ヒアルロン酸を用いて精子を選別するPICSI

ICSIの際、ヒアルロン酸を用いて精子を選別するPICSIに関する報告が発表されていましたので一部ご紹介します。


Hum Reprod. 2022 May 30;37(6):1106-1125.


精子DNAq(精子DNAの質)が低下するとIVFの成功率は低下する可能性があるため、生児獲得のために精子DNAの質の向上は不可欠と考えられています。 ICSIは、精子を卵子に直接注入するため、異常な精子の侵入を防ぐ自然の機構を省略します。DNAqとICSIの治療成績との関係はあまり明確ではありませんが、男性パートナーの精子DNAqが低いと流産のリスクが高くなると報告されています。また、質の悪い精子が除去された精子と比較して、未処理の精子を使用した方が流産のリスクが高いことを報告されています。


精子DNAの質の測定を精子クロマチン構造の損傷と定義した場合、精子DNAの質は男性不妊症とART成績への影響を理解する上で極めて重要です。測定方法として様々あり、TUNEL法、コメット法、精子クロマチン分散(SCD)、アクリジンオレンジ(AO)染色などのスライドベースが一般的です。コンセンサスやガイダンスはありませんが、それぞれの長所や短所をカバーしています。ただ、テロメアの長さやDNA倍数性などは検出できません。


卵母細胞-卵丘複合体を取り巻く細胞外マトリックスの主成分であるヒアルロン酸に結合する精子(HA)は、成熟しDNAqがよく、DNAがよく圧縮されており、残存細胞質が少ないと報告されています。PICSIに関するこれまでの大規模臨床試験(Worrilow et al 2012)と小規模研究(Majumdar and Majumdar 2013)では流産率の低下が共通して報告されています。ただ、臨床成績との一貫性が低く、HA選択精子がより質の良い胚を生み出すかどうかはわかりません。


Robert Westらの報告では、HBSおよびDNAqについて分析された1247精子を分析し、 HBSとDNAqのすべての測定値は、正常精子群と異常精子群で有意差を認めました。ヒアルロン酸に結合する精子スコア(HBS)とDNAqの低下が精子の質の低下と関連しているのではないかと考えられます。
ICSIとPICSIによる出生率の予測では、通常のICSI治療と比較するとPICSIすることにより、35歳以上の急激な出生予測の低下を緩和しているグラフが提示されています。また男性年齢についてもPICSI群の方が男性側の高齢による出生予測の低下を緩和しているグラフが見られています。そのため高齢群にヒアルロン酸選択精子を使用することにより、精子DNA損傷の少ない精子をICSIに使用することで損傷した精子DNAが治療成績に及ぼす悪影響を軽減できたのではないかと考えられました。

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