胚移植日周囲のプロゲステロン濃度

今回は、胚移植周囲のプロゲステロン濃度が低い症例に、プロゲステロン補充を行うと、プロゲステロン濃度が正常群(10 ng/mL以上)と生児獲得率が変わらないという報告をご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 119, No. 6, June 2023 0015-0282


胚移植当日のプロゲステロン(P4)濃度は妊娠率に影響する可能性が報告されています。
Labartaらは、P4 レベルが 9.2 ng/mL 未満であれば、P4 レベルが高い群より継続妊娠率 (OPR) が 20% 低いと結論付けています。他にも同様の報告はありますが、P4がいくつ以下であれば妊娠率が低下するというデータはありません。
また、プロゲステロン剤にはさまざまあり、膣剤、注射では皮下投与・筋肉内投与、経口剤などがあります。一番良い投与方法はまだ明らかになっていませんが、膣剤のみと比較して、筋肉内P4投与のみもしくは併用治療(膣剤と筋肉内投与)を受けた群の方が良好な結果をもたらすという報告はあります。


 この報告は、胚移植日前後の P4 レベルが低い方にP4の 補充を行うことで臨床成績が改善できるかどうか検討しています。 


12 週を超えた妊娠率をOPR とし、臨床妊娠率、流産率、および生児獲得率を検討しています。


合計 7 件・ 5927 人がメタ分析の対象となりました。全体のうち、胚移植日またはその翌日に測定した3,441 人(58%)は血清 P4 レベルが正常でしたが、2,486 人(41.9%)は P4 レベルが低いと判断されました。P4のカットオフ中央値は10 ng/mLでした。
 全体として、全患者サンプル全体の臨床妊娠率は 47.54% (N = 2818)、生児出産率 37.55% (N = 2226)、流産率 15.98% (N = 947)、継続妊娠率 42.78% ( N = 2536)。この研究では、プロゲステロンが投与された場合、正常P4群とP4低値群との間に臨床成績の統計的に有意差はありませんでした。


正常P4群とP4低値群において、P4低値群にプロゲステロンが投与された場合の投与経路によるサブグループ分析が行われたところ、皮下、筋肉内、または経口投与では継続妊娠率に有意差をみとめられませんでしたが、経膣投与された群で継続妊娠率の低下を認めました。 ただ、経腟投与の報告は1件であり、有効かを判断することは不可能でした。


流産に関しては両群変わりなく、臨床妊娠率も変わりありませんでした。生児獲得率に関しても、両群に有意差はありませんでした。P4の投与方法によるサブグループ解析では、筋肉内、皮下、経口では同様の結果でした。経膣投与のサブグループ解析は、1つの研究であり解析できませんでした。


<まとめ>
この分析では、2 群間の臨床成績に対する統計的に有意な差はみられず、P4低値群に対し、プロゲステロン補充することにより、P4正常値群と同等の継続妊娠率・流産率・生児獲得率を獲得できた可能性が考えられます。つまり、移植周囲のP値が低くてもプロゲステロン補充をすれば、P値が正常と同様の結果が得られるという報告でした。


ただ、移植日周囲のP値が低いと妊娠率が低下するかはこの報告からはわかりません。
移植日周囲のP値については、2022年のLabartaは、黄体補充を行わない場合の血清 P レベルが 9.2 ng/mL 未満群と、血清 P レベルが 9.2 ng/mL 以上群では、生児獲得率に有意な差が観察されたと報告しています。

×

非ログインユーザーとして返信する