (95% CI、6%–14%)、IVF 患者で 9% (95% CI、5%–13%) の差があることを示しました。


両方のグループで、コンピューターによる AFC と PFC_volume の間に直接的な相関関係がありました (卵子提供者 r = 0.63、IVF 患者  r = 0.80)。また、PFC_volume と MII 卵母細胞の数の間には有意な直接相関がありました (卵子提供者 r = 0.82、IVF 患者  r = 0.88)。


<まとめ>
この前向き試験では、卵巣刺激後の MII 卵母細胞数の予測において、3 D卵胞容積が卵胞直径の 2D 測定値よりも優れているかどうかをテストしました。コンピューターで求められた卵胞の体積に基づく FORT は、卵子提供者と IVF 患者の両群で直径の測定値に基づく FORT よりも優れていました。

子宮内膜症の有無により卵巣がんの危険因子が異なるか

子宮内膜症の有無による卵巣がんの危険因子の影響について報告がありましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 5, November 2022 0015-0282


子宮内膜症は、子宮内膜外の子宮内膜腺および間質を伴う一般的な婦人科疾患です。卵巣がんの原因の一つです。組織型としては、明細胞癌のリスクは 3 倍、類内膜および低悪性度漿液性組織型のリスクは 2 倍増加すると報告されています。
子宮内膜症の有無により、卵巣がんの危険因子が異なる可能性があることが示唆されています。
この報告は、卵巣癌協会コンソーシアム (OCAC) の 22,000 人を超える女性からの疫学データを使用して、卵巣癌の危険因子として子宮内膜症の包括的な研究を実施しました。この分析では、BMI、タルカムパウダー(タルク)の使用、卵巣がんの家族歴、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用、母乳育児、ホルモン経口避妊薬使用、出産、卵管結紮、更年期ホルモン療法(HT)の使用(エストロゲンのみの療法およびエストロゲン-プロゲスチン療法)、および初潮の年齢の確立された10個の卵巣がんリスク要因を考慮しています。
これらの要因と卵巣がんリスクとの関連は、子宮内膜症のある女性とない女性では異なる可能性があるという仮説を立てました。


9 件の研究で、自己報告による子宮内膜症の有無により8,500 人の卵巣がん症例と 13,592 人の対照女性が分析に含められ9.8% (n = 830) と 6.7% (n = 914) に回答がありました。卵巣がんとの関連性が文献で十分に確立されている 10 の危険因子を検討しました。


<結果>
子宮内膜症は BMI と統計的に有意な相互関係はありませんでしたが、子宮内膜症のある人では、正常体重 (BMI = 18.5–<25 kg/m2) と比較すると過体重 (BMI = 25–<30 kg/m2) では卵巣がんのリスクが 27% 増加することと関連していました。しかし、子宮内膜症のない群では体重と卵巣癌のリスクの増加は示されませんでした。肥満(BMI = ≥30 kg/m2)でもリスクの増加が観察されましたが、子宮内膜症群 (OR = 1.21; 95% CI、0.94–1.57) と内膜症のない群 (OR = 1.13; 95% CI、1.04–1.22) の オッズ比にほとんど差がありませんでした。組織型を検討したところ、子宮内膜症のある女性とない女性を比較すると、過体重と卵巣がんのリスクとの関連に組織型間で違いが見られましたが、統計的に有意な相互作用はありませんでした。


子宮内膜症の状態に関係なく、卵巣がんの家族歴がある場合、リスク増加と関連していました。ただし、リスクの増加は、子宮内膜症群よりも子宮内膜症のない群が大きかった (OR = 2.20 vs. OR = 1.58)。性器でのタルカムパウダーの使用は、子宮内膜症の有無にかかわらず女性のリスクとも正の関連がありましたが、その大きさは子宮内膜症のない群よりも子宮内膜症群の方が大きいようでした (OR = 1.12 vs. OR = 1.38)。同様のパターンは、閉経期のエストロゲンのみの長期治療でも観察されました。リスクの増加は、特にエストロゲンのみの治療を10年以上使用した女性でより大きいようでした(OR = 1.88 vs. OR = 1.42)。一方、エストロゲン-プロゲスチン療法の使用は、子宮内膜症群の卵巣がんリスクと逆相関していましたが、子宮内膜症のない群のリスクとは関連していませんでした (5~10 年間: OR = 0.64 対 OR = 0.98)。


