受精後7日目まで胚培養すべきか?

みなさんこんにちは


本日は
胚培養を採卵後(受精後)7日目までおこなうようが良いか調べた報告です。


Fertility and sterility 2018 6月
"Should extended blastocyst culture include Day 7?"


をご紹介します。


まず、基本的には受精後、5,6日目で胚盤胞となり凍結を行うことが多いですが、7日目にも胚盤胞となることも知られています。
しかし、「胚盤胞の発達の遅延(7日目または8日目)は着床の不良因子」とみなされています。
しかし、7日目の胚盤胞は、5日目および6日目の胚盤胞と比較して増殖が遅いが、良高形態に到達した場合、6日目の胚盤胞と同様の正倍数性を有し、健康な生存をもたらすことができる。」という報告もあります。


この報告では7日目の胚盤胞について調査されています。


①使用可能な7日目の胚盤胞の発生率
胚盤胞の5日目は約〜65%、6日目は約30%、7日目は約5%


②7日目の胚盤胞の着床前遺伝子スクリーニング結果
7日目の胚盤胞は正倍数性が25〜49%
いくつかの研究では6日目の胚盤胞と同等の正倍数率を有していた。


③7日目の胚盤胞の成績
7日目の胚盤胞は、着床率が17〜56%、臨床妊娠率が20〜56%である。 7日目の胚盤胞胚の生児獲得率は11〜42%であるが、nが少ない。(n = 58)
児の体重、早産率および平均出生体重に異常はなかった。
しかし、7日目の正倍数性の胚盤胞は、正倍数性の5日目の胚盤胞(2%)と比較して、妊娠の損失が最大で10倍(22%)であったという報告もあり。


④胚盤胞の遅延するメカニズム
第一分裂の遅延や、分裂する際の異常、一気に複数個に分裂したり、卵球が少なくなったりするような場合は胚盤胞になるのが遅れるのではないか?
また異常細胞を発育中に排除するような異常を制御する能力を有することが報告されており、それにより発育の遅延をみとめるのではないか?など報告されています。


⑤7日目までの拡張培養の実施
7日目までの培養をすべての患者さんに適用することはできないかもしれない。
5日目および6日目に凍結保存された良好胚を十分に有する患者さんは、7日目まで培養するメリットを得ることはない。7日目に使用可能な胚盤胞は5%未満ということを考えると、7日目までのルーチンでの培養の影響は小さいかもしれません。


まとめ
7日目の胚盤胞は比較的稀であり、胚盤胞期に凍結された胚の8%未満を構成し、いくつかは正倍数性でもあります。したがって、5日目または6日目の胚盤胞が利用できない場合、7日目の胚盤胞は凍結胚移植のよい選択肢のひとつであります。これらの胚盤胞が健康な児の出産をもたらすという明確な証拠があります。さらに、データは限られていますが、周産期予後は5日および6日の胚盤胞と同等であることを示唆しています。6日目に凍結できないまたは良好胚が獲得できない方のために、7日目までの培養を延長することが推奨されます。


この報告は、7日目までの培養はサイクル当たりの生児獲得率を増加させるという仮説を立てています。

採卵数が少ない方は新鮮胚移植の方がよい?

こんにちは


現在全胚凍結し、凍結胚移植を行っている施設が多いと思いますが、本日ご紹介する報告は、誘発剤に中等度もしくは低反応である方は新鮮胚移植の方が妊娠率、生児獲得率が良いという報告です。


Fertility and sterility 2018
"Freezing of all embryos in in vitro fertilization is beneficial in high responders, but not intermediate and low responders: an analysis of 82,935 cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology registry"


1回の採卵で回収できた数により分類
低反応群:1~5個の採卵数
中間群:6~14個の採卵数
高反応群:15個以上の採卵数


69,102回の初回新鮮胚移植、13,833回の全胚凍結後の初回凍結胚移植の計82,935サイクルが分析されました。
妊娠率、流産率、生児獲得率、出生体重など調査しています。


<結果>
採卵数の増加につれ、初回胚移植あたりの妊娠率は増加していました。 低反応群の妊娠率は、新鮮胚移植(33.2%)が凍結胚移植(15.9%)よりが高い結果でした。 中間群でも、両群の差は減少したものの、新鮮胚移植で妊娠率が高い結果でした。 高反応群では、妊娠率は凍結胚移植(61.5%)が新鮮胚移植(57.4%)より高い結果でした。


流産率(臨床妊娠あたり)は、中間群は新鮮胚移植と凍結胚移植の間で統計的に有意な差はありませんでしたが、低反応群および高反応群の凍結胚移植ではわずかに高い結果でした。 
生児獲得率は妊娠率と同じ傾向を示し、低反応群(25.9%対11.5%)および中間群(41.2%対35.3%)では新鮮胚移植で高く、高反応群では凍結胚移植(48.9%対52.0%)で高い結果でした。
出生体重は凍結胚移植の方が重く、中間群(平均54g)、高反応群(平均96g)であった。


