HRTでプロゲステロン低下症例にて、坐薬補充にて妊娠率の低下を防ぐ

ホルモン補充療法凍結胚移植(HRT-FET)において、移植前のプロゲステロン値が低いと妊娠率も低くなる可能性があります。そのため、移植前のプロゲステロン値が低い方に坐薬でのプロゲステロンを追加した場合、妊娠率が変化するか検討した報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 38, Issue 11, November 2023, Pages 2221–2229



Meloらのメタ分析で、黄体期補充(LPS)に膣プロゲステロンを使用したHRT-FETは、P4レベルが10 ng/ml未満の周期ではP4 レベルが高いサイクルと比較すると、継続妊娠率(OPR)と生児出生率(LBR)が有意に低いことが報告されました。さらに、黄体 P4 レベルが低い群では、早期流産のリスクが著しく高くなると報告しています。


プロゲステロンの投与経路に関するRanisavljevicらによるメタ分析では、プロゲステロンの投与経路と妊娠成績を比較したところ、血清プロゲステロンレベルに有意差はありませんでした。 プロゲステロン投与経路が異なれば、カットオフレベルも異なる可能性が考えられた。


プロゲステロンの投与経路は、膣、皮下、経口、筋肉内に投与されますが、直腸に投与することもできます。この研究は、HRTでの黄体中期 P4 レベルが 11 ng/ml未満であれば、プロゲステロンを直腸追加投与することで、継続妊娠率に影響するか調査しています。



合計488人のうち374人は胚盤胞移植日の血清P4レベルが11 ng/ml以上で、114人は血清P4レベルが11 ng/ml未満でした。



プロトコール
胚盤胞移植日の膣プロゲステロン投与の2 時間後に血清P4が測定され、11 ng/ml未満と11 ng/ml以上の2群に分けられました。血清P4が11 ng/ml未満であれば、移植日の夕方から追加の400 mg Cyclogest® 1日2回(午前7時と午後7時)の坐薬が追加されました。



胚盤胞移植日の平均血清P4は15.4 ± 6.6 ng/ml、妊娠検査日の平均血清P4は16.2 ± 8.3 ng/mlでした。 患者の合計 23% (114/488) の血清 P4 が11 ng/ml未満でした。


臨床成績
hCG 陽性率、臨床的妊娠率、継続妊娠率 、流産率は、11 ng/ml未満と11 ng/ml以上の両群に有意差を認めませんでした。多変量解析を行なっても変わりませんでした。
年齢と胚盤胞スコアは継続妊娠率と相関しました。


<まとめ>
この前向き介入研究では、HRTの胚移植日に P4 11 ng/ml未満であれば、プロゲステロンの坐薬を追加することで黄体期機能が改善し、P4 11 ng/ml以上群と変わらない臨床成績でありました。



 この報告によると胚移植日のP値が低下している症例がかなりの割合存在することがわかりました。保険で行う際は坐薬でのプロゲステロン併用や胚移植当日の採血は難しいと思われますが、興味深い報告と思われます。
 プロゲステロンの経口投与や筋肉内投与など他の補充方法も良好な効果があると報告されていますので、膣剤の増量では効果は得られないのか?等気になるところもあります。(他の報告では累積妊娠率は上昇しないと報告されています。)



・HRT 後の流産について
 Meloらは、血清 P4 が10 ng/ml超えていれば、HRT-FET での流産リスクが0.62倍に減少しますると報告しています。この研究では、P4 ≧11 ng/ml群とP4 11 ng/ml未満群では、流産率に有意差はみられませんでした。



・HRT-FET の黄体期 P4 レベルが高すぎるリスクは?
 過去に発表された研究では、HRT-FET における黄体中期の P4 レベルが高すぎると、臨床成績に悪影響を及ぼすことが示唆されています。Yovichらは、有意ではないが、P4 レベルが 31.4 ng/mlを超えていれば、P4 が22- 31 ng/ml群に比べて累積妊娠率が低かったと報告しましています。

胚盤胞の虚脱は妊娠に影響する可能性あり

胚盤胞の虚脱についての報告がありましたのでご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 38, Issue 10, October 2023, Pages 1891–1900