母乳育児、ホルモン経口避妊薬の使用、出産、卵管結紮、初経年齢、および NSAID の使用については、卵巣がんのリスクとの関連の大きさは、子宮内膜症の状態関係ないと考えられました。


<まとめ>
この研究は、子宮内膜症と卵巣がんのリスクに対する 10 の確立された卵巣がん危険因子との相互作用を調べた最初の研究です。ほとんどの危険因子は、子宮内膜症群と子宮内膜症のない群で同様の関連性を示し、評価した相互作用のいずれも統計的に有意ではありませんでした.しかし、BMI、タルカムパウダーの使用、およびエストロゲンのみのホルモン補充との関連性は、子宮内膜症群とそうでない群で異なる可能性がありました。

ご夫婦に染色体異常があり2回以上の流産した方の妊娠転帰

ご夫婦に染色体異常があり2回以上の流産した方の妊娠転帰を調べた報告がありましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 5, November 2022 0015-0282


反復流産 (Recurrent pregnancy loss:RPL) は、2018 年の欧州ヒト生殖発生学会 (ESHRE) によると、妊娠 24 週前の 2 回以上の流産と定義されており、有病率は 1% ~ 3% です。原因不明の流産は RPL の症例の 50% を占めると報告されていますが、女性の年齢、子宮異常、内分泌障害、自己免疫抗体、血栓形成傾向、染色体異常などの他の要因も RPL のリスク因子として報告されています。保因者と呼ばれる染色体の構造異常は、RPL の人口の 2% ~ 4% を占めます。流産組織の胎児染色体異常が多いことは、核型が異常なカップルと正常なカップルでは変わりません。ただし、異常な核型と正常な核型を持つRPLのカップルの妊娠転帰の違いに関しては、コンセンサスが不足しています。着床前遺伝子診断は、染色体異常のご夫婦に適用されています。
 この研究は、正常な核型のRPLカップルの初回出生率(LBR)、累積LBR、流産率、さらに着床前診断の有無による異常な核型のRPLカップルの累積LBRと流産率を評価しています。


<結果>
11 件の研究 (n = 6,301) で、異常核型 (保因者) と正常核型 (非保因者) の RPLカップルの妊娠転帰に違いが報告されました。9 件の研究によると、異常核型と正常核型のRPLカップルの 初回妊娠のLBRに有意差があることがわかりました(OR:0.55) 。異常核型カップルの 初回妊娠のLBR の平均は 58.5%で、正常核型カップルは71.9%でした。


転座については、保因者と非保因者を比較すると 初回妊娠のLBRは保因者で有意に低いことがわかりました。しかし、逆位については保因者に有差差を認めませんでした。(6の研究; 転座: 52.9% 対 72.4%; OR, 0.44、逆位: 66.4% 対 72.4%)。さらに、相互転座とロバートソン転座については、5 つの研究で、保因者と非保因者を比較すると 初回妊娠のLBRは保因者で有意に低いことがわかりました(相互転座: 49.5% 対 75.2%; OR, 0.31; ロバートソン転座: 58.1% vs. 75.2%; OR, 0.44)。
さらに、第 9 番 染色体 (Inv [9]) と他の染色体の逆位 (Inv[non 9])が別々に分析されました。5 の研究で Inv[9]: 64.8% 対 75.2%; OR, 0.63、Inv[non 9]: 64.5% vs. 75.2%; OR, 0.52と有意差は認めませんでした。これらの結果によると、保因者の 初回妊娠のLBR の低下は、逆位ではなく主に転座に関連していることが示されています。


累積LBRと流産率についての報告は4件でした。 累積 LBR は、RPL の正常核型カップルと比較して、異常核型カップルで有意差を認めませんでした  (81.4% 対 74.8%)。 しかし、流産率は、RPL の正常核型カップルと比較して異常核型カップルで有意に高い結果でした (53.0% 対 34.7%; OR, 2.21)  。


