正常受精が確認できていない胚盤胞

 「正常な受精」は、2 つの前核と 2 つの極体が存在することとして定義されます。 このような正常な受精が確認できなかった胚に由来する、非前核胚(0PN)、単前核胚(1PN)および三前核胚(3PN)から生じる胚に関する証拠は不足している。低グレード胚盤胞と同様、非 2PN 胚しか移植できない場合もあります。
 このような非2PN胚についてのレビューが発表されましたのでご報告いたします。


What happens to abnormally fertilized embryos? A scoping review 
RBMO VOLUME 46 ISSUE 5 2023


 まず、非 2PN 胚盤胞の発生率は、体外受精で2PN 率が 65 ~ 80% ですが、1PN の発生率は 1 ~ 8%、3PNの発生率は 1 ~ 7% とPapale らが報告しています。 Chenらによると6466個の卵を対象とした研究では、0PNおよび1PN胚の11.2%および14.8%が良好胚盤胞を形成し、細胞質内精子注入(ICSI)と比較して体外受精(cIVF)後の方が高いことが報告されました。Arakiらによると胚盤胞発生率は、2PN胚と比較して、1PN胚では低く、良好胚盤胞率も低い結果でした。また、前核の大きさについては、大きい方が発育が良かったようです。
cIVF と ICSI について、Itoiらによると胚盤胞到達率は1PNが2PNよりも悪く (cIVF: 2PN 55.7% vs 1PN 21.4%、ICSI: 2PN 46.4% vs 1PN 10.7%) 、着床率は以下の通りでした (cIVF: 2PN 39.0% vs 1PN 33.3%、 ICSI: 2PN 46.7% vs 1PN 0%) 。 
 1PN 胚盤胞は、cIVF の 2PN 胚盤胞と比較して、着床率がわずかに低下しており (33.3% vs 39%)、継続妊娠率も低下していました。 PGT-Aを行なった報告では0PN 、1PN 由来の胚盤胞は2PN由来の胚盤胞と同様の臨床転帰であったという報告もあります。
 0PN 胚盤胞は、2PN 胚盤胞と比較して着床能が同等か低下していると予想されていますが証拠は不十分です。
 生児獲得率は、13 件の報告で発表されており、比較対象は研究ごとに異なり、 0 ~ 66.7% の範囲でありますが、研究が不均一であり明確ではありません。


 受精確認は、観察時間により前核が確認できないこともあります。cIVF後 2 ~ 3 時間後に卵丘細胞を裸化するショートプロトコールとタイムラプス培養器を組み合わせると、前核を観察できる機会が向上されます。小林らの報告によると、タイムラプス培養器で胚を観察した報告では、0PN由来の胚盤胞は、前核を形成していないのではなく、単に早期にした前核が消失した2PNであることが示唆されています。


 当然のことながら、2PN由来の胚が理想的で優先的に移植されますが、cIVFによる1PN由来の胚盤胞しかなければ、移植の選択肢とするのも許容されるかもしれません。ただ、非2PN由来胚の妊娠が出生前や周産期に合併症を起こす可能性が高いかどうかは現時点では不明であります。また、2016 年の ESHRE 改訂ガイドラインでは、「3PN 以上に由来する胚は決して移植、凍結保存すべきではない」と記載されている。続けて、「たとえ2PN由来の移植可能な胚がない場合でも、1PNまたは0PN由来の胚の使用は推奨されない」と述べています。

PCOSでAMHが高値であればFSH投与量が増加する?