 妊娠率の高い胚を選択する手段としてさまざま開発されてきています。胚盤胞の見た目でグレードをつけるガードナー分類があります。また、ヒト胚のタイムラプス顕微鏡法(TLM)は、世界的で多くの体外受精クリニックで採用されています。このTLM は、培養条件をほぼ変えることなく、胚を詳細に観察できます。この動的形態変化を観察することで、いままでは分からなかったdirect cleavage(1つの割球から3つ以上に分裂する細胞分裂)やreverse cleavage(2つ以上の割球が1個にあわさってしまう)分裂を観察することが可能となりました。また、将来人工知能 (AI) ツールにより、このようなマーカーなど胚選択をさらに改善する可能性があります。


 胞胚腔の自然虚脱(SC)は、胚の生存率のマーカーの可能性があると多数報告されているものの 1 つです。 収縮または縮小としても知られる SC は、ヒト胚盤胞の 7 日目までの拡大過程で発生する可能性があり、通常はSC後に再拡大が起こります。2022年のCimadomoらの報告では、胚盤胞SCの有無で胚盤胞の優先順位を下げるために使用できる可能性があるとしています。
この研究では、異数性、妊娠率、出生率、流産率の観点から、SCの予後因子として総合的に評価しています。


 SCの定義は、栄養外胚葉表面の50%以上や20%以上が透明帯から分離されている胚盤胞というのもや胚盤胞の容積が50%減少したものがありました。
7つの研究からのデータを統合した結果、SCの発生率は37.0%(n = 6801)でした(17.2%〜56.2%)。


・妊娠率
SC を を1個以上含む胚盤胞移植は、SC のない胚よりも継続妊娠率が有意に減少しました。PGT-A の有無によるサブグループ解析では、正倍数性胚群と未検査の胚盤胞群の両方でSCを を1個以上認めた胚の継続妊娠率が減少しました。 


・生存率
 SC を1個以上含む胚盤胞移植は、SCのない胚盤胞よりも出生率が減少しました。PGT-A の有無によるサブグループ解析では、SC を1個以上を含む正倍体胚盤胞は、SCのない胚盤胞よりも出生率が低いも、統計的に有意差はありませんでした。しかし、SC を を1個以上含む未検査の胚盤胞は、SCのない胚盤胞よりも出生率が有意に減少した。


 1個のSCを持つ胚盤胞とSCのない胚盤胞を比較した場合の出生率に有意差は検出されませんでした。Bodriらは多変量解析後、胚盤胞 SC 数と出生との間に明確な関連性がないと報告しました。 さらに、Cimadomoらも、SC 胚盤胞 (生存またはその後変性) の割合と採卵ごとの累積出生率との間に関連性がないと報告しました。


・正倍数性率
 メタ解析では、SC を1個以上含む胚盤胞はSCのない胚盤胞よりも正数性率が低いことが示されました。
 Cimadomoらは、1個のSC、複数の SC を含む胚盤胞を、SCのない胚盤胞と比較したところ、1個のSCを含む胚盤胞移植は複数の SC を含む胚盤胞より、より高い正倍数性率を示していました。 重回帰分析でも、SC の発生と正数性の間の相関関係もみられました。


・流産率
 SC を1個以上含む胚盤胞移植では、SCのない胚盤胞移植よりも統計的に有意ではないものの流産率が高くなることが示されました 。


<結論>
 このメタ分析によると、SCは正倍数性および妊娠率に悪影響を及ぼす可能性があり、胚盤胞の生存率のマーカーとしてSCが挙げられるましたが、SCの定義が研究により異なるなどありさらなる研究が必要であります。ただ、一部の出生率と流産率の差は統計的に有意ではありませんでした。


 胚盤胞虚脱の原因はわかりませんが、Togashiらはナトリウムポンプの機能や細胞接合構造が維持できず水分が奪われ、栄養外胚葉細胞が損傷することによりSCがおこる可能性を報告しています。再膨張にはかなりの量のエネルギーが必要となるため、SCは胚盤胞への損傷と関連している可能性があります。


