非男性因子において媒精が良いか顕微授精が良いか

 体外受精において、せっかく採卵したのに全ての卵が受精しなかったという経験をしばしばしますが、それを避けるために精子は問題ないが細胞質内精子注入法 (ICSI) を実施するクリニックも多いかと思います。van der Westerlakenらによると、精子をふりかけるだけの体外受精 (cIVF) により受精しなかった場合、次回以降に ICSI した場合、受精率が有意に高いことを発表しています。また、Kinzer らは、cIVF で受精せずICSIした場合、臨床妊娠率および分娩率に悪影響を及ぼさないことを発表しています。しかし、完全受精不全はまれであり(cIVF サイクルの 5% ~ 10%)、非男性因子不妊症の場合はさらに頻度が少ないと報告されています。そのため、今回、このような非男性因子不妊症カップルにおいてcIVFが良いかICSIが良いか調査した報告をご紹介いたします。


Fertility and Sterility Vol. 118, No. 3, September 2022 0015-0282


 ICSIは、精液所見に問題がありcIVF では妊娠できなかったカップルのための有望な技術として 1992 年に導入されました。ICSI は当初、男性不妊症に対して導入されましたが、男性不妊症以外に行われICSIの使用率が高まっています。1996 年に採卵サイクルの 36.4% が ICSI を行われましたが、 2012 年には 76.2% に増加したと報告されています。米国生殖医学会 (ASRM) の実行委員会は、非男性因子不妊患者における ICSI の日常的な使用を支持するデータが不足しているため、男性因子不妊の場合にのみ ICSI を行うことを委員会の意見として発表しています。
 多くの研究で、ICSI が非男性因子不妊症の場合に有益ではないことが示されていますが、ICSI は行われ続けております。累積生児出生率 (CLBR) への影響について、米国の大規模集団での研究は行われておりません。基本的にM2卵のみICSI が行われているため、胚発生の可能性がある卵が減少し、CLBR が損なわれる可能性があります。この研究の目的は、全国データに基づいて受精方法(ICSI と cIVF)に対する CLBRを比較しコスト分析を行っています。


結果
対象者の24,984人(60.2%)にICSIが行われ、16,533人(39.8%)にcIVFが行われました。


 CLBR は、ICSI 群で 60.9% 対 cIVF 群で 64.3% であり、共変量の調整後に有意差はありませんでした。流産率にも差がありませんでした。 ICSI 群では、採卵あたりの 2 PN 率が有意に低い値であり(64.6% 対 66.4%)、2PN あたりの使用可能な胚 (移植および凍結) の比率が有意に高い結果でした (53.7% 対 51.7%)。ただし、ICSI 変数によって説明される比率の分散はそれぞれわずか0.2% と 0.1%でした。


 次に、PGT-A を行った 5,450 例を対象とし、4,762 人 (87.4%) が ICSI を、688 人 (12.6%) が cIVFが行われました。CLBR は、非男性因子不妊症の PGT-A を使用したサイクル間で、ICSI群で 64.7% 対 cIVF群で69.0% であり、共変量の調整後に有意差はありませんでした。 2群間での流産率にも差はありませんでした。 ICSI 群の採卵あたりの2 PN率 (65.1% 対 67.6%)、2 PN あたりの胚 (移植および凍結) の比率 (50.3% 対 54.2%)、および移植および凍結された胚の数が少なかった。 (5.19 対 5.70)。しかし、ICSI 変数によって説明されるこれらの比率の分散はわずかでした。


 最後に、採卵数の少ない群のサブ解析では、採卵数が3 個以下で PGT-A を受けた群で、CLBR にICSI と cIVF を比較しても差がないことがわかりました。また、PGTーAを受けなかった群でも、ICSI を cIVF と比較しても差はありませんでした。採卵数の少ない群では、採卵数あたり 2 PN 率と、移植・凍結可能胚の平均数は、遺伝子検査の状態に関係なく、ICSI と IVF の間で有意差はありませんでした。
 料金に関して、ICSI は cIVF のみに比べて推定 $1,500 の追加費用がかかることがわかりました。これは、サイクルごとに推定 $12,400 の費用がかかると報告されています。


結論
 この報告によるとCLBR とコストを考慮すれば、非男性因子不妊症患者におけるICSIの一般的な実施は受け入れられないことが示されました。もちろんケースバイケースで、受精方法をICSIかcIVFにするか決定するのは、各方法のメリット・デメリットを話し医療者と患者さんと決めていく必要があります。

新型コロナウイルスに対するワクチン接種が体外受精に影響するか?

