反復着床不全に対し子宮収縮抑制薬は有効か?

今回、不妊治療で苦慮する反復着床不全について、子宮収縮抑制薬であるオキシトシン受容体拮抗薬(アトシバン)が有効か調査した報告をご紹介いたします。


”Reproductive Biology and Endocrinology (2022) 20:124”


反復着床不全(recurrent implantation failure :RIF)の定義はありませんが、Coughlanらは一般に、40 歳未満の女性が最低 3 回の新鮮・凍結胚移植で4 個以上の良好胚を移植しても臨床的妊娠に至らないことを指すと考えられています。RIF の発生率は約 10 ~ 20% であり、RIF の原因は、胚の質の低下、子宮腔の異常、子宮内膜受容性の低下、免疫機能異常など、さまざまです。


胚の着床は複雑です。 胚の質と子宮内環境が、胚の着床に影響を与える 大きな要因です。 Fanchinらによると胚の着床を可能にする理想的な子宮状態には、子宮内膜への十分な血液供給と適度な子宮収縮が必要であり、過度の子宮収縮は、胚の着床に影響を与え、胚が子宮腔から排出されることされるのではないかと報告されています。LanやHeらにより、RIFの凍結胚移植周期における子宮内膜蠕動の頻度の増加が報告されています。したがって、子宮収縮を抑制することは、RIFの妊娠成功率を改善するための効果的な手段である可能性があります。


アトシバンはオキシトシン/バソプレッシン V1A 拮抗薬の組み合わせで、海外では切迫早産に使用されています(日本では使用されていません)。 アトシバンのメカニズムは、子宮筋層、脱落膜にある受容体に対してオキシトシンと競合し、オキシトシンの有効性と筋肉細胞上のカルシウムイオンのレベルを低下させ、それによって子宮収縮を阻害します。 IVF におけるアトシバンの臨床使用の最初のケースは、Pierzynski らによって報告されました。 42 歳、12 個の良質胚を 8 回移植し妊娠しませんでしたが、 アトシバン投与サイクルで妊娠しました。 Lanらの前向きコホート研究では、アトシバンが、ホルモン補充周期での凍結保存胚移植を行なったRIFに有効である可能性を示しました。Ng らによる 800 人の IVF 患者を含む多施設 RCTでは、IVF を行なっている一般集団において、アトシバン群とプラセボ群で臨床妊娠率と生児出生率に有意差がないことを示しました。


さまざまな報告がありますが、この報告は、RIF女性でアトシバンを使用した後、生児出生率が有意に高くなるか検討しています。


40 歳未満の反復着床不全例、子宮内膜の厚さ ≥ 8 mm、1個以上のD3 良質胚を新鮮胚移植行なっています。(今回の報告は凍結胚でも胚盤胞移植でもないようです。)
194 人が対象となり、97 人のアトシバン投与群と97 人のプラセボ群に分けられました。アトシバン群は、移植の約 30 分前に、1 分間に 6.75 mg のアトシバンを静脈内投与されました。


<結果>
ベースラインの患者背景に両群の有意差はなく、刺激方や移植胚にも有意差を認めませんでした。
妊娠の転帰としてはアトシバン群とプラセボ群で生児出生率に有意差はありませんでした (42.3% 対 35.1%、P = 0.302)。 娠検査陽性率、着床率、臨床的妊娠率、継続妊娠率、出生率など、妊娠転帰の有意な改善は示しませんでした。


サブグループ解析(過去の移植胚数、移植回数、胚移植日の子宮内膜の蠕動3回以上と未満)でも生児出生率に有意差を認めず、ロジスティック回帰分析でもアトシバンの使用は、RIF の女性における新鮮胚移植後の生児出生とは関連していませんでした。
ただ、胚移植日の子宮内膜蠕動の頻度、総 FSH/HMG 投与量と投与期間は、生児出生の独立して予測する重要な要因でした。
また、血清エストラジオールレベルが胚移植日の子宮内膜蠕動の頻度と相関していないこともわかりました。


<まとめ>
この結果は、新鮮胚移植の前にアトシバンを投与しても妊娠検査陽性率、着床率、臨床的妊娠率、継続妊娠率、出生率など、妊娠転帰の有意な改善は示しませんでした。
サブグループ解析での子宮内膜蠕動の頻度で 2群に分けても出生率に差がないことが明らかになりました。



ただ、新鮮初期胚移植のデータであり、凍結胚盤胞や投与量、投与方法など変えれば効果が変わるかも気になります。

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