長期の胚盤胞凍結は妊娠転帰に影響するか?

胚の凍結保存は一般的となってきていますが、長期の凍結が妊娠転帰に影響するか調べた報告をご紹介致します。


Fertility and Sterility Volume 119, Issue 1, January 2023, Pages 36-44


W. Liらの胚の保存期間が妊娠・新生児に及ぼす影響を調査しているコホート研究では、ガラス化初期胚の生存率、出生率、在胎週数、単胎の出生時体重に、最長 5 年間の保存期間で有意差がなかったことが報告されています。 ただ、2020年に発表されたJ. Liらの研究では、2年までの胚の凍結保存期間では、凍結期間が長くなれば臨床的妊娠率と生児出生率が著しく低下するとの報告がありました。報告により凍結期間が妊娠転帰に影響するかは様々です。
この研究では、胚盤胞のガラス化後の凍結保存期間がおよび新生児の転帰に及ぼす影響を、同じ採卵周期で凍結できた胚を使用して、2人分娩した方を対象とし調査しています。


5 つの保存期間でグループ分けされました。 
グループ1 (保存期間 <3 年): 1,890 人
グループ2 (保存期間 3 ~ 4 年): 2,693 人
グループ3 (保存期間 4 ~ 5 年): 1,344 人
グループ4 (保存期間 5 ~ 6 年): 578 人
グループ5 (保管期間 6 年以上 10.5 年以下): 395 人 
71 人が、胚盤胞の融解に失敗したため、移植周期をキャンセルしました。 合計6,829人が5つのグループに分類されました。


胚盤胞の生存率、生化学的妊娠、臨床的妊娠、流産、子宮外妊娠、出生率、新生児の性別と出生時体重、早産率が調査されました。


結果
ガラス化胚盤胞の生存率は、グループ 1 からグループ 2、3、4、 5 への長期保存に伴って有意に減少しました。
グループ1、2、3、4の間で生化学的妊娠、臨床的妊娠、生児出生率に有意差はありませんでした。しかし、生化学的妊娠、臨床的妊娠、生児出生率は、保管期間が3年未満(グループ1)と比較して、保管期間が6年以上(グループ5)で大幅に減少しました。
しかし、ガラス化胚盤胞の長期保存と、流産、子宮外妊娠率に有意差は認められませんでした。 新生児転帰は、新生児の性別、出生時体重、早産率は同等でした。


まとめ
ART によってすでに 1 人の子供を出産した 6,900 組の不妊カップルを対象としたこの研究では、保存期間が6年以上の場合、生化学的妊娠、臨床的妊娠、生児出産率が悪影響を受けることが明らかになりました。 しかし、他の妊娠転帰や新生児転帰は、ガラス化胚盤胞の凍結保存期間によって悪影響を受けることはなく、長期間保存されたガラス化胚盤胞は、ART で使用するための安全な選択肢でした。


ただ、メカニズムは不明ということでしたが、動物実験では下記が報告されています。
B. Somoskoiらより、胚盤胞のガラス化がミトコンドリアの分布パターンに影響を与え、過剰なフリーラジカルが凍結保存後のマウスの胚盤胞で DNA 断片化を引き起こす可能性があることを報告しています。また、E. Estudilloらは胚盤胞の長期のガラス化により、エピゲノムが変化することが報告されています。

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