疾病管理予防センター (CDC) の COVID-19 サーベイランス システムによると、COVID-19 感染症は妊婦の集中治療室 (ICU) への入院、人工呼吸器の必要性、および COVID-19 感染後の死亡のリスクが高いと報告しています。したがって、妊娠中または妊娠前の女性は、SARS-CoV-2 に感染しないように特に注意する必要があります。


ワクチン接種は、COVID-19 の蔓延を防ぐ最善の方法です。Petterssonらによると 2021 年 12 月 8 日までに、全世界でワクチン接種を行った人口は 46.5%と報告されており、中国では 77.3%と報告されています。現在のレトロスペクティブ データに基づくと、ART を受けた男性のワクチン接種率は約 80% です。しかし、ワクチンに関する誤った情報により、一部の人々、特に妊娠を希望している女性の間で、ワクチン接種に対する躊躇が生じています。不活化 COVID-19 ワクチン接種が女性の受胎に何らかの悪影響をもたらすかどうかは不明であるためか、ART を受けている女性のワクチン摂取率は 33.2% というはるかに低い値を示しているようです。


妊婦における COVID-19 mRNA ワクチンの安全性は多数の報告されています。Zaucheらは妊娠 6 週後の自然流産のリスクに対する COVID-19 mRNA ワクチンの影響を判断するために、レトロスペクティブ コホート研究を実施しています。彼らは、着床前や妊娠中にmRNAワクチンを受けた女性は、前年と比較して自然流産の発生率の増加を示さなかったと結論付けました。島袋らは、妊娠中または着床前に COVID-19 mRNA ワクチンを受けた女性に関する情報を含む、v-safe 妊娠登録から得られたデータを分析し 3958 人の女性のうち、827 人の女性が妊娠しました。流産率は 13.9% (115/827)、生児出生率は 86.1% (712/827) でした。有害妊娠の発生率は、COVID-19 パンデミックの発症前と同様だったと報告しています。


COVID-19ワクチンがARTに影響を及ぼすか研究した報告はほとんどありません。ART を受けている女性における mRNA ワクチンの効果を調査した研究は 4 つだけです。Bentovらは、ファイザーの BioNtech ワクチンによるワクチン接種が卵胞の成長に有害な影響はないと報告しています。Orvietoらは、卵巣刺激と胚発生のパラメーターが、mRNA COVID-19 ワクチン接種の前後で同等であることを示しました。Aharon らによる後ろ向き研究では、COVID-19 mRNA ワクチンを受けた女性は、卵巣刺激と早期妊娠の結果に悪影響を示さなかったと報告しました。さらに、Huangらは、COVID-19 不活化ワクチンが体外受精後の結果や妊娠率に悪影響を及ぼさないことを発見しました。


これらの研究は主にmRNAワクチンに焦点を当てており、これまでに実施された不活化ワクチンに関する唯一の研究では、継続妊娠率は報告されていません。したがって、私たちの研究は、COVID-19不活化ワクチンが体外受精の結果、特に進行中の妊娠に及ぼす影響を、症例数を多くし調査しています。


継続妊娠率を主要項目とし、採卵数、サイクルごとの胚盤胞率、移植に可能胚と着床率、生化学的妊娠、臨床的妊娠、生化学的流産、異所性妊娠、早期流産が調査されました。


・ワクチン接種群と非接種群の採卵数と胚発生の比較


ワクチン接種群は、ワクチン非接種群と比較して、トリガー日の卵胞数(直径≥14mm)が有意に少なかった(P = 0.017)。非接種群と比較しワクチン接種群は、採卵数 (P = 0.039)、胚盤胞数 (P = 0.037) および移植可能胚数 (P = 0.023) が有意に少なかった。受精率と胚盤胞の発生率、および受精法に、両群間に有意差はなかった。ただ、線形回帰分析の結果、採卵数 (P = 0.264)、移植可能胚数 (P = 0.127)、および胚盤胞数 (P = 0.105) であり、卵巣刺激前のワクチン接種の有無とは関連していませんでした。


・予防接種を受けた女性と受けていない女性の妊娠転帰の比較


ワクチン接種群の継続妊娠率は、非接種群変わりませんでした(36.3% 対 40.7%、(調整オッズ比 (aOR) = 0.91、P = 0.52 )。着床率 (34.4% 対 37.9%、P = 0.217)、生化学的妊娠率 (47.5% 対 52.6%、P = 0.148)、臨床妊娠率 (43.3% 対 46.5%、P = 0.359) (aOR = 0.95、95%) CI = 0.71–1.27、P = 0.72) は、2 つのグループ間で有意差はありませんでした。初期の流産率は、非接種群と比較した場合、ワクチン接種群と変わりはありませんでした (14.9% 対 11.2%、aOR = 1.36、P = 0.30) 。


