体外受精-胚移植における睡眠の影響

体外受精-胚移植に対する睡眠の影響を調査した前向き研究が発表されていましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility Volume 119, Issue 1, January 2023, Pages 47-55


睡眠に関する報告は様々あり、
K.A. Michelsらにより毎日の睡眠時間は、黄体期の平均エストラジオール濃度およびプロゲステロンレベルと正の相関があることが報告されています。 また、L. Palらによると、卵巣予備能が低下した41歳未満の女性は、睡眠障害を示す可能性が有意に高いと報告しています。
ARTに関しては、P. LlanezaらによりIVF を受けている 200 人において、睡眠障害と採卵数に負の相関関係があり、睡眠障害は卵巣の反応不良と関連すると報告されています。L. Mínguez-Alarcónらは夜勤のある仕事をしている女性と昼のみで働く女性を比較すると、平均成熟卵獲得数が2.3個 少ないと報告されています。


この研究は、IVF-ETの臨床成績における睡眠の影響を検討しています。


合計 3,183 のアンケートを使用され、ピッツバーグ睡眠品質指数 (PSQI) アンケートとミュンヘン ChronoType アンケートを統合しました。睡眠の質は PSQI によって定量化されました。PSQI は、主観的な睡眠の質、睡眠潜時、持続時間、効率、睡眠障害、睡眠薬の使用、日中の機能障害を測定します。 各部分のスコアは 0 ~ 3 ポイントで、合計は 0 ~ 21 の範囲です。主観的な睡眠の質は、スコアが 5 を超えた場合、睡眠の質が悪いとされました。
週平均睡眠時間は、平日/勤務日および週末/非勤務日の睡眠時間の加重平均として計算されました。 
週平均睡眠時間 = ([平日の睡眠時間/勤務時間 × 週あたりの勤務日数] + [週末の睡眠時間/非勤務時間 × 週あたりの非勤務日]) / 7
平均睡眠時間は、5 つのグループに分けられました。
≤7時間/日、7–8時間/日、8–9時間/日、9–10時間/日、 >10時間/日


活動時間を評価するために、睡眠の中間点が午前2時30分より前の女性を朝型、睡眠の中間点が午前3時30分より遅い女性を夜型、それ以外を中間型と定義しました。


<結果>
参加者の 28.2% (899/3183) が睡眠の質が悪いと報告されており、睡眠の質が良いと報告した人に比べて、未産の割合が高く、BMI が低い結果でした。朝型であった参加者は、中間型、夜型の参加者よりも平均年齢が高く、BMI も高かった。 週平均睡眠時間は、年齢の減少すると増加していました。 平均睡眠時間が1日7時間以下のグループが最もBMIが高く、1日10時間を超えるグループがそれに続きました。


睡眠の質が良い女性は、睡眠の質が悪い女性よりも臨床妊娠率と生児出生率が高かった。
クロノタイプでは夜型女性の臨床妊娠率は70.8%で、朝型女性(64.4%)よりも有意に高かく、出生率も夜型女性が最も高い結果でした。 中間型と比較すると有意ではありませんでした。ただ、交絡因子を調整した後、睡眠クロノタイプと臨床妊娠との関連は統計的に有意ではありませんでした。
朝型女性は、流産率が最も高く、臨床妊娠率と生児出生率が最も低い結果でした。 夜型女性と比較して、朝型女性は、臨床的妊娠が0.91倍、出生率が0.83倍と減少し、さらに、朝型は流産と正の関連があることがわかりました。
睡眠の質が良い女性は、睡眠クロノタイプに関係なく、臨床妊娠率が高いこと、睡眠の質と睡眠時間の分析により、臨床妊娠と出生率が、睡眠の質が良好な女性で高いことより、睡眠クロノタイプや睡眠時間ではなく、睡眠の質が、IVF-ET の臨床成績との関連に重要な役割を果たすことを示しています。


睡眠時間と IVF-ET の臨床成績との間に関連はありませんでした。
睡眠の質と臨床妊娠との関連は、交絡因子を調整した後も残っており、良好な睡眠の質と臨床妊娠に正の相関を認めました。睡眠の質が良いと報告したグループは、潜在的な交絡因子を調整した後、睡眠の質が悪いと報告したグループと比較して、1.12倍出生率が高い結果でした。


睡眠の質とIVF-ETの臨床成績との関連は、35歳未満の女性と新鮮胚移植でより顕著でした。


胚移植前60日または90日以内に収集された睡眠データを持つ女性に限定された分析の結果は、睡眠クロノタイプが流産と有意に関連していることを示しました。60日以内に収集された睡眠データを使用した分析では、朝型、中間型女性は、夜型女性よりも流産する可能性がそれぞれ2.20倍、2.45倍高い結果でした。 90 日以内に収集された睡眠データを使用した分析では、朝型、中間型女性は、夜型女性より流産する可能性がそれぞれ 2.35倍、2.06倍高い結果でした。


まとめ
胚移植前の睡眠の質とクロノタイプは、IVF-ETの臨床成績と関連していました。良好な睡眠の質は、臨床妊娠や出産などに有益な要因となる可能性があります。 朝型クロノタイプは、IVF-ETの転帰には悪影響を及ぼす可能性があります。睡眠の質と睡眠クロノタイプと IVF-ET 転帰と関連が、35 歳未満の女性と新鮮胚移植でより顕著でありました。睡眠の質は、IVF-ET 転帰に関連する最も顕著な要因でした。


ただこの研究のみで判断するのは早いと思われます。メカニズムも不明であり、以前の研究とも一致しない結果もあり、追加研究が望まれます。

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