油性造影剤を使用した卵管造影検査の安全性

油性造影剤を使用した卵管造影検査の安全性についての報告をご紹介いたします。


Reprod Biomed Online. 2021 Jun;42(6):1119-1129.


卵管の疎通性を診断する一般的な方法として子宮卵管造影検査があります。この卵管造影検査を行った後は妊娠率が上昇するなど報告は多くあります。また、この造影剤には油性と水性がありFangやWangらの報告によると油性の造影剤は水性と比較すると進行妊娠率が1.4倍、生児獲得率は2.18倍と報告されています。造影剤のデメリットとしては、血管内に入ってしまい、頻度は少ないですが、油塞栓として肺や脳などの臓器に到達し、血管系の炎症および/または閉塞を引き起こす可能性があるとUzunが報告しています。ただ、経過をみると軽度の症状しかなく、観察後に回復しており、血管内流入はほぼ無害であるとみなされています。
 造影剤にはヨウ素が含まれており、リピオドールのヨウ素濃度は水性造影剤よりも高くなっています (リピオドールでは 480 mg iodine/ml に対して、水性造影剤では 240 ~ 300 mg iodine/ml)。ヨウ素への曝露は、甲状腺ホルモンの合成を一時的に低下させる可能性があります。そのため、あらかじめ甲状腺機能に異常がないか検査するクリニックが多いと思われます。


この報告は合併症を油性と水性で比較したレビューとなります。


・血管内流入
8 つの研究 (3 つの RCT と 5 つのコホート研究) では、HSG と油性造影剤および水性造影剤の使用による血管内浸潤の頻度が比較されました。 血管内流入率は、油性造影剤を使用した HSG 後は 2.8% (38/1353)、水性造影剤を使用した HSG 後は 1.8% (18/1006) でした (OR 5.05; 95% CI 2.27–11.22; P < 0.0001)。 油性造影剤を使用すると血管内流入がより頻繁に発生することが示されています。


RCT およびコホート研究で実施された油性造影剤を使用した HSG の全グループでは、油塞栓症の女性が 18 人いました (18/19,339、HSG の 0.1%; 18/664、血管内浸潤の症例の 2.7%)。 これらの症例のうち 6 例では肺塞栓症がみられましたが、他の 12 例では造影剤が骨盤内で収まりました。 後者はすべて無症候性でした。


感染
造影剤使用による感染のリスクはありますが、抗生物質の使用の増加と改善により、これらの感染症の経過はそれほど深刻ではなくなりました(抗生物質の予防投与で 0.5%程度)。


・甲状腺機能
4 つのコホート研究と 4 つの症例報告によると、油性造影剤を使用したHSG後に胎児甲状腺腫の3例が報告されました。 そのうちの 2 例では、妊娠した月に HSG が実施されていました 。 3 例は、妊娠した年に HSG が実施されていました。


Satohらの日本の後ろ向きコホート研究では、リピオドールを使用した HSG 後の新生児の甲状腺機能を評価しています。先天性甲状腺スクリーニング 異常は 2.4% (5/212) で見られました( 無症候性甲状腺機能低下症の 3 例と顕性甲状腺機能低下症の 2 例)。 Welieらの別の後ろ向きコホート研究では、妊娠前に油性造影剤  (n = 76) と水性造影剤  (n = 64) を使用した HSG を行い、その後生まれた 140 人の新生児の甲状腺機能を調査しました。 先天性甲状腺機能低下症のスクリーニング中に陽性と判定された新生児はいませんでした。 さらに、使用された造影剤の量は甲状腺機能に影響を与えませんでした。


(甲状腺に関して、不妊治療に関する ACOG 委員会の意見では、不妊の女性全員に定期的な甲状腺検査を推奨しています (ACOG 2019)。 さらに、妊娠中および産褥期の甲状腺疾患の診断と管理に関する 2017 年米国甲状腺協会のガイドラインでは、不妊症の状況では、血清 TSH 濃度を概念前に 2.5 mIU/l 未満に維持することを推奨しています。)


まとめ
一番多い合併症は血管内流入でした。油性造影剤(2.8%)の方が水性造影剤(1.8%)よりも血管内流入は多かったものの、X 線透視下で行えば、油塞栓症の深刻な合併症は発生しませんでした。

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