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS)の方で抗ミュラー管ホルモン(AMH)が高値であれば、FSH注射の反応が悪くなる可能性があるという報告をご紹介いたします。


Huang et al. Reproductive Biology and Endocrinology (2023) 21:121


 多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) は、生殖年齢の女性の 5 ~ 20% が罹患している排卵障害を引き起こす原因の一つです。Tummonらの報告によると、PCOSの場合、卵巣過剰刺激症候群を引き起こす可能性は 一般と比較すると6.8倍上がることがわかりました。AMH(抗ミューラー管ホルモン)が、ゴナドトロピンの卵巣刺激への反応性を予測する因子としてあげられます。AMHが著しく上昇しているPCOS女性は、クエン酸クロミフェンまたはHMGによる排卵誘発に抵抗性があるようであり、開始用量が多く必要となる可能性がいくつか報告されています。AMH > 4.6 ng/mlのPCOS症例はHMG刺激に耐性があり、ARTサイクル中に用量の増量が必要であることがKamel Aらが報告しました。
 この研究は、PCOS 患者さんの IVF/ICSI に対する卵巣刺激に反応するか、rFSH の開始用量を増やす必要性があるかを AMH値により予測できるか調べています。



825人のPCOS患者さんを対象とし、FSHの初回投与量は、BMIとAMH、卵巣にみえる小卵胞の数により調整しています。反応性が確認できるまで、24 ~ 48 時間後に25 ~ 50 IU 増量するか判断されていました。


<結果>
 825 人中508人は初期rFSH用量を増量しなかった(グループA)、317人は初期rFSH用量を増量する必要がありました(グループB)。 rFSH の初期用量を増やす必要があった PCOS 女性は、AFC、BMI、血清 T 濃度が高い結果でした。AMHレベルは、グループBが、グループAよりも有意に高い結果でした。


 多変量解析では、AMHとBMIが高くなれば、投与量の増量が必要になることが示されました。次にAMH のカットオフ値を設定するため、ROC 曲線を作成しています。AMH のカットオフ値は 9.30ng/ml で、感度は 75.4%、特異度は 63.0% でした。


 9.30ng/mlにカットオフ値を用いて、2群に分けたところ、AMH > 9.30 ng/ml群 の 58.8%、AMH ≤ 9.30ng/ml群 の18.8%と比較して、rFSH 用量の増量が必要でありました。 臨床妊娠率と出生率に有意な差はありませんでしたが、AMH > 9.30 ng/mlの女性では卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生率が高い結果でした(20.8% vs. 15.3%)。


<まとめ>
 この研究によると、血清AMHが9.5 ng/mlを超えるPCOS女性は、十分な卵胞発育するための初期rFSH用量の増量が必要でありました。このことは、過剰なAMHがrFSHに対する卵巣反応と「負の」相関があることがわかりました。臨床妊娠率と出生率は両群同様ですが、AMH が高い患者では OHSS 率が大幅に高いことが示されました。



 考えられる要因としては、Hayes Eらのin vitroの研究では、AMH が休止中の原始卵胞プールからの卵胞の発育を阻害し、FSH 刺激による前胞状卵胞の成長を減弱させることが示されました。 Chang HMやPellatt Lらの報告では、高濃度の AMH で培養されたヒト顆粒膜細胞は、アロマターゼ活性の阻害と FSH に対する卵胞の反応性の低下を示しました。 PCOS 女性に存在する高 AMH 濃度は、FSH の作用に対する阻害的な影響により、卵胞形成のプロセスに有害であると考えられます。

低グレード胚盤胞でも、妊娠すれば流産や周産期転帰などは良好胚と変わらない

低グレード胚盤胞でも、妊娠すれば流産や周産期転帰などは良好胚と変わらないという報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, 2023, 38(12), 2391–2399


低グレード胚盤胞は、妊娠率は低いものの出産につながる可能性はあります。低グレード胚盤胞移植後の臨床転帰については、臨床データが少ないために十分に研究されていません。


低グレード胚盤胞が出産する可能性と、単一胚盤胞移植を受けたカップルの周産期転帰と胚盤胞のグレードの影響を評価するために、大規模な多国籍多施設観察研究を実施されました。


