精子採取から人工授精まで時間についての報告

精液採取と 人工授精(IUI)の間隔が長いと、累積継続妊娠が有意に改善され、妊娠までの期間が有意に短縮されたという報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Vol.38, No.5, pp. 811–819, 2023


IUIは、軽症の子宮内膜症、原因不明の不妊症、子宮頸因子不妊症、また軽度の男性因子不妊症と診断されたカップルにとって、低侵襲、低リスク、費用対効果の高い治療法です。精液採取からIUIまでに関する報告はさまざまで、Fauqueらの前向きコホート研究において、精液処理後 40 ~ 80 分での人工授精が最良の妊娠結果をもたらすことが報告されました。ただ対照的に、Jansenらは、精液処理の翌日まで授精を遅らせた場合でも、継続的な妊娠率に悪影響が及ばないことを発表しています。 他にSongらも、精液採取と IUI の時間は妊娠の影響はないとしています。
さまざまな報告があるため、この報告はランダム化比較試験(RCT)を実施し、精液採取からIUIまでの時間が短い場合、長い場合を比較して、IUI 6サイクル後の継続妊娠の累積確率が増加するかどうかを調査しています。


初回 IUI を開始する前にのみ参加し最大6回までIUIを行いました。3 回は自然周期で、その後は 卵巣刺激を行いIUIをしています(原因不明の不妊症患者に対しては、卵巣刺激6周期する方も)。


142人が精子採取からIUIまで短時間のグループ(90分以内)、138 人が長時間のグループ(180分以上)にわけられました 。短時間グループの IUI サイクルの総数は 598 (自然周期 207 (34.6%)) であったのに対し、長時間グループの IUI サイクルは 495 (自然周期 194 (39.2%)) でした。累計すると、短時間グループでは56組のカップル、長時間グループでは71組のカップルで継続妊娠が確認され、ITT分析では、累積継続妊娠率は短時間グループ(56/142、39.4%)と比較して長時間グループ(71/138、51.4%)で有意に高い結果でした。さらに長時間グループのカップルは、妊娠継続までの時間が有意に短い結果でした。ただ、Per protocol解析では有意ではありませんでした。
多胎妊娠と流産は 2 つのグループ間で同等でした。


結論
精液採取と授精の間隔が長い(180 分以上)とカップルあたりの累積継続妊娠率が高く、妊娠までの期間が短縮されました。ただ、Per protocol解析では、両群間で累積継続妊娠率に有意差は示されていませんので、IUIと排卵のタイミングが関係している可能性が考えられ、クリニックにより、最適な精子採取からIUIの時間を見つける必要があるとしています。


採取からIUIまでの間隔が長い方が良い理由としては、精子は卵子と受精する前、受精能獲得の過程で機能的に成熟する必要があるため、長時間グループでは室温で受精能獲得を開始し、精子がIUI後に短時間で受精能獲得を完了できたのではないかと仮説を立てています。短時間グループの精子は、受精能獲得を完了するまでに多くの時間を必要とし、卵子と受精できるようになるまでにさらに時間がかかる可能性があると予想されました。この報告は、hCG注射の42時間後の排卵の直前または直後にIUIが行われています。この状態では短時間グループで排卵時に受精能を獲得した精子の数が少なく、ほとんどの精子がまだ卵子と受精できていない可能性が考えられています。

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