新しい着床前診断の報告

 異数性着床前遺伝子検査(PGT-A)は、胚の着床する部分である栄養外胚葉の細胞を5−10個ほど採取し異数性の有無を調べます。しかし、胚に侵襲を伴うものであり、胚生検のリスク、手技によっては着床に影響する可能性もあります。ここで2013年Paliniらが、胚生検の代わりに胚の使用済み培養培地から遺伝情報を取得した報告を発表しました。この非侵襲性・低侵襲性の異数性着床前遺伝子検査 (miPGT-A)に関する研究は増加していきました。


 今回この非侵襲性・低侵襲性の異数性着床前遺伝子検査 (miPGT-A)についての報告がありましたので、ご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 120, No. 2, August 2023 0015-0282



 従来の PGT-A と比較して、非侵襲的 PGT-A (niPGT-A) は使用済み胚盤胞培養液の使用に重点を置いているのに対し、低侵襲性のPGT-A(miPGT-A)は胞胚腔液 (BF:胚盤胞の内側の細胞の空間にある液体) を使用します。



ただ、これらはまだ栄養外胚葉の遺伝子検査とは一致しない結果も報告されています。


・非侵襲的 PGT-A (niPGT-A) :使用済み胚盤胞培養液
 Kuznyetsov Vらによると、使用済み胚盤胞培養液を用いた非侵襲的 miPGT-Aは、DNA は断片化されており、通常は低濃度 (培地の約 8% に胚 DNA が含まれます)と報告されています。研究では、培養液の選択が長期的な影響を及ぼし、胎児の発育や出生体重などのパラメーターに影響を与える可能性があることが示されています。 これは、培養液がアポトーシス、タンパク質分解、代謝、細胞周期制御因子の遺伝子発現に与える影響によるものと考えられます。 したがって、培養液も無細胞 DNA の利用可能性に影響を与える可能性があると考えられます。 培養液の組成に加えて、胚が培養液に曝露される時間も多くの研究の対象となっている。 現在、ツーステップ(シーケンシャル)メディウムシステムとワンステップ メディウムシステムの両方が存在します。 シーケンシャルメディウムでは、移植および凍結保存の前に培地が交換されますが、ワンステップメディウムでは、胚は培養期間中同じ培養液で培養されています。現時点では、各メディウムが非侵襲性 miPGT-A に与える影響は不明です。


 非侵襲性 PGT-A を商業的に成功させるためには、従来のPGT-Aと同じくらい培養液から確実にDNAを獲得できるかどうかです。培養液検査に関しては、胚が成長するにつれて DNAを培養液に排出するというものです。アポトーシスなど壊死のメカニズムが断片化した DNAを培養液に放出している可能性があります。ただ、放出されるDNA が胚のDNA と一致するというものから、胚は正倍数性で「異常」であるDNA を培養液に廃棄しているのではないかとするものまで多岐にわたります。


一致率
Liuら(2017)    26/31 (83.9)
Capalboら(2018)   27/72 (37.5)
Rubioら(2019)    866/1108 (78.2)
Chenら (2021)    190/256 (74.2)
Xieら(2022)      111/147 (75)
Hoら(2018)      10/12 (83.3)



・低侵襲性のPGT-A(miPGT-A)は胞胚腔液(BF)
 胞胚腔液は、胚盤胞の内側の細胞の空間にある液体です。従来のPGT-Aで行う栄養外胚葉生検の代わりに BF を使用します。胚生検ではなく、胞胚腔の液体の針で吸引が含しDNA採取します。この胞胚腔に流出した DNAは、培養液に流出した DNA よりも胚の情報をよりよく表している可能性があるという報告もあります。ただ、細胞接合部から胚腔内に挿入する針を使用するため、この方法は侵襲的であると考えられます。従来のPGT-Aで行う栄養外胚葉生検と BF の一致率は論文でさまざまですが、Gianaroli らの報告では 97.4% の一致率が確認されています。


・非侵襲的 PGT-A (niPGT-A) と低侵襲性のPGT-A(miPGT-A)の組み合わせ
 非侵襲的検査の 3 番目のアプローチは、使用済み培養液と胞胚腔液の組み合わせです。 SBM と BF を組み合わせると、Kuznyetsovらは、非侵襲的 PGT-A (niPGT-A) と低侵襲性のPGT-A(miPGT-A)の組み合わせと 従来のPGT-Aで 97.8% の一致を報告しています。
ただ、一致率が高いですが、非侵襲的miPGT-A を強力な臨床有用性を備えた信頼できるツールとして利用する前に、追加研究と理解が必要であります。


PGT-A 検査全般において、万能ではなく遺伝カウンセリングは患者ケアにおいて極めて重要な役割を果たします。 モザイク胚移植や異数性リスクはより複雑になるため、新しい PGT-A を遺伝カウンセリングと組み合わせて適用することで、理想的にはリスクを増大させることなく、患者に広範な情報を提供できるようになります。

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