計画的卵子凍結の費用対効果

今回は、年齢が上昇すると妊娠しにくくなるため、若年のうちに卵子を凍結しておく計画的卵子凍結保存の費用対効果についての報告が発表されましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 5, November 2022 0015-0282


アメリカの初産年齢の中央値は、1980 年の 22.7 歳から 2018 年の 26.9 歳に上昇しています。年齢が高くなれば生殖補助医療(ART)の成功率が低くなります。そのため、若年のうちに卵子を凍結する計画的卵子凍結保存 (OC) は、妊娠を遅らせることのできる一般的な戦略になっています。技術が進歩し有効性が証明されたことにより、米国生殖医学会は 2013 年に OC から「実験的」というコメントを削除し、2018 年に「倫理的に許容される手段」とみなされ、アメリカでの OC は880%と劇的に増加しました。報告によると生殖年齢の女性のほぼ 25% が計画的な OC を考慮したことがあるということです。


ただ、卵子凍結を行うにも費用がかかります。
今回の報告は、生殖年齢の高い方を対象とし、体外受精(IVF/PGT-A(OCなし)と比較して、若い卵子を凍結しておくOCの費用対効果を評価しています。


Society for Assisted Reproductive Technology Clinical Outcomes Reporting System Dataset 2014-2018のデータを使用し検討しています。


計画として以下を挙げています。
A(1人の挙児希望の場合)
計画1a:卵子凍結せず、43歳で IVF\PGT-A3回まで、胚移植3回まで
計画1b:卵子凍結1回して、43歳で卵子を融解し胚移植、妊娠しなければ胚移植2回まで


B(2人の挙児希望の場合)
計画2a:卵子凍結せず、40歳で IVF\PGT-A3回まで(胚凍結なし)、胚移植3回までで1人出産、43歳でIVF\PGT-A2回まで、胚移植3回まで
計画2b:卵子凍結せず、40歳で IVF\PGT-A3回まで(胚凍結あり)、胚移植6回までで1人出産、43歳で凍結胚移植6回まで
計画2c:卵子凍結1回し、40歳で IVF\PGT-A3回まで、胚移植3回までで1人出産、43歳で卵子を融解し胚移植2回まで
計画2d:卵子凍結2回し、40歳で卵子を融解し胚移植5回までで1人出産し、その後再度卵子を融解し胚移植5回まで


これらの計画でどのくらい出産できたか、コストがいくらかかったかを比較検討しています。


ちなみに下記は、Society for Assisted Reproductive Technology Clinical Outcomes Reporting System Dataset 2014-2018 における卵子凍結保存のうち、年齢ごとに凍結保存された卵子の平均数です。


25歳:14.1 ± 9.8       31歳:14.4 ±8.7        37歳:10.5 ± 7.2
26歳:14.5 ± 8.4       32歳:13.2±8         38歳:9.9 ± 6.9
27歳:13.6 ± 8.4       33歳:12.7 ± 7.9         39歳:9 ± 6.6
28歳:14.2 ± 9.3       34歳:12.6 ± 8.1         40歳:8.1 ± 6.3
29歳:14 ± 8.8          35歳:12 ± 7.8         41歳:7.5 ± 5.9
30歳:14.1±9         36歳:11.3 ± 7.4         42歳:6.8 ± 5.6
25−31歳まではとれる卵子の数はあまり変わらないようです。


2020 年のデータによると、1,376 卵子凍結周期の 9,335 個の卵子においては、融解後 38% で、移植可能な胚盤胞が得られました。
IVF / PGT-A周期からの正倍数体胚の数は、21,657組のカップルから得られた100,119個の胚から得られたデータを利用して、周期ごとに獲得できる正倍数体胚は、その年齢の獲得できる卵子・利用可能な胚盤胞率と掛けることで求められます。


<結果>
A(1人の挙児希望の場合)
計画1a:出産率:50% 平均費用:$62308(約900万円)
計画1b:出産率:73% 平均費用:$30333(約420万円)
B(2人の挙児希望の場合)
計画2a:出産率:76% 2人出産率:19%    平均費用:$79057(約1100万円)
計画2b:出産率:78% 2人出産率:48%    平均費用:$79728(約1110万円)
計画2c:出産率:93% 2人出産率:61% 平均費用:$76100(約1065万円)
計画2d:出産率:94% 2人出産率:77% 平均費用:$52479(約730万円)


挙児希望が1人の場合は若いうちに卵子凍結して、挙児を得ようとするときに卵子を融解し胚移植をした方が、出産率も高く、コストもかからないという結果でした。
挙児希望が2人の場合、若いうちに卵子凍結2回して、挙児を得ようとするときに卵子を融解し胚移植をした方が、出産率も高く、コストもかからないという結果でした。


次に、感度分析を使用して、各計画の有効性と費用対効果に対する 卵子凍結時の年齢の影響を調べました。
1人の挙児希望の場合、卵子凍結 (計画1b) は、32 歳より前に卵子凍結すれば、1人出産する可能性が最も高く、卵子凍結の年齢が 39 歳を超えるまで、卵子凍結を使用しないよりも効果的でした。さらに、卵子凍結は、分析されたすべての年齢 (25 ~ 42 歳) で 出産あたりのコストが低くなりました。
2人の挙児希望の場合、卵子凍結2回 (計画 2d) は、31 歳になる前に卵子凍結すれば 2人出産する可能性が最も高く、卵子凍結時年齢が 39 歳を超えるまで最も効果的な方法でした。また、 卵子凍結2回することは、分析されたすべての年齢 (25 ~ 39 歳) で 出産あたりのコストが最も低くなりました。


<まとめ>
高齢での卵子凍結なしと IVF/PGT-A と比較した場合、卵子凍結は効果的で費用対効果の高い戦略であることが示されました。さらに、希望している家族サイズを分析に組み込むことにより、卵子凍結の個数など参考にすることができます。
卵子凍結は凍結保存の時の幅広い年齢層にわたり、出産を遅らせる費用対効果の高い戦略であることを示しました。

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