両群の臨床的特徴のバランスが取れていなかったため、多変量回帰分析と PSM の両方を使用して、交絡因子の影響を調整しました。調整後は両群間に継続妊娠率、採卵数、サイクルごとの胚盤胞率、移植に可能胚と着床率、生化学的妊娠、臨床的妊娠、生化学的流産、異所性妊娠、早期流産に有意差を認めませんでした。


結論
の研究結果より、卵巣刺激前の不活化 COVID-19 ワクチン接種が、生殖補助医療の転帰にほぼ影響しないのではないかと考えられます。生殖補助医療を試みる女性は、卵巣刺激と胚移植のスケジュールを COVID-19 ワクチン接種理由に延期すべきではありません。

卵巣刺激にタモキシフェンやレトロゾールを併用することで採卵数に影響するか

本日は乳がんと診断された方の卵巣刺激方法について調べた報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 37, Issue 8, August 2022, Pages 1786–1794,


がんを治療することで命を救うことができますが、卵巣予備能には悪影響を及ぼすためがん治療は不妊症を引き起こすリスクがあります。乳がんは生殖年齢の女性に最も多い悪性腫瘍です。乳がん治療前に、卵や受精卵を保存するという選択肢があります。ただ、短期間ではありますが、高レベルのエストロゲンへ曝露を伴う卵巣刺激が必要となります。この短期間のエストロゲンレベルの上昇は、乳がんサバイバーにおける妊娠中およびART中のエストロゲン暴露に関しては安全としているデータがあります。
 この報告は、卵巣刺激を受けている乳がんの女性において、回収された卵丘-卵母細胞複合体(COC)の数に関して、標準的な卵巣刺激と比較して、タモキシフェンまたはレトロゾールを併用した卵巣刺激の有効性を評価しています。


対象
18 歳から 43 歳までの女性でエストロゲン受容体の有無に関係なく乳癌と診断され、卵または胚の保存を行ったかた。


以下の3つの治療群にランダムに割り当てられています。
①卵巣刺激と毎日60㎎のタモキシフェン併用群(54 人)
②卵巣刺激と毎日5㎎のレトロゾール併用群(53 人)
③標準的な卵巣刺激(55 人)


主要評価項目は、採卵時に回収された COC の平均数でした。 他には、MII 卵数、凍結卵・胚数、排卵誘発日に測定された血清エストラジオール レベルとして定義されるピーク エストラジオール レベル、および周期のキャンセル数を調査しています。


採卵された COC の平均 (±SD) 数は治療群間で差はなく、卵巣刺激とタモキシフェンの後で 12.5 (10.4)、卵巣刺激とレトロゾールの後で 14.2 (9.4)、標準卵巣刺激後で 13.6 (11.6) でした。卵巣刺激の開始時の経口避妊薬の使用、陽性の ER 状態、および陽性のリンパ節で調整した後も治療群間で差はありませんでした。また、凍結できた卵や胚数にも差はありませんでした。キャンセル数も治療間で差はありませんでした。ピーク エストラジオールは、標準的卵巣刺激と比較して、レトロゾール群で有意に低かったが、タモキシフェン群と標準卵巣刺激との間に差はありませんでした。


まとめ
妊孕性温存を選択した乳癌女性を対象としたこの多施設非盲検 RCT では、タモキシフェンまたはレトロゾールを併用した卵巣刺激法は、採卵時に回収される COC の数に影響を与え図、凍結できた卵や胚数に差がなく、キャンセルされた周期数にも差はありませんでした。ピーク エストラジオールは、標準的な卵巣刺激群と比較して、卵巣刺激とレトロゾールで有意に低い結果でした。
ただ、この研究は長期的な安全性を調べたものではありません。エストロゲン調節の主な目的は長期的な安全性であるため、乳がんの再発率に関する長期的な追跡調査により、どのタイプの卵巣刺激を使用するかを決定した方が良いのではないかと締めくくってました。

男性側が原因の胚異数性と男性の年齢、BMI、精液パラメーターに関連があるか

父方由来の胚の異数性の原因が父方の年齢、BMI、精液所見に関連しているか調べた報告をご紹介いたします。


DOI:https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2022.04.020


胚の染色体異常は、流産の約60% で発生し流産の最も多い原因と考えられています。胚の染色体異常には、モノソミー、トリソミー、三倍数体以上や欠失、重複、さらに複雑な異常を含む染色体内の構造変化などの異数性が含まれます。異数性に対する着床前遺伝子検査 (PGT-A) の使用は、妊娠率上昇、流産率低下を目指し、ここ数年で大幅に増加しています。


