ご夫婦に染色体異常があり2回以上の流産した方の妊娠転帰

ご夫婦に染色体異常があり2回以上の流産した方の妊娠転帰を調べた報告がありましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 118, No. 5, November 2022 0015-0282


反復流産 (Recurrent pregnancy loss:RPL) は、2018 年の欧州ヒト生殖発生学会 (ESHRE) によると、妊娠 24 週前の 2 回以上の流産と定義されており、有病率は 1% ~ 3% です。原因不明の流産は RPL の症例の 50% を占めると報告されていますが、女性の年齢、子宮異常、内分泌障害、自己免疫抗体、血栓形成傾向、染色体異常などの他の要因も RPL のリスク因子として報告されています。保因者と呼ばれる染色体の構造異常は、RPL の人口の 2% ~ 4% を占めます。流産組織の胎児染色体異常が多いことは、核型が異常なカップルと正常なカップルでは変わりません。ただし、異常な核型と正常な核型を持つRPLのカップルの妊娠転帰の違いに関しては、コンセンサスが不足しています。着床前遺伝子診断は、染色体異常のご夫婦に適用されています。
 この研究は、正常な核型のRPLカップルの初回出生率(LBR)、累積LBR、流産率、さらに着床前診断の有無による異常な核型のRPLカップルの累積LBRと流産率を評価しています。


<結果>
11 件の研究 (n = 6,301) で、異常核型 (保因者) と正常核型 (非保因者) の RPLカップルの妊娠転帰に違いが報告されました。9 件の研究によると、異常核型と正常核型のRPLカップルの 初回妊娠のLBRに有意差があることがわかりました(OR:0.55) 。異常核型カップルの 初回妊娠のLBR の平均は 58.5%で、正常核型カップルは71.9%でした。


転座については、保因者と非保因者を比較すると 初回妊娠のLBRは保因者で有意に低いことがわかりました。しかし、逆位については保因者に有差差を認めませんでした。(6の研究; 転座: 52.9% 対 72.4%; OR, 0.44、逆位: 66.4% 対 72.4%)。さらに、相互転座とロバートソン転座については、5 つの研究で、保因者と非保因者を比較すると 初回妊娠のLBRは保因者で有意に低いことがわかりました(相互転座: 49.5% 対 75.2%; OR, 0.31; ロバートソン転座: 58.1% vs. 75.2%; OR, 0.44)。
さらに、第 9 番 染色体 (Inv [9]) と他の染色体の逆位 (Inv[non 9])が別々に分析されました。5 の研究で Inv[9]: 64.8% 対 75.2%; OR, 0.63、Inv[non 9]: 64.5% vs. 75.2%; OR, 0.52と有意差は認めませんでした。これらの結果によると、保因者の 初回妊娠のLBR の低下は、逆位ではなく主に転座に関連していることが示されています。


累積LBRと流産率についての報告は4件でした。 累積 LBR は、RPL の正常核型カップルと比較して、異常核型カップルで有意差を認めませんでした  (81.4% 対 74.8%)。 しかし、流産率は、RPL の正常核型カップルと比較して異常核型カップルで有意に高い結果でした (53.0% 対 34.7%; OR, 2.21)  。


着床前診断の有無によるRPLの異常核型カップルの妊娠転帰


RPLの異常核型カップルの妊娠転帰を着床前診断の有無で比較した研究はほとんどありません。文献を体系的に検索したところ、2件の非ランダム化研究のみが見つかりました。Maithripalaらは、RPL の異常核型カップルが着床前診断なしで 74%、着床前診断有りで38.5% が生児出産をしたと報告しました。妊娠までの期間は着床前診断をしなかったグループで有意に長かったと報告しています。(FISH、CGH、SNIP を使用して、3 日目または 5 日目胚を検査) Ikumaらは、着床前診断をしなかったグループで65% ~ 83%が出産に至り、着床前診断を行ったグループで 27% ~ 54%が 出産に至ったと報告しています。(ただ、FISH法で初期胚を検査)メタ分析では、床前診断を行ったグループで蓄積LBR に有意差は示されませんでした(60% 対 68%)が、流産率は有意に低い結果でした (24% 対 65.3%)。


<まとめ>
このシステマティック レビューの結果は、RPLの異常核型カップルは、正常核型カップルよりも流産のリスクが高いことを裏付けています。 初回妊娠の LBR は低くなりますが、異常核型カップルは、複数回の妊娠トライにより最終的に正常核型カップルと同様の蓄積LBRを達成できます。 さらに、着床前診断後の累積 LBR の差は、着床前診断を行わなかったグループと比較して有意ではありませんでした。 ただ、RPLの異常核型カップルの場合、着床前診断後の流産リスクは、行わなかったグループと比較して低い結果でした。



この著者は着床前診断について以下のように書いていました。
着床前診断を実施する前に、体重管理、適切な運動、代謝、内分泌、免疫の調整などの臨床的な管理が非常に重要であり、生児出産の成功率を効果的に向上させることができます。成功率の向上は、着床前診断を実施する前の臨床管理の重要性を考慮せずに、着床前診断だけに起因するものではありません。着床前診断の助けを借りて、流産のリスクを減らすことができます。ただし、移植可能な正倍体胚が得られずキャンセルになること、IVF 関連の合併症 (卵巣捻転、異所性妊娠、卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠)、および高額な費用などが、着床前診断を検討している患者にとって大きな懸念事項となります。
 着床前診断を行わない待機治療には安全性と低コストの利点がありますが、着床前診断には出産までの時間を短縮、流産のリスクを下げるという利点があります。これらの利点は、母親の年齢、経済状況、および医師が考慮するその他の状態に基づいて、天秤に掛けながら相談していく必要があります。

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