 大きな収縮、回復時間の長さ、SCを繰り返しは、SC胚盤胞の形態を悪くします。また、SCを示す胚盤胞では、非SC胚盤胞と比較してその後の変性率が増加したことが報告されているということでした。

原因不明不妊症に対するERHREのガイドライン

生殖補助医療モニタリング国際委員会 (ICMART) は、「原因不明の不妊症」を「明らかに正常な卵巣機能、卵管、子宮、子宮頸部、骨盤を持ち、適切な性交頻度を持つカップルにおける不妊症」と定義され、割合は約30%ほどと報告されています。この報告では年齢 40 歳以下という項目も含まれています。



「原因不明の不妊症」に対するESHREのガイドラインが発表されました。


Human Reproduction, Volume 38, Issue 10, October 2023, Pages 1881–1890
をご紹介いたします。



裏付けとなる証拠の強さに基づいて (高 ⊕⊕⊕⊕、中 ⊕⊕⊕◯、低 ⊕⊕◯◯、非常に低い ⊕◯◯◯)のグレードが割り当てられました。強い推奨事項はほとんどの患者に適用されるべきということです。



・排卵の確認
規則的な月経周期であれば、排卵の確認のため尿中 LH 測定、超音波モニタリング、黄体中期プロゲステロン測定などの検査が可能 
条件付き ⊕○○○


・卵子/黄体の品質
規則的な月経周期であれば、全症例にルーチンでの黄体中期血清プロゲステロンレベルの測定は推奨できない
条件付き ⊕○○○


不妊症検査において、一般的に組織学的検査のための子宮内膜生検は推奨されない。
strong ⊕⊕○○


・卵巣予備能
規則的な月経周期であれば、不妊症の病因を特定したり、6 ~ 12 か月にわたる自然妊娠の確率を予測するための卵巣予備能検査は必要ありません。
strong  ⊕⊕○○


・卵管因子
子宮卵管造影超音波検査(HyCoSy)および子宮卵管造影検査(HSG)は、腹腔鏡検査や通気検査と比較して、卵管開通性について有効な検査です。(HSG と HyCoSy は診断能力において同等。)
strong  ⊕⊕⊕○


卵管開存性に関するクラミジア抗体検査は、卵管閉塞のリスクが低い患者と高い患者を区別するための非侵襲的検査と考えることができる。
条件付き ⊕○○○


・子宮因子
原因不明の不妊症の女性の子宮の形態異常を除外するには、超音波、できれば 3D が推奨されます。
strong  ⊕○○○


MRI は、原因不明の不妊症の女性の正常な子宮の構造と解剖学的構造を確認するための第一選択検査として推奨されません。
strong  ⊕○○○


子宮腔の超音波評価が正常であれば、さらなる評価は必要ありません。
strong  ⊕○○○


・腹腔鏡検査
原因不明の不妊症の診断には、ルーチンでの診断用腹腔鏡検査は推奨されない。
strong ⊕○○○


・子宮頸部/膣の検査
性交後検査(フーナー検査)は、原因不明不妊症カップルには推奨されません。
strong ⊕⊕○○


膣内細菌叢の検査は、原因不明不妊症カップルに対して研究的には検討される可能性があります。 
研究のみ


・男性の生殖器と泌尿器の解剖学
WHOの基準に従った精液分析が正常な場合、精巣画像検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


・男性追加検査
WHO の基準に従った精液分析が正常である場合、精液中の抗精子抗体の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精子のDNA断片化の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精子クロマチン凝縮検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


WHOの基準に従った精液検査が正常である場合、精子異数性スクリーニングは推奨されません。
strong ⊕○○○


WHOの基準に従った精液分析が正常であれば、血清ホルモン検査は必要ありません。
strong ⊕○○○


WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精液のヒトパピローマウイルス(HPV)検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精液の微生物検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


・全身的な追加検査
原因不明の不妊症を持つ男性または女性の血清中の抗精子抗体の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


原因不明の不妊症を持つ女性のセリアック病(自己免疫疾患)の検査を検討することができます。
条件付き ⊕⊕○○


原因不明不妊症の女性における甲状腺抗体およびその他の自己免疫状態(セリアック病を除く)の検査は推奨されません。(TSH 測定は、妊娠前ケアにおけていいと考えられています。)
strong ⊕○○○