<結果>
10,018人、10,964回の単一胚盤胞移植が対象となり、良好胚盤胞は 4386 個、中等度の胚盤胞は 3735 個、低グレード胚盤胞は 2843 個ありました。生児出生率は、良好、中等度、低グレード胚盤胞群でそれぞれ 44.4%、38.6%、30.2%でした。 良好胚盤胞と比較して、低グレードおよび中等度グレード群は出生率は低かった。ICMがグレード Aの胚盤胞と比較して、グレード B 、C の胚盤胞は出生率が低かった。TEも同様の所見がみられました。臨床妊娠率に関しても、生児出生率と一致していました。


ICM と TE の両方の低グレード胚盤胞では、ガードナー分類のCC と CB の周期あたりの出生率はそれぞれ 13.7% と 24.6% でした。ただ、AC、CA、BC は33%と同等でした。 CC、CB、BC 胚盤胞は、良好胚と比較すると生児出産率が有意に低い結果でした。CAとAC 胚盤胞は、数が少ないため、統計学的有意差を出せませんでした。


すべての胚盤胞のグレードにより、より高齢の女性の予測出生率が低いことを示しています。 たとえば、低グレード胚盤胞移植を受けた 25 歳の女性の予測生児率は 40%ですが、低グレード胚盤胞移植を受けた 35 歳の女性の予測生児率は は 21% でした。


流産に関しては、低グレード胚盤胞と良好胚盤胞の間、または中等度グレード胚盤胞と良好胚盤胞の間に統計的に有意な差はありませんでした。


周産期の転帰
単一胚盤胞移植後の単胎生児出生数は 4,132 例であった。 早産率、出生体重Zスコアにおいて、低グレード胚盤胞と良好胚盤胞の間に有意差はありませんでした。


<まとめ>
この研究では、良好胚盤胞(AA、AB、または BA)と比較して、低グレード胚盤胞(ICM または TE の C)の出生率は、約 30% という有意に低いですが、ある程度は期待できる出生率でした。CCの胚盤胞であっても、生児出生率は 14% でした。年齢に関しては、高齢の女性であっても、低グレード胚盤胞移植による生児出生率は15%を超えています。 流産または周産期転帰に関して、胚盤胞のICMやTE のグレード間に差異はありませんでした。

携帯電話が精液所見に影響をあたえるか?

携帯電話と精液所見に関する報告が発表されましたのでご紹介いたします。


Fertility and Sterility® Vol. 120, No. 6, December 2023 0015-0282


 およそ 6 組のカップルに 1 組のカップルが不妊症にと報告されています。不妊症とは、1 年間避妊しなくても妊娠できないことと定義されています。不妊症の臨床原因の約半分は男性パートナーに起因します。 精子数の減少として考えられる原因は、肥満、喫煙、アルコール摂取、心理的要因など、さまざまな環境およびライフスタイル要因が関連していると報告されています。


 携帯電話はここ数十年で大幅に増加しており、携帯電話から発せられる高周波電磁場(RF-EMF)が健康、特に生殖機能に悪影響を与える可能性について報告されています。携帯電話は、人体に吸収される可能性のある低レベルの RF-EMF (800 ~ 2200 MHz) を放出しているとAgarwalらは報告しています。マウスにおいてRF-EMFは、精細管における組織学的変化の異常が有意に増加し生殖能力に影響するというPandeyらの報告もあります。


 この研究では、一般の若いスイス男性2886人から収集したデータを分析しました。多数の潜在的な交絡因子を調整した後、自己申告による携帯電話の使用回数、使用していないときの位置、および精液所見との関連を調べています。 


結果
・携帯電話の使用頻度と精液の質との関連性について
 精子濃度と総精子数の中央値は、携帯電話を1日に20回以上使用する男性(濃度:4,450万/mL、総精子数:1億2000万/mL)と比較して、週に1回以上携帯電話を使用しない男性のグループ(濃度:5,650万/mL、総精子数:1億5,370万)で有意に高い結果でした。この差は、週に 1 回未満の携帯電話の使用頻度の群と比較して、1 日あたり 20 回以上の使用群では精子濃度が 21% 減少し、総精子数が 22% 減少することに相当します。1日5~10回携帯電話を使用する男性の方が、1日1~5回または週1回未満しか使用しない男性に比べて精子濃度がWHOの基準値である1500万/mL未満であることが1.4倍有意に高い結果でした。このロジスティック回帰モデルでは、携帯電話を 1 日に 20 回以上使用する男性は、精子濃度と総精子数がWHO 基準値を下回るリスクがそれぞれ 30% および 21% 増加しました。精子の運動率と精子の形態に関しては、携帯電話の使用頻度と関連していませんでした。 潜在的な交絡因子を調整した線形モデルは、1 日あたり 20 回以上の携帯電話の使用頻度では、精子濃度と総精子数の低下が有意に関連していることを示していました。