胚の異数性は主に母体の染色体に由来すると考えられていますが、Kubicek らによる2019 年の研究によると、全染色体異数性を持つ胚の 約9.9% が父方由来の異数性と報告されています。転座などの父方の遺伝子異常は、父方起源の胚異数性の危険因子であることが知られていますが、父方起源の胚異数性につながる他の要因は明らかとなっていません。


この報告は、男性の年齢、BMI、精液パラメーターと父方由来の胚異数性との関係を評価すしています。


方法
胚は PGTーAが行われ、ジェノタイピングは、一塩基多型 (SNP) マイクロアレイを使用しています。親の SNP 遺伝子型情報を利用して、胚サンプルの複数の SNP 遺伝子座全体と親サンプルを比較して、染色体コピー数、各染色体の親由来を決定しました。異数性胚は、母性異数性、父性異数性、または混合異数性と分類されました。男性の年齢、BMI、精液パラメーターと父方由来の胚異数性の頻度に違いがあるか検討しています。


結果
2015 年 1 月から 2020 年 1 月まで、合計 453IVF サイクルで 1,720 個の胚が PGT-A のために生検されました。コホートの平均母体年齢は 36.9 (±3.5) 歳、BMI は 25 (±5.1) kg/m2、抗ミュラー管ホルモンの中央値は 2.6 ng/mL でした。男性パートナーの平均年齢は 39.1 (±5.5) 歳、BMI は 27.5 (±4.4) kg/m2 でした。男性因子は 210 例 (12.2%) であり、41 例 (2.4%) 不明、残りの 1,472 例 (85.4%) は他の因子でありました。男性因子不妊症の診断は、父方由来の胚性異数性と関連していませんでした。


胚盤胞生検を受けた 1,720 個の胚のうち、48.9% (841/1,720) が正倍数体、49.9% (858/1,720) が異数体、1.2% (21/1,720) がno callでした。異数性胚の中で、73.7% (632/858) は母方由来の胚性異数性を有し、8.4% (72/858) は父方由来の胚性異数性を有し、8.4% (72/858) は母方および父方(混合)からの胚性異数性を有していました。


精液パラメータについて
父方由来の胚性異数性の割合は、精液分析パラメーターと有意に関連していませんでした。正常な精液分析を受けた男性の胚では、父方由来の異数性は 8.8% (75/854)、異常所見の男性では8.0% (69/ 866)でした (OR、0.90; 95% CI、0.64–1.27)。同様に、一般化推定方程式で検討したところ、精液検査のパラメーターはどれも統計的有意性はありませんでした。


重度の精子減少症 (<500 万/mL) の男性からの 153 の胚のうち、6.5% (10/153) が父方由来の胚性異数性を有していました。(正常男性と有意差なし)TESE 精子からの胚の中で、30.8% (4/13) のみが母方起源の異数性を有し、7.7% (1/13) は父方起源の異数性を有し、混合親起源のものはなかった。 


BMIについて
男性パートナーの平均 BMI は 27.5 (±4.4) kg/m2 で、範囲は 19.5 ~ 45.6 kg/m2 でした。BMIの増加に伴い、父方由来の異数性は増加しませんでした。父方の異数性率は、正常体重の男性(BMI、18〜24.9 kg / m2)の胚 7.2%(31/431)、過体重の男性(BMI、25〜29.9 kg / m2)の胚 8.4%(65/774)、肥満男性 (BMI、≥30 kg/m2) の胚 9.1% (30/328) でした。 一般化推定方程式で検討したところ、 BMI と父方由来の異数性との間に有意な関連はありませんでした。


男性の年齢について
男性年齢の増加に伴い、父方由来の異数性は増加しませんでした。一般化推定方程式で検討したところ、男性パートナーの年齢と父方由来の胚の異数性との間に有意な関連はありませんでした。


まとめ
この報告は、SNPを使用して、胚の異数性がどちら由来か評価し、父方の要因と胚の異数性の関係をより明確に評価しました。
“男性パートナーの年齢、BMI、精液パラメーターは、父方由来の胚性異数性と有意な関連はない“でした。


乏精子症と精子自体の異数性の間には関連性が報告されてはいますが、精子の異数性に関する研究のデータからは、異数性の精子を利用しても移植可能な胚につながらず、父方由来の胚の異数性に移行されない可能性があります。