着床前診断の有無によるRPLの異常核型カップルの妊娠転帰


RPLの異常核型カップルの妊娠転帰を着床前診断の有無で比較した研究はほとんどありません。文献を体系的に検索したところ、2件の非ランダム化研究のみが見つかりました。Maithripalaらは、RPL の異常核型カップルが着床前診断なしで 74%、着床前診断有りで38.5% が生児出産をしたと報告しました。妊娠までの期間は着床前診断をしなかったグループで有意に長かったと報告しています。(FISH、CGH、SNIP を使用して、3 日目または 5 日目胚を検査) Ikumaらは、着床前診断をしなかったグループで65% ~ 83%が出産に至り、着床前診断を行ったグループで 27% ~ 54%が 出産に至ったと報告しています。(ただ、FISH法で初期胚を検査)メタ分析では、床前診断を行ったグループで蓄積LBR に有意差は示されませんでした(60% 対 68%)が、流産率は有意に低い結果でした (24% 対 65.3%)。


<まとめ>
このシステマティック レビューの結果は、RPLの異常核型カップルは、正常核型カップルよりも流産のリスクが高いことを裏付けています。 初回妊娠の LBR は低くなりますが、異常核型カップルは、複数回の妊娠トライにより最終的に正常核型カップルと同様の蓄積LBRを達成できます。 さらに、着床前診断後の累積 LBR の差は、着床前診断を行わなかったグループと比較して有意ではありませんでした。 ただ、RPLの異常核型カップルの場合、着床前診断後の流産リスクは、行わなかったグループと比較して低い結果でした。



この著者は着床前診断について以下のように書いていました。
着床前診断を実施する前に、体重管理、適切な運動、代謝、内分泌、免疫の調整などの臨床的な管理が非常に重要であり、生児出産の成功率を効果的に向上させることができます。成功率の向上は、着床前診断を実施する前の臨床管理の重要性を考慮せずに、着床前診断だけに起因するものではありません。着床前診断の助けを借りて、流産のリスクを減らすことができます。ただし、移植可能な正倍体胚が得られずキャンセルになること、IVF 関連の合併症 (卵巣捻転、異所性妊娠、卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠)、および高額な費用などが、着床前診断を検討している患者にとって大きな懸念事項となります。
 着床前診断を行わない待機治療には安全性と低コストの利点がありますが、着床前診断には出産までの時間を短縮、流産のリスクを下げるという利点があります。これらの利点は、母親の年齢、経済状況、および医師が考慮するその他の状態に基づいて、天秤に掛けながら相談していく必要があります。

計画的卵子凍結の費用対効果

今回は、年齢が上昇すると妊娠しにくくなるため、若年のうちに卵子を凍結しておく計画的卵子凍結保存の費用対効果についての報告が発表されましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 5, November 2022 0015-0282


アメリカの初産年齢の中央値は、1980 年の 22.7 歳から 2018 年の 26.9 歳に上昇しています。年齢が高くなれば生殖補助医療(ART)の成功率が低くなります。そのため、若年のうちに卵子を凍結する計画的卵子凍結保存 (OC) は、妊娠を遅らせることのできる一般的な戦略になっています。技術が進歩し有効性が証明されたことにより、米国生殖医学会は 2013 年に OC から「実験的」というコメントを削除し、2018 年に「倫理的に許容される手段」とみなされ、アメリカでの OC は880%と劇的に増加しました。報告によると生殖年齢の女性のほぼ 25% が計画的な OC を考慮したことがあるということです。


ただ、卵子凍結を行うにも費用がかかります。
今回の報告は、生殖年齢の高い方を対象とし、体外受精(IVF/PGT-A(OCなし)と比較して、若い卵子を凍結しておくOCの費用対効果を評価しています。


Society for Assisted Reproductive Technology Clinical Outcomes Reporting System Dataset 2014-2018のデータを使用し検討しています。


計画として以下を挙げています。
A(1人の挙児希望の場合)
計画1a:卵子凍結せず、43歳で IVF\PGT-A3回まで、胚移植3回まで
計画1b:卵子凍結1回して、43歳で卵子を融解し胚移植、妊娠しなければ胚移植2回まで


