HPV感染は胚の動態や妊娠率に影響するか?

ヒトパピローマウイルスが胚の動態や妊娠率に影響するか検討した報告をご紹介いたします。


Reproductive Biology and Endocrinology (2023) 21:39


 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は、性的に活発な男女の半数が罹患する可能性がある性感染症です。 25 歳未満および 55 ~ 64 歳の女性では HPV 感染のリスクが高いことが報告されています。


 HPV は、ヒト上皮組織に対して特異的に感染するDNA ウイルスです。 HPV には約 200 種類の異なる遺伝子型があり、感染細胞の腫瘍性形質転換を誘導する能力に基づいて低リスク (LR-HPV) または高リスク (HR-HPV) に分類されます。 HPV感染は多くの場合一過性で無症候性ですが、HR-HPVは癌への進行を伴う生殖器病変の主な原因となっています。
 
 最近の研究では、HPV が生殖能力に影響を与える可能性や体外受精 (IVF) にも影響を与える可能性があることが知られています。精液に対する HPV の影響はよく知られており、Gizzo Sらは、精子の運動性の低下やConnelly DAらは、精子の DNA 断片化の増加に影響していることを発表しています。HPV は精子の頭部に結合することで、ウイルスのDNA を卵に伝達し、最終的には胚の発生に影響を与えるのではないかとForesta Cらは報告しています。 実際、マウスでは、精子 HPV 感染は胚盤胞形成速度を低下させ、孵化を阻害し、胚の着床を妨げる可能性が示されています。
 女性の生殖能力に対する HPV の影響は不明です。女性のHPV感染が体外受精(IVF)の成功率を低下させる、流産のリスクを高める、出生率を低下させるなどの報告はみられますが、まだまだ議論の余地があります。


 この研究は、体外受精を受けている女性におけるHPVの有病率と、胚の形態動態および体外受精の臨床成績に対するHPV感染の影響を評価しています。


・HPV感染の有病率と遺伝子型解析
 女性 457 人のうち、41 人 (8.9%) が子宮頸部スワブ検査で HPV 陽性と判定されました。(一般女性の罹患率と変わらない)
HPV16 が一番多い遺伝子型 (17.8%) であり、次に HPV18 と 59 (8.21%)、45 と 66 (6.85%)、31、33、51、52 (4.11%) でした。子宮頸部スワブ検査で HPV 陽性であった女性の 61% (25/41) と 48% (20/41) で、顆粒膜細胞と子宮内膜細胞がそれぞれ HPV 陽性となりました。 


・体外受精の結果
体外受精を受けた 326 人の患者の基本的な臨床的特徴と体外受精の臨床成績の結果
(HPV陽性女性27名とHPV陰性女性299名)を比較したところ、卵巣刺激に対する反応は両群で同等であり、採卵数も同様でした。 受精率、卵割率、胚の利用率、胚の形態学的スコア、臨床妊娠率、流産率、生児獲得率/周期は、HPV 陽性女性でも陰性女性でも同等でした。


 845 個の胚がタイムラプスシステムを使用して分析され、胚盤胞を446個(HPV 陽性群:202個、HPV陰性群:244個)獲得でました。発生の初期段階では、HPV 陽性群の胚はHPV陰性群より速い反応速度を示し、前核消失時間 (tPNf) が短く、前核の出現と消失時間も短い結果でした。ただ、胚盤胞期(tB)までの時間は遅くなりました。


 顆粒膜細胞における HPV 感染の有無にかかわらず、体外受精の臨床成績は、成熟卵の割合、受精卵の割合、および胚形態スコアは変わりませんでした。異なる点として、HPV 陽性の子宮内膜細胞は、HPV 陰性の子宮内膜群と比較すると生児獲得率は低いものの統計学的有意差は認めませんでした。


<まとめ>
(a) 体外受精をおこなっている女性における HPV 感染の有病率が、同じ年齢層の一般的な女性集団と同等であった。
(b) HPV は、生児率などの体外受精の臨床成績に大きな影響を与えることなく、胚の発育動態にわずかに影響を与える。
(c) 子宮内膜細胞や顆粒膜細胞がHPV陽性となっており、HPV が女性の生殖器に沿って移動する可能性がある。
ことをこの報告は示しています。

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