結論として、全胚凍結は、採卵数15個以上の高反応群の妊娠成立に有益であることを見出しました。しかし、中間および低反応群では、新鮮胚移植後の妊娠率および生児獲得率が高い結果でした。この報告によると 全胚凍結が卵巣の反応に関係なく全ての患者にとって有益であり得るという考えに反論しています。




採卵数15個以上取れるような方は卵巣過剰刺激症候群を避けて、全胚凍結にすることが多いと思いますし、低反応の方はもともと妊娠しにくい可能性もありますのでもっと細かいデータがあれば良いと思いました。

PCOS患者さんの1親等において代謝障害の有病率が増加する

みなさんこんにちは


本日は
PCOS患者さんの1親等(両親、姉妹、兄弟)において代謝障害の有病率が上がるのではないかという報告です。


2018年のFertility and Sterility
“Metabolic syndrome, hypertension, and hyperlipidemia in mothers, fathers, sisters, and brothers of women with polycystic ovary syndrome: a systematic review and meta-analysis”
をご紹介いたします。


この報告は19件の論文をまとめて解析したものになります。
多発性嚢胞卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢の女性の4%〜19%に認め、生殖・代謝に関連しています。しかし、PCOSの病因は不明ですが、遺伝子、民族、環境、生活習慣の複雑な相互作用による病態と考えられています。


PCOは、双子の間で80%の一致しており、1親等での高い遺伝性に加えて、多くの研究が代謝異常の有病率の増加を実証しています。
今回の報告は、PCOS患者の1親等におけるメタボリック症候群、高血圧、脂質異常症および他の代謝疾患の有病率の調査するため系統的レビューおよびメタ分析を行っています。


<結果>
PCOS女性の母親では、メタボリック症候群と脂質異常症の有病率が有意に高かった。
PCOS女性の父親では、高血圧、メタボリック症候群と脂質異常症の有病率が有意に高かった。
PCOS女性の姉妹においては、高血圧およびメタボリック症候群の有病率が有意に高かった。
PCOS女性の兄弟においては、高血圧の有病率が有意に高かった。


<結論>
このメタアナリシスは、PCOS女性の母親、父親、姉妹、および兄弟が、メタボリック症候群、高血圧、および脂質異常症のリスクが高いことを報告しています。したがって、PCOSの診断は、代謝障害に関して、発端者だけでなく、父親、兄弟、特に母親および姉妹の徹底的なレビューを開始すべきである。しかし、サンプルサイズが小さく明確な対照を用いた大規模な前向き研究が必要であると結論付けています。



東アジア系では高アンドロゲン血症でも多毛を来さない例も多く、欧米の診断基準での報告であるため、こちらの報告がそのまま日本に置き換えられるかは検討の余地があります。
しかし、PCOSが、遺伝、民族、環境、生活習慣の複雑な相互作用によるものと考えるなら1親等での代謝障害も増加して不思議ではないかもしれません。
日本やアジアでの検討も待たれます。

抗甲状腺抗体と流産

こんにちは


本日は抗甲状腺抗体と正常染色体の反復する流産の関係について調べた報告をご紹介いたします。


2018年8月のFertility and Sterility
Maternal antithyroid antibodies and euploid miscarriage in women with recurrent early pregnancy loss
です。


生殖年齢のカップルの1%〜5%は、反復する流産(RPL)を経験されています。そしてそのRPLは身体的、精神的、そして感情的な障害をおこします。この論文において反復する早期流産(REPL)は、妊娠10週未満の2回以上の流産と定義されます。


トリソミー、モノソミー、倍数性および不均衡な転座などの染色体異常が、妊娠10週以内に起こる流産の50%〜70%を占めています。流産が染色体異常によるものであると判明した場合、その後の流産の可能性を高めないといわれています。


2012年の米国生殖医療学会のガイドラインによると、夫婦の転座、子宮奇形など子宮因子、抗リン脂質症候群、糖尿病、プロラクチン異常および甲状腺疾患のスクリーニングが標準的な評価としてあげられています。さらに、最近の文献では、慢性子宮内膜炎の有無を評価することも報告されています。評価後、REPLのカップルのうち60%は、1つ以上の因子がみつかると報告されています。


この中の甲状腺機能と妊娠についての報告はさまざまあります。
甲状腺機能低下症は、流産、低出生体重、早産、胎盤早期剥離、妊娠高血圧、および児の知能指数の低下のリスクが報告されています。そのため明らかな甲状腺機能低下症の女性はレボチロキシンで治療されていますが、潜在性甲状腺機能低下症の治療に対しては議論の余地があります。


抗甲状腺抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ(抗TPO)および抗チログロブリン(抗TG))とREPLの関連性も明確ではありません。最近のAmerican Thyroid Association(ATA)の2017年ガイドラインによれば、散発性の流産と抗甲状腺抗体陽性に関連を報告しています。


