ホルモン補充周期で卵胞発育があった場合

ホルモン補充周期による凍結胚移植の際、卵胞発育がみられることがありますが、このときの妊娠転帰や周産期合併症についての報告をご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 119, No. 6, June 2023 0015-0282


胚移植には、採卵周期に2−5日後に胚を戻す新鮮胚移植と採卵周期とは別の月経周期に胚移植を行う凍結胚移植があります。
新鮮胚移植のメリットは胚を凍結せずに移植できるので、時間の節約や凍結の侵襲がないという点です。デメリットは、卵巣過剰刺激症候群のリスクが増加してしまいます。
凍結胚移植は、メリットは、卵巣過剰刺激症候群のリスクを低下させ、新鮮胚移植と同等かそれ以上の臨床成績をもたらすことができます。さらに子宮内膜の移植準備も調整可能な点もあります。デメリットは新鮮胚移植より移植時期が遅れてしまい、新しく移植準備を整えなければならないという点です。


凍結胚移植には、移植日を設定する方法として、ホルモン補充を行い子宮内膜を厚くするホルモン補充周期(人工周期:AC)と自身の排卵に合わせて移植日を決定する自然周期(NC)があります。
自然周期(NC)は排卵のタイミングを決定するために頻繁な診察が必要となります。
ホルモン補充周期(AC)はエストロゲンとプロゲステロンにより月経周期を調整するため、ある程度都合に合わせた治療が可能となります。
このホルモン補充周期を行う時、通常エストロゲン投与することで、卵胞発育は妨げられますが、稀に卵胞が発育することがあります(約 1.9% ~ 7.4%)。Baerwald らは、高齢でインヒビンの FSH 阻害効果が弱まり血清FSHレベルが上昇し前の周期の黄体期に卵胞の早期発育が促進するためであり、Suらも血清FSHレベルが上昇し、血清AMHレベルが低下している女性はACで予定外の卵胞成長を起こしやすいと報告しています。


今回この報告は、ACにおける卵胞発育と排卵が妊娠転帰と周産期合併症に及ぼす影響を遡及的に調査しています。


ACで卵胞発育と排卵があった合計161人と、一般的なACの1,266人の臨床成績と周産期合併症を調査しています。


2群間の臨床転帰では、化学妊娠、臨床妊娠、生児獲得率は同等でした。排卵群では妊娠高血圧症候群が少ないこともわかりました。 また、排卵群のLGAが多い結果でした。GDM、分娩時在胎週数、早産、新生児の性別、分娩方法、新生児の出生体重は、2 群間で同等でした。


次にロジスティック回帰分析により、交絡因子を調整した後、卵胞発育・排卵を伴う AC は 妊娠高血圧症候群リスクが0.070倍低下し、出生時の体格が在胎期間に比して大きい児(LGA) のリスクが4.046倍増加していることがみられました。


まとめ
ホルモン補充周期での卵胞発育・排卵の有無にかかわらず、通常のACと妊娠転帰を比較したところ、出生率は2群間で同様でした。卵胞発育・排卵を伴うACは妊娠高血圧症候群のリスクが低く、出生時の体格が在胎期間に比して大きい児(LGA) のリスクが高い可能性が明らかになりました。



ただ、はっきりとした理由はわからないということでした。
HDPに関しては、黄体形成が関わっているのではないかと考察されていました。黄体が存在しないと、妊娠高血圧腎症のリスクが増加します。 一部の研究者は、FET-ACの女性と凍結胚移植-自然周期の女性の間で産科および新生児の転帰を比較し、黄体のないACでは妊娠高血圧症候群のリスクが増加していると報告しています。
LGA に関しては、排卵することでACと同じ用量のホルモン補充をおこなっていることが、自分自身が出すホルモンレベルを妨げ、妊娠後期の胎児の発育に影響を与えた可能性が考えられるということでした。

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