卵巣刺激にタモキシフェンやレトロゾールを併用することで採卵数に影響するか

本日は乳がんと診断された方の卵巣刺激方法について調べた報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 37, Issue 8, August 2022, Pages 1786–1794,


がんを治療することで命を救うことができますが、卵巣予備能には悪影響を及ぼすためがん治療は不妊症を引き起こすリスクがあります。乳がんは生殖年齢の女性に最も多い悪性腫瘍です。乳がん治療前に、卵や受精卵を保存するという選択肢があります。ただ、短期間ではありますが、高レベルのエストロゲンへ曝露を伴う卵巣刺激が必要となります。この短期間のエストロゲンレベルの上昇は、乳がんサバイバーにおける妊娠中およびART中のエストロゲン暴露に関しては安全としているデータがあります。
 この報告は、卵巣刺激を受けている乳がんの女性において、回収された卵丘-卵母細胞複合体(COC)の数に関して、標準的な卵巣刺激と比較して、タモキシフェンまたはレトロゾールを併用した卵巣刺激の有効性を評価しています。


対象
18 歳から 43 歳までの女性でエストロゲン受容体の有無に関係なく乳癌と診断され、卵または胚の保存を行ったかた。


以下の3つの治療群にランダムに割り当てられています。
①卵巣刺激と毎日60㎎のタモキシフェン併用群(54 人)
②卵巣刺激と毎日5㎎のレトロゾール併用群(53 人)
③標準的な卵巣刺激(55 人)


主要評価項目は、採卵時に回収された COC の平均数でした。 他には、MII 卵数、凍結卵・胚数、排卵誘発日に測定された血清エストラジオール レベルとして定義されるピーク エストラジオール レベル、および周期のキャンセル数を調査しています。


採卵された COC の平均 (±SD) 数は治療群間で差はなく、卵巣刺激とタモキシフェンの後で 12.5 (10.4)、卵巣刺激とレトロゾールの後で 14.2 (9.4)、標準卵巣刺激後で 13.6 (11.6) でした。卵巣刺激の開始時の経口避妊薬の使用、陽性の ER 状態、および陽性のリンパ節で調整した後も治療群間で差はありませんでした。また、凍結できた卵や胚数にも差はありませんでした。キャンセル数も治療間で差はありませんでした。ピーク エストラジオールは、標準的卵巣刺激と比較して、レトロゾール群で有意に低かったが、タモキシフェン群と標準卵巣刺激との間に差はありませんでした。


まとめ
妊孕性温存を選択した乳癌女性を対象としたこの多施設非盲検 RCT では、タモキシフェンまたはレトロゾールを併用した卵巣刺激法は、採卵時に回収される COC の数に影響を与え図、凍結できた卵や胚数に差がなく、キャンセルされた周期数にも差はありませんでした。ピーク エストラジオールは、標準的な卵巣刺激群と比較して、卵巣刺激とレトロゾールで有意に低い結果でした。
ただ、この研究は長期的な安全性を調べたものではありません。エストロゲン調節の主な目的は長期的な安全性であるため、乳がんの再発率に関する長期的な追跡調査により、どのタイプの卵巣刺激を使用するかを決定した方が良いのではないかと締めくくってました。

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