・携帯電話の位置と精液の質の関係について
 調査対象人口の85.7%が、使用しないときはズボンのポケットに、4.6%はジャケットの中、9.7%は他の場所に保管している携帯電話を入れていると報告した。線形回帰モデルとロジスティック回帰モデルの両方において、携帯電話の位置と精液所見の変化に関連性はありませんでした。



議論
 精液の質に影響を与える可能性のある複数のライフスタイル要因の中で、携帯電話の使用は、過去数十年間で使用量が大幅に増加したため、重要性を増しています。 一般集団の男性の大規模サンプルを対象としたこの研究では、携帯電話の使用頻度の増加に伴い、精子濃度と総精子数の減少が観察されました。ただし、精液量、精子の運動率、形態は使用頻度と関連していませんでした。 使用していないときの携帯電話の位置も精液所見には関係がないようでした。


ただ、使用の種類 (通話、テキストメッセージ、アプリケーションの使用) は報告されていません。



携帯電話の使用と精液所見に影響するメカニズムは、わかりませんが、以下の可能性が述べられていました。
ICNIRPによると、最大出力電力で放射される携帯電話からの高周波電磁場は、最大で 0.5 °C の局所組織加熱を引き起こします。 したがって、Mieusset Rらが報告しているようにズボンのポケットにある受話器によって発生する熱によって引き起こされる精巣の温度上昇は、精子形成と精子生成を妨げる直接的な作用である可能性があります。


また、高周波電磁場は、視床下部-下垂体-性腺軸と、性腺刺激ホルモンおよび性ステロイドのテストステロンの分泌を変化させることによって、精液の質に間接的に作用する可能性があると報告されています。

失業と流産の関係

 流産は、臨床的に確認できた妊娠の 11 ~ 21% が流産となり、流産の約 0.3 ~ 0.5% は死産になると報告されています。


 これまでの報告では、母親の高齢化、染色体異常、ライフスタイル要因、遺伝的背景など、流産の原因が明らかになっています。さらに、自然災害、大気汚染、経済低迷など、妊娠中の環境ストレスにさらされることも、流産となる可能性があります。 経済的負担や過度の仕事など、ストレスの多いイベントは、妊娠初期および後期の両方で流産のリスクが高くなります。 


 この研究は、妊娠に関する情報と女性とパートナーの雇用履歴を利用することで、妊娠中に女性またはパートナーの失業にさらされることによって流産のリスクが変化するかどうかを調査している報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 38, Issue 11, November 2023, Pages 2259–2266


結果
英国の人口ベースの調査結果によると、妊娠中の自身やパートナーの失業は、失業のない女性と比較して、流産リスクが1.985倍増加していることを示していました。


原因として、ストレス源に対する生理学的反応は、Nepomnaschyによると副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH)、副腎皮質刺激ホルモン、コルチゾールの生成を引き起こすと報告されています。これらのホルモンは流産のリスクを高めることがわかっており、CRH は子宮収縮や死産の危険因子である早産を引き起こす可能性があります。
また、収入の減少により、出生前のケアが制限されリスクのある妊娠は発見が遅れたり、発見されなかったりする可能性があり、流産の危険にさらされる可能性が高まります。


さらに、Gaileyらによると妊娠中にパートナーの失業にさらされると、在胎期間には影響を受けませんが、低出生体重児のリスクが高まると報告しています。