TSHが正常範囲内にある場合、女性における追加の甲状腺評価は推奨されない。
strong ⊕○○○


原因不明不妊症女性に血小板増加症の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


原因不明不妊症の男性の精液中の酸化ストレスの測定は、研究の一環としてのみ考慮されるべきです。 
研究のみ


原因不明の不妊症の女性における酸化ストレスの測定は推奨されない。
strong ⊕⊕○○


遺伝子検査またはゲノム検査は現在、原因不明の不妊症を持つカップルには推奨されていません。
strong ⊕○○○


女性のビタミンD欠乏症の検査は、原因不明不妊症の診断には推奨されません。
strong ⊕○○○


女性におけるプロラクチン検査は推奨されません。
strong ⊕○○○


・治療
卵巣刺激を行った人工授精は、原因不明の不妊症を患うカップルの第一選択治療として推奨されています。
strong ⊕○○○


・積極的な治療
原因不明不妊症のカップルでは、卵巣刺激を行った人工授精よりも体外受精が推奨されない可能性があります。(体外受精を行うかどうかの決定は、年齢、不妊期間、以前の治療、以前の妊娠の有無など個別に決定されます。)
条件付き ⊕○○○


原因不明不妊症カップルにおいては、顕微授精より精子をかけるだけの媒精が推奨されます。
strong ⊕○○○


・機械的・外科的処置
いつもの診察で見られない子宮内異常の検出の可能性を目的とした子宮鏡検査は推奨されません。
strong ⊕⊕○○


油溶性造影剤を使用した卵管造影検査は、水溶性造影剤よりも好ましい。 油溶性造影剤による卵管フラッシュのリスクと利点については、原因不明不妊症カップルと検討する必要があります。
条件付き ⊕⊕○○


子宮内膜スクラッチは、原因不明の不妊症の場合には行われるべきではありません。
strong ⊕⊕○○


代替治療アプローチ
不妊治療を受けている女性に対する補助的な経口抗酸化療法は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕○○○


不妊治療を受けている男性に対する補助的な経口抗酸化療法は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕○○○


女性への鍼治療は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕⊕○○


女性におけるイノシトールの補給は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕○○○


というESHREの発表がありました。

妊娠前の抗生剤は妊娠率に影響するか?

妊娠前の抗生剤投与が妊娠に影響するか検討した報告をご紹介いたします。


 抗生剤は、日常的に使用されており、調査によると妊娠前の30 日間に、デンマーク人女性の 4.9% が抗生剤の処方箋を受け取っていたようです。アモキシシリン、ゲンタマイシン、またはサリノマイシンなどの抗生剤の使用は、齧歯動物(ねずみやハムスターなど)の生殖能力の低下するといった報告や、ヒトの精液や男性の生殖組織に悪影響を与える可能性があると報告されております。しかし、抗生剤は生殖器官の性感染症を治療することにより生殖能力を改善する可能性もあります。
 Grodstein F(排卵障害のある女性 1,880 名と対照 4,023 名)らやCrowe HM(9524人を対象)らの米国の研究では、抗生剤の曝露と生殖能力にはほとんど関連性がないと報告されています。
 職場で抗生剤を取り扱うデンマークの薬局助手に関するあるSchaumburg Iらの研究では、抗生剤を取り扱わない同僚と比較して妊娠率が低下したと報告されています。対照的に、妊娠を望んでいる方を対象とした研究では、自己申告による抗生剤の曝露と生殖能力の低下にはほとんど関連性がみられませんでした。


 この報告は、抗生剤の使用および抗生剤の種類が、生殖能力の低下と関連しているか調査しています。


Fertility and Sterility® Vol. 120, No. 3, PT. 2, September 2023 0015-0282


 対象として、男性パートナーと関係を持ち、不妊治療を受けておらず、妊娠を希望している18~49歳のデンマーク人女性居住者を最終的に9,462人で検討しています。


 9,462人の11.9%(1,130人)が1種類以上の抗生剤が処方されていました。
2.8%(263人)が1種類処方、6.6%(625人) 2 種類処方、2.6% (242人) が 3種類以上処方されていました。 8.6% がペニシリン系、2.1%がスルホンアミド系、1.8% がマクロライド系の処方でした。9,462人、34,518回の月経周期で、5,846人(62%)が妊娠していました。



 抗生剤非使用者と比較した場合、抗生剤使用者の妊娠したの調整後比率は0.86でした。 これは、抗生剤使用した方が妊娠しにくくなるという結果でした。ペニシリン、スルホンアミド、マクロライドの使用の場合、調整後の妊娠した比率はそれぞれ 0.97、0.68、 0.59 でした。 ペニシリン系抗生剤は妊娠には影響なく、スルホンアミド、マクロライドの使用した場合妊娠率が低下した可能性があります。
 1,130人の抗生剤使用者での分析では、ペニシリン使用者と比較した場合、スルホンアミド使用者では調整後の妊娠した比率 0.73、マクロライド使用者の場合は0.59と、マクロライド系抗生剤の使用が妊娠に影響した可能性があります。また、BMI ≧ 25 の参加者では調整後の妊娠した比率  :0.67、 BMI が 25 未満の参加者では、0.97とBMI ≧ 25 で妊娠しにくくなっていました。 



抗生剤の使用と生殖能力の関連性は、30歳未満の参加者と比較して、30歳以上の参加者の方が強い結果でした。


<まとめ>
 この前向きコホート研究では、処方された抗生剤に関する登録ベースのデータを元に、抗生剤(スルホンアミドまたはマクロライドの使用)は、使用しない場合と比較して生殖能力の低下と関連していました。 この関連性は、高齢で体重の重い参加者で最も強く現れました。ただ、生殖能力の低下との関連性が薬剤の影響ではなく、抗生剤を使用した元となった感染症の影響である可能性は否定できません。




 葉酸は、卵の成熟、受精、胎児の成長に不可欠です。 スルホンアミド系抗生剤は葉酸と拮抗する薬剤です。この葉酸を阻害することで生殖能力の低下に関係しているのではないかと考えられます。
 マクロライド系抗生剤の使用と生殖能力の低下には、他の種類の抗生物質と比較して最も強い結果でしたが、作用機序はわからいということでした。

採卵時期と凍結胚移植の成績

季節により体外受精の成績が異なるという報告や季節とは関係がないという報告があります。


Human Reproduction, 2023, 38(9), 1714–1722


 Vandekerckhoveらのベルギーの報告では、日照時間が長くなり、雨の日が少なくなり新鮮胚移植の出生率の増加に関連したという季節変動の研究があります。イスラエルでは日照時間の増加、イランでは秋になると、受精率や胚の質など改善が報告されています。ただ、臨床妊娠率は増加しているが、生児出生率は増加していないようでした。
カナダの報告では、移植時の季節が妊娠率および出生率に影響を及ぼさず、イスラエル研究では合計17,485サイクルの凍結胚移植(FET)サイクルが行われたが、臨床妊娠率は胚移植時の季節に影響は見出されませんでした。
Correiaらによると気象季節と採卵時の気温と、凍結胚移植後の出生率との関連性が報告されている。 夏や気温が高い日に採卵した場合、出生率や臨床妊娠率と関連する可能性が高いですが、胚移植当日の気温や季節は影響しなかったと報告しています。


 この報告は、採卵時と胚移植時の季節、気温、日照時間が、南半球での妊娠転帰と関連しているかを評価しています。 



夏(12 月~2 月)、秋(3 月~5 月)、冬(6 月~8 月)、春(9 月~11 月)という気象季節ごとに分類されました。採卵時、融解胚移植時の平均気温、最高気温と最低気温、日照時間を記録されました。


平均気温(℃):低温:7.9~15.5、中等度:15.6~20.9、高温:21.0~33.9
最高気温(℃):低温:13.2~21.2、中等度:21.3~27.4、高温:27.5~43.3
最低温度   (℃) : 低温: 0.1~9.8、中等度: 9.9~14.4、高温: 14.5~27.8
日照時間:短い:0~7.6日、中等度:7.7~10.6日、長い:10.7~13.3日
また、採卵または胚移植の前14日と前28日を観測しています。


8年間の研究期間中に3,659件の凍結胚移植が実施され、1,835人の患者の2,155回の体外受精サイクルから胚が生成された。



臨床転帰
 秋を基準季節とし検討した結果、秋に採卵した卵由来の凍結胚移植は当たりの出生率が最も低くなりました。夏に採卵した胚を凍結胚移植した場合、秋由来の胚より生児出産率が30%増加したという結果でした。


 採卵時の日中の平均気温に関しては、出生率に変わりはありませんでしたが、採卵時の日照時間が長い場合(10.7〜13.3 時間)、短い場合(0~7.6 時間)と比較すると出生確率が28%増加することが観察されました。 これは、FET 当日の日照時間を調整しても一貫していました。


 移植当日の最低気温が高い場合(14.5~27.8℃)は低い場合(0.1~9.8℃)に比べて出生確率が18%低下した。春に凍結胚移植を行った場合は、秋に凍結胚移植を行った場合に比べると生児出産率が低い結果でした(OR: 0.80、95% CI: 0.64-0.98、P = 0.035)。 ただ、採卵時の季節で調整すると、有意差はなくなりました。


 採卵または胚移植の前14日間と前28 日間の平均気温と日照時間に基づいて出生率を分析したところ、出生率に統計的な差異はありませんでした。


生化学的妊娠、臨床妊娠、流産、出生率には、季節や採卵日の日照時間に基づく変化は観察されませんでした。


採卵日の平均体温または最高気温が低温に比べて中等度で流産率が最も低かったが、生化学的妊娠、臨床妊娠率、または出生率には差はみられませんでした。


凍結胚移植について


生化学妊娠率は、凍結胚移植時の日照時間が少ない場合に比べて中等度である場合に増加しました。生化学妊娠率は春に比べて秋に減少しましたが、出生率に関しては、採卵時の季節で調整した後もこの差は持続しませんでした。


臨床妊娠率、流産率、出生率には、季節、日照時間、胚移植当日の平均気温による有意差は認められませんでした。 しかし、最高気温が低温(13.2~21.2℃)と比較して、最高気温高温(27.5~43.3℃)で、流産率は42%増加しました。



採卵について


ピークエストラジオールレベルは冬で高い結果でした。
受精率の増加は、日照時間が短い群(0~7.6 時)と比較して、長い群(10.7~13.3 時)における14日間の平均日照時間と関連していた。 季節、日照時間、14 日および 28 日の平均気温、最低気温、最高気温は、体外受精サイクルあたりの採卵数や使用可能な胚盤胞率に影響はありませんでした。



<まとめ>
 この報告では、採卵時が、季節が夏であること、日照時間が長いことが、凍結胚移植の出生率に影響を与える可能性が考えられました。 夏に採卵した場合の出生率は、秋に比べて30%高く、日照時間が長い場合、短い場合に比べて28%高かった。 これらは、胚移植当日の季節等は関係ありませんでした。



季節や日照時間に関しては、メラトニンやビタミンDが関係していると考えられます。


 メラトニンは、明暗により分泌が調節されているホルモンです。メラトニンは、活性酸素から組織を守ろうとする抗酸化作用などにより、卵胞内で酸化ストレスが卵の質の低下に関係している可能性があり、メラトニンが酸化ストレスを抑制していると報告されています。
ただ、Huらはメラトニンの補給は発生学的転帰を改善するが、体外受精における出生率は改善しないと報告しています。


 Paffoniらによりビタミン D レベルも体外受精の結果に影響を与えると報告されています。されていますが (Paffoni et al., 2014)、これは子宮内膜効果によるものである可能性があると推測されています (Rudick et al., 2012)。 オーストラリアの人口では、25(OH)D レベルは夏と秋には同程度ですが、冬には急激に低下します (Voo et al., 2020)。 秋に採取された卵子では出生率が最も低かったことを考えると、卵子採取時のビタミンDレベルが重要な役割を果たす可能性は低い。 さらに、最近の系統的レビューとメタ分析では、ビタミンDレベルの出生率に対する有意な影響は見出されなかった(Cozzolino et al., 2020)。