B(2人の挙児希望の場合)
計画2a:卵子凍結せず、40歳で IVF\PGT-A3回まで(胚凍結なし)、胚移植3回までで1人出産、43歳でIVF\PGT-A2回まで、胚移植3回まで
計画2b:卵子凍結せず、40歳で IVF\PGT-A3回まで(胚凍結あり)、胚移植6回までで1人出産、43歳で凍結胚移植6回まで
計画2c:卵子凍結1回し、40歳で IVF\PGT-A3回まで、胚移植3回までで1人出産、43歳で卵子を融解し胚移植2回まで
計画2d:卵子凍結2回し、40歳で卵子を融解し胚移植5回までで1人出産し、その後再度卵子を融解し胚移植5回まで


これらの計画でどのくらい出産できたか、コストがいくらかかったかを比較検討しています。


ちなみに下記は、Society for Assisted Reproductive Technology Clinical Outcomes Reporting System Dataset 2014-2018 における卵子凍結保存のうち、年齢ごとに凍結保存された卵子の平均数です。


25歳:14.1 ± 9.8       31歳:14.4 ±8.7        37歳:10.5 ± 7.2
26歳:14.5 ± 8.4       32歳:13.2±8         38歳:9.9 ± 6.9
27歳:13.6 ± 8.4       33歳:12.7 ± 7.9         39歳:9 ± 6.6
28歳:14.2 ± 9.3       34歳:12.6 ± 8.1         40歳:8.1 ± 6.3
29歳:14 ± 8.8          35歳:12 ± 7.8         41歳:7.5 ± 5.9
30歳:14.1±9         36歳:11.3 ± 7.4         42歳:6.8 ± 5.6
25−31歳まではとれる卵子の数はあまり変わらないようです。


2020 年のデータによると、1,376 卵子凍結周期の 9,335 個の卵子においては、融解後 38% で、移植可能な胚盤胞が得られました。
IVF / PGT-A周期からの正倍数体胚の数は、21,657組のカップルから得られた100,119個の胚から得られたデータを利用して、周期ごとに獲得できる正倍数体胚は、その年齢の獲得できる卵子・利用可能な胚盤胞率と掛けることで求められます。


<結果>
A(1人の挙児希望の場合)
計画1a:出産率:50% 平均費用:$62308(約900万円)
計画1b:出産率:73% 平均費用:$30333(約420万円)
B(2人の挙児希望の場合)
計画2a:出産率:76% 2人出産率:19%    平均費用:$79057(約1100万円)
計画2b:出産率:78% 2人出産率:48%    平均費用:$79728(約1110万円)
計画2c:出産率:93% 2人出産率:61% 平均費用:$76100(約1065万円)
計画2d:出産率:94% 2人出産率:77% 平均費用:$52479(約730万円)


挙児希望が1人の場合は若いうちに卵子凍結して、挙児を得ようとするときに卵子を融解し胚移植をした方が、出産率も高く、コストもかからないという結果でした。
挙児希望が2人の場合、若いうちに卵子凍結2回して、挙児を得ようとするときに卵子を融解し胚移植をした方が、出産率も高く、コストもかからないという結果でした。


次に、感度分析を使用して、各計画の有効性と費用対効果に対する 卵子凍結時の年齢の影響を調べました。
1人の挙児希望の場合、卵子凍結 (計画1b) は、32 歳より前に卵子凍結すれば、1人出産する可能性が最も高く、卵子凍結の年齢が 39 歳を超えるまで、卵子凍結を使用しないよりも効果的でした。さらに、卵子凍結は、分析されたすべての年齢 (25 ~ 42 歳) で 出産あたりのコストが低くなりました。
2人の挙児希望の場合、卵子凍結2回 (計画 2d) は、31 歳になる前に卵子凍結すれば 2人出産する可能性が最も高く、卵子凍結時年齢が 39 歳を超えるまで最も効果的な方法でした。また、 卵子凍結2回することは、分析されたすべての年齢 (25 ~ 39 歳) で 出産あたりのコストが最も低くなりました。


<まとめ>
高齢での卵子凍結なしと IVF/PGT-A と比較した場合、卵子凍結は効果的で費用対効果の高い戦略であることが示されました。さらに、希望している家族サイズを分析に組み込むことにより、卵子凍結の個数など参考にすることができます。
卵子凍結は凍結保存の時の幅広い年齢層にわたり、出産を遅らせる費用対効果の高い戦略であることを示しました。