この研究は、散発性の流産ではなくREPLにおいて、抗甲状腺抗体が正倍数性の流産と関連しているかどうかを評価しています。


<方法>
甲状腺機能正常(TSH、0.3~2.5mlU / L)または潜在性甲状腺機能低下症(TSH、> 2.5mIU / L、正常な遊離T4または遊離T4)で、抗TPOおよび/または抗Tgを測定。抗甲状腺抗体陽性は、抗TPO抗体> 4IU / mLまたは抗Tg抗体> 9IU / mLと定義。
流産時に遺伝学的分析を行なっています。


抗甲状腺抗体の有無と正倍数性流産について検討しています。 さらに、REPLの病歴を有する女性の抗甲状腺抗体の有病率を調査しています。


<結果>
348人のうちの74人が条件をみたし、抗甲状腺抗体を有する女性の有病率は17.6%(13/74)でありました。平均TSHは抗甲状腺抗体を有する群は抗体を持たない群より有意に高い結果でした。しかしながら、流産や早産などの既往は抗甲状腺抗体有無で2群間で有意差を認めませんでした。
2つのグループ間の初期流産のタイプを比較すると、抗甲状腺抗体を持っていない群と比較して、抗甲状腺抗体を有する群において、普通の流産は化学流産や着床部位不明な妊娠よりも多い傾向が認められました。


流産の染色体の結果
62の流産染色体のうち、53%(33/62)が正倍数性であり、そのうち42%(14/33)がXX 女性、58%(19/33)がXY 男性でありました。正倍数性の流産の頻度は、抗甲状腺抗体の有無による差はありませんでした。


<結論>
この研究では、甲状腺機能正常または潜在性甲状腺機能低下症を有するREPLにおいて、正倍数性の流産と抗甲状腺抗体の存在との関連性は示されませんでした。そのため、抗体検査や治療は正当化されない可能性があるということでした。

コンパクションの時期に空胞を認めた場合、胚盤胞率、妊娠率、生児獲得率の低下する?

こんにちは


今回ご紹介する報告は


“コンパクションの時期に空胞を認めた場合、胚盤胞率、妊娠率、生児獲得率の低下する可能性があるかもしれない。“


というものです。


Fertil Steril. 2018年6月に発表された


Good-quality blastocysts derived from vacuolized morulas show reduced viability


です。




この空胞の定義は液体で満たされた球形の膜結合細胞質封入体というものです。細胞質内封入体は、細胞質内精子注入(ICSI)時に人工的にできることがありますが、ほとんどの空胞は自然に発生します。空胞は大きさが異なり、直径が小さいほど消滅する可能性が高くなります。しかし、大きな空胞や複数の空胞は、分裂時に融合する傾向を示します。


in vitro培養の0日目における空胞化の存在は~5%と推定され、2—8細胞期(2および3日目)は、約2%と低く、4日目にピークに達するといわれています(11%)。


この前向き研究は、ピークを迎えるday4胚の空胞の有無が妊娠に影響するか検討しました。


<方法>


424例を対象にICSI後day4胚の空胞形成の具合で3グループに分けています。


グループ1:day4にすべての桑実胚に空胞あり


グループ2:day4にすべての桑実胚に空胞形成なし


グループ3:その他




プロトコールはアンタゴスト法(75%)、またはLong法(25%)で新鮮胚移植を行っています。


女性の平均年齢は32.8±5.5歳、男性は(36.0±7.2)でありました。


胚盤胞率、妊娠率、生児獲得率を調査。


<結果>


グループ1は、5日目の胚盤胞形成率が低下し(P <.01)、良好胚盤胞が有意に少い結果でした(P <0.05)。さらに、妊娠率(P <.001)および生児獲得率(P <.01)は、グループ2およびグループ3と比較して有意に悪い結果でした。


<考察>


空胞の数と大きさは、胚の発生に有害である可能性が非常に高いと思われます。大きな空胞は紡錘体を変位させることがあり、これは受精障害や分割異常をもたらすと考えられます。特に注入された精子が中央に位置する空砲の近くに存在すると、精子頭部の脱凝縮を防ぎ大きな空砲が受精に影響を及ぼすことも見出されました。その後、胚の空胞化による細胞質量の減少により、胚盤胞で細胞数減少の可能性があります。マウスでは、細胞質を分極できず、胞胚腔の代わりに空胞を産生することが示唆されています。タイムラプス画像検査において、空胞化されたコンパクション胚や桑実胚が、翌日に空胞のない胚盤胞になることもみられています。


day5.6で観察し空胞のない胚盤胞にみえても、発育の過程で実は空砲が存在していた可能性もあります。
そのためday4胚をタイムラプスで観察し、空胞をみることで胚盤胞が正常に見えても、妊娠しにくい胚である可能性も否定できません。


この報告だけではなんとも言えませんが、症例数を増やした追加報告が待たれます。