ヒト細胞株によるrhCGを卵巣刺激に用いると体外受精の治療成績に影響するか?

今回、ヒト細胞株による組み替えhCGを卵巣刺激に用いることで体外受精の治療成績に影響するか調査した報告をご紹介いたします。


Human Reproduction, Volume 37, Issue 6, June 2022, Pages 1161–1174


絨毛性ゴナドトロピンベータ(CGベータ)は、ヒト細胞株(PER.C6®)によって発現される新規の組換えhCG(rhCG)です。この報告は、rhCGとFSHを併用してLong法で卵巣刺激し新鮮胚移植を行うことで体外受精の成績に影響するか調べています。


CGベータと他のhCG製剤の主な違いは、生体内で重要な生理活性に関わっているグリコシル化です。これは、糖類が付加する反応で、O-結合型、N-結合型、C-結合型、グリピエーション、リン酸グリコシル化などありますが、CGベータのグリコシル化は独特です。CGベータのグリコシル化とシアル化の程度は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株によって産生される絨毛性ゴナドトロピンアルファ(CGアルファ)とは対照的に、ヒトにおけるCGベータの生物学的活性を増加させます。関連するN-結合型α2,6-結合型シアル酸は、ヒトの循環半減期を延長する可能性があります。BroksøKyhletらによるとフェーズ1試験(000220)は、CGベータのグリコシル化が実際にCGアルファと比較して、より長い半減期とより高い効力をもたらすことを確認しています。


この報告では、Longプロトコールで卵胞刺激にフォリトロピンデルタに追加されたCGベータの影響を調査しています。


初回または2回目のIVF / ICSIサイクルを受けていた女性(30〜42歳)が試験の対象となっております。


結果
合計620人が無作為化され、そのうち619人が卵巣刺激を開始しました。515人の女性がCGベータを使用し、104人の被験者がプラセボの投与となりました。サイクルのキャンセル発生率は低く、治療群間で差はなく(0〜2.9%)でした。移植キャンセルの発生率は、 プラセボ群 で8.9%で、CGベータ 1、2、4、8および12μg用量群でそれぞれ8.7%、12.1%、20.4%、20.6%および18.4%でした。 移植がキャンセルになった主な理由は、採卵後5日目に移植に利用できる胚盤胞がなかったことです。


・ホルモン状況について
血清FSHおよびLH濃度は、刺激開始時と刺激中の治療群間で差はなく、血清LHは、刺激期間全体を通して低レベルに維持されていました。血清hCG濃度は、CGベータ用量に比例し増加し、刺激6日目に安定した濃度に達しました。フェーズ1のデータから予測された濃度に基づくと、卵胞期のCGベータによる治療は、オビドレルによるトリガー後の黄体期のhCG曝露にわずかな影響を及ぼしました。
卵巣刺激中、血清エストラジオール、プロゲステロン、17-OHプロゲステロン、アンドロステンジオン、テストステロンは、CGベータの投与量の増加とともに増加しました。採卵日の血清プロゲステロンレベルを刺激終了時の卵胞の数とサイズで補正した場合でも、CGベータ用量に関連した血清プロゲステロンの低下が観察されました。血清インヒビンBおよびインヒビンA濃度は、発育卵胞数とサイズに応じて刺激中に増加し、刺激の終わりに、血清インヒビンBおよびインヒビンAレベルは、CGベータの用量の増加とともに減少しました。


・卵巣の反応と胚盤胞の質
卵胞数については刺激6日目で、治療群間にほとんど違いはみられませんでしたが、刺激終了時には、プラセボ群と比較して、CGベータ群に12〜17mmの卵胞の減少が観察されました。対照的に、17mm以上の卵胞の数は、CGベータ群とプラセボ群で変わりはありませんでした。刺激終了時の直径が10mm以上、12mm以上、15mm以上の卵胞では、CGベータ用量の増加に伴って統計的に有意に卵胞数の減少がみられました。
平均採卵数は、プラセボ群(12.5)と比較してCGベータ投与群(9.7から11.2)で少なく、平均MII卵数はプラセボ群(9.7)と比較しCGベータ投与群(7.3から8.4)で少ない結果でした。 3日目の平均胚数は、プラセボ群(7.4)と比較してCGベータ用量群(5.1から6.1)で少ない結果でした。
採卵後5日目の胚盤胞の状態は、良好胚盤胞の平均数は、プラセボ群(3.3)と比較してCGベータ用量群(2.1から3.0)で少い結果でした。この差は、1、4、8、および12μg群で統計的に有意でした。


・子宮内膜について
平均子宮内膜の厚さは、プラセボ群で刺激6日目の 7.0mmから刺激終了時の11.0mmに増加し、CGベータ用量群で刺激6日目の 7.2–7.5mmから刺激終了時 に10.2–11.0mmとなりました。子宮内膜の3層構造や子宮内膜のエコーパターンに違いはありませんでした。


・臨床転帰
CGベータ群の妊娠率は、胚盤胞数の減少のため悪くなっております。妊娠に関してはすべての項目で、CGベータ用量群で低い結果でした。βhCG陽性率は、CGベータ用量群で34.4%から47.9%であったのに対し、プラセボ群では49.8%であり、継続妊娠率はCGベータ用量群で28.4%から39.2%であり、プラセボ群では42.9%でした。胚移植を受けた女性では、継続妊娠率はプラセボ群で48.9%、1、2、4、8、12μg用量群でそれぞれ31.9%、34.5%、50.0%、47.1%、38.1%でした。


・安全性の結果
有害事象の発生率は、プラセボ群で48.1%であり、CGベータ用量群で39.6%から52.3%でした。有害事象の発生率においてCGベータの明らかな悪影響はありませんでした。


<まとめ>
今回のCGベータ用量は耐用性が良好で、安全性も確認されました。
ただ、CGベータ群の方が、臨床転帰は悪く今回のCGベータの用量が多すぎた可能性があります。 フォリトロピンデルタとCGベータの両方が同じヒト細胞株によって産生され、チャイニーズハムスター卵巣細胞株によって産生されるFSHとhCGよりも強力であることが示されています。 したがって、これら2つの新しい組換えゴナドトロピンの最適な比率や量を再確立することは、卵巣刺激のためのFSHとLHの両方の活性を含む組み合わせ製品を開発するために極めて重要です。と締めくくられていました。



hCGが用量依存的に卵胞数に影響を与える可能性があることは、ラットおよびマウスの研究で報告されています。胞状卵胞の数は、FSHの用量で2.5IUから10IUの範囲でFSH用量依存的に増加し、これにhCGを併用すると、卵巣重量はhCG用量依存的に増加すると報告されています。比較的低用量のhCGは、小さな卵胞から大きな卵胞へと発育させさらに、低用量のhCG(0.2か0.5 IU)で8 IU FSHを補給すると、すべてのサイズの胞状卵胞における閉鎖卵胞の発生率が減少しましたが、高用量のhCG(2または5 IU)では閉鎖卵胞数が増加したという報告があります。
中等度サイズの卵胞については、CGベータ投与しても影響しない可能性があります。
複数の卵胞発育を阻害する働きをするhCGやLHは、卵胞期後期に比較的高用量の組換えLHを投与された世界保健機関のI型およびII型無排卵症の女性で報告されています。また、他の報告で、組換えLHはアンドロゲンを介した卵胞閉鎖により、小さな卵胞(<10 mm)の減少をさせているのではないかと発表されています。
エストロゲンとFSHが卵胞閉鎖を抑制するため、卵胞閉鎖を防ぐのに十分な量のエストラジオールを生成する大きな排卵前卵胞では、低濃度のLHに対する反応はそれほど大きいものではないかもしれませんが、小さい卵胞では、アンドロゲン作用が卵胞閉鎖に関連している可能性があります。
そのためこの研究では、CGベータの量を減量し、FSH/LH比を調整すれば良い結果が得られるかもしれません。

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