採卵数が少ないと加齢に関連する疾患のリスクが高まる

今回卵巣の加齢と加齢に伴う疾患に関連があるか調べた報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 35, Issue 10, October 2020, Pages 2375–2390,


卵巣の老化は、加齢に伴う卵巣原始卵母細胞プール内の卵の量と質の両方の低下と考えられます。卵巣老化の行き着く先は正常な月経周期を維持するには卵胞が少なすぎて閉経に至ります。閉経年齢の中央値が51歳で、その約10−15年前に妊孕能の低下が始まります。卵巣の老化が加速すると、10%で(early menopause)早期閉経(<45歳)、または1〜5%で早発閉経(<40歳)になります。


早期または早発閉経は、手術、化学療法、自己免疫または環境要因によって引き起こされ、ライフスタイルとも関係する可能性があります。脆弱X症候群やターナーモザイク現象などの遺伝的要因が関係していることが知られていますが、多遺伝子メカニズムもおそらく関与していると報告されています。ただ、早期卵巣老化の背後にあるメカニズムは、症例の70%でわかっていません。


卵巣の老化と一般的な老化はお互い関連しているという説を支持する報告があります。多くの研究により、特に若い年齢の自然閉経は、心血管疾患(CVD)、冠状動脈性心臓病、癌関連など、通常は加齢に関連すると考えられる疾患やイベントのリスクの増加に関連していることが確認されています。したがって、40歳未満の自然閉経は、体細胞老化の加速のマーカーと見なされる可能性があるという報告があります。閉経が遅れるたびに死亡率が2%減少するという報告もあります。


ART治療は、卵巣の老化が加速している女性を早期に特定する可能性があります。 ARTでのFSH刺激に対する反応が、卵巣老化の有効な初期マーカーとして利用できる可能性があります。この報告は公立・私立クリニックの両方の治療サイクルを含む全国データを利用して、原因不明の採卵数が少ない症例を対象に、加齢関連イベントのリスクを調査しました。


方法
1995年から2014年の間に、IVFまたはICSIによる初回治療に限定し、採卵時の年齢と回収された卵数に基づいて、女性を2つのグループに分けました。
早期卵巣老化グループ(EOA);初回ART治療で37歳以下、2回以上のFSH刺激サイクルで採卵数5個以下
正常卵巣老化グループ(NOA);初回ART治療開始時に37歳以下で、採卵数8個以上
2群間で加齢関連イベントのリスクを比較しています。


結果
研究期間中(1995年1月1日から2014年12月31日まで)、57 076人の女性が研究の対象となりART治療を受けました。それらのうち、1222人の女性がEOAの選択基準を満たしました。対象群は、16 385人の女性でした。全体的な追跡期間の中央値は7.8年。最初の年齢関連イベントの平均年齢は、両方のグループで同等でした。平均BMIは、NOAグループ(23.8(±4.1)kg / m2)と比較してEOAグループ(24.2(±4.4)kg / m2)で有意に高く、独身女性の割合もEOAグループで有意に高かった( 9.3%対7.0%)。喫煙と教育レベルで有意差は観察されませんでした。 ART終了後のHRTの使用は、EOAグループで有意に高かった(1.3%対0.3%、P <0.01)。最初のHRT処方の平均年齢は、EOAとNOAで同等でした(それぞれ45.2歳と44.4歳)。


EOAに関連する危険
正常な卵巣予備能を持つ若い女性と比較して、EOAグループは加齢に伴うイベントの全体的なリスクの危険性が高かく、潜在的な交絡変数を調整した後も1.24倍と有意なままでした。
CVD(1.44、1.19〜1.75)、骨粗鬆症(2.45、1.59〜3.90)の危険性が大幅に増加しました。
チャールソン併存疾患指数(併存疾患から予後予測を行う指数)(1.15、0.93〜1.41)、早期退職給付の発生(1.21、0.80〜1.83)、癌(1.09、0.60〜2.00)、何らかの原因による死亡(1.14、 0.54〜2.39)、その他の加齢性疾患(1.26、0.29〜5.58)。調整後EOAと2型糖尿病のリスク増加(0.95、0.60〜1.49)との間に関連はありませんでした。


結論
このデータは、FSH刺激後の採卵数が少ないと定義されるEOAの若い女性が、罹患率と死亡率の観点から加齢に伴うイベントのリスクを高めていることを示しており、卵巣予備能が低いことが有用なマーカーである可能性があるという仮説を強く支持しています。したがって、不妊治療クリニックでこのグループの患者にカウンセリングすることは、早期閉経に関連する健康への悪影響を減らすために重要です。