妊娠前の抗生剤は妊娠率に影響するか?

妊娠前の抗生剤投与が妊娠に影響するか検討した報告をご紹介いたします。


 抗生剤は、日常的に使用されており、調査によると妊娠前の30 日間に、デンマーク人女性の 4.9% が抗生剤の処方箋を受け取っていたようです。アモキシシリン、ゲンタマイシン、またはサリノマイシンなどの抗生剤の使用は、齧歯動物(ねずみやハムスターなど)の生殖能力の低下するといった報告や、ヒトの精液や男性の生殖組織に悪影響を与える可能性があると報告されております。しかし、抗生剤は生殖器官の性感染症を治療することにより生殖能力を改善する可能性もあります。
 Grodstein F(排卵障害のある女性 1,880 名と対照 4,023 名)らやCrowe HM(9524人を対象)らの米国の研究では、抗生剤の曝露と生殖能力にはほとんど関連性がないと報告されています。
 職場で抗生剤を取り扱うデンマークの薬局助手に関するあるSchaumburg Iらの研究では、抗生剤を取り扱わない同僚と比較して妊娠率が低下したと報告されています。対照的に、妊娠を望んでいる方を対象とした研究では、自己申告による抗生剤の曝露と生殖能力の低下にはほとんど関連性がみられませんでした。


 この報告は、抗生剤の使用および抗生剤の種類が、生殖能力の低下と関連しているか調査しています。


Fertility and Sterility® Vol. 120, No. 3, PT. 2, September 2023 0015-0282


 対象として、男性パートナーと関係を持ち、不妊治療を受けておらず、妊娠を希望している18~49歳のデンマーク人女性居住者を最終的に9,462人で検討しています。


 9,462人の11.9%(1,130人)が1種類以上の抗生剤が処方されていました。
2.8%(263人)が1種類処方、6.6%(625人) 2 種類処方、2.6% (242人) が 3種類以上処方されていました。 8.6% がペニシリン系、2.1%がスルホンアミド系、1.8% がマクロライド系の処方でした。9,462人、34,518回の月経周期で、5,846人(62%)が妊娠していました。



 抗生剤非使用者と比較した場合、抗生剤使用者の妊娠したの調整後比率は0.86でした。 これは、抗生剤使用した方が妊娠しにくくなるという結果でした。ペニシリン、スルホンアミド、マクロライドの使用の場合、調整後の妊娠した比率はそれぞれ 0.97、0.68、 0.59 でした。 ペニシリン系抗生剤は妊娠には影響なく、スルホンアミド、マクロライドの使用した場合妊娠率が低下した可能性があります。
 1,130人の抗生剤使用者での分析では、ペニシリン使用者と比較した場合、スルホンアミド使用者では調整後の妊娠した比率 0.73、マクロライド使用者の場合は0.59と、マクロライド系抗生剤の使用が妊娠に影響した可能性があります。また、BMI ≧ 25 の参加者では調整後の妊娠した比率  :0.67、 BMI が 25 未満の参加者では、0.97とBMI ≧ 25 で妊娠しにくくなっていました。 



抗生剤の使用と生殖能力の関連性は、30歳未満の参加者と比較して、30歳以上の参加者の方が強い結果でした。


<まとめ>
 この前向きコホート研究では、処方された抗生剤に関する登録ベースのデータを元に、抗生剤(スルホンアミドまたはマクロライドの使用)は、使用しない場合と比較して生殖能力の低下と関連していました。 この関連性は、高齢で体重の重い参加者で最も強く現れました。ただ、生殖能力の低下との関連性が薬剤の影響ではなく、抗生剤を使用した元となった感染症の影響である可能性は否定できません。




 葉酸は、卵の成熟、受精、胎児の成長に不可欠です。 スルホンアミド系抗生剤は葉酸と拮抗する薬剤です。この葉酸を阻害することで生殖能力の低下に関係しているのではないかと考えられます。
 マクロライド系抗生剤の使用と生殖能力の低下には、他の種類の抗生物質と比較して最も強い結果でしたが、作用機序